貴族のしなきゃならないこと







―――翌日、ライアはその日も男爵家関連で色々とやる事があった為、リールトン伯爵家屋敷で朝食を摂ると、アイゼルに連れられて馬車に乗っていた。




「今日は何をするんですか?」



「昨日の書類関係で書かなければいけない事などはすでに終わらせたので、今日はライア君の新しい領地に関係することで動く事になる」




アイゼルの言う通り、昨日は貴族になった事を記載する書類や国の大事に力を貸すという制約、それに納税の義務などのお金関係に関して、色々と書類にサインを書かされたりしたが、昨日の時点で書類関係は全て書き終えたというの話は聞いていた。



なので今日は何をするのか疑問であった為、アイゼルに質問をしてみると、そう返事を返される。




「私の領地ですか?……火竜の山周辺ですよね?」




「あぁ……だが、今そこには街も整備された道なども一切無いだろう?だから今から開拓の人員を集める為に冒険者ギルドに依頼をしに行ったり、道の整備をする土木を手配しなければな」




「なるほど……あれ?でも私はそれだけの人員を雇えるだけのお金があるかわからないのですけど……」



もし仮に火竜の森方面を開拓していくのであれば、少なくとも100……いや、色々な事を考えれば1000人くらいは必要なはずで、その1000人の移動費や開拓の間の食費、それに依頼料を考えれば、さすがに火竜討伐や傷薬の代金などすべて合わせても、さすがに足りないとライアは不安になる。



「さすがに国が領地にすると決めた場所をライア君1人に負担させるなどしないさ!開拓にかかる費用は殆どが国からの資金で賄ってくれるから安心しなさい」



ライアの心配はどうやら杞憂のようで、開拓に関しての資金はきちんと国から出るらしく、ライアがお金を使うのは自分の屋敷などを建てる分でいいらしい。



ちなみに国からの支援は実際に開拓が始まってからの様なので、それまでにどれくらいの費用が必要なのかも書面で提出しなければいけないので、それも並行して作成していくらしい。



「本来であれば新しい土地を開拓する際は、そこの領主となる予定の貴族が仕切る領地内で募集する物なのだが、ライア君は平民の身から貴族になり、領地を貰うので、王都で開拓民の募集をさせてもらうという訳だ」




アイゼルの話になるほどと納得の頷きを返す。



話をまとめると、開拓事業が行われる際は、殆どが他の領地を持つ貴族が主導となって開拓を始めるらしく、開拓民も自分の領民へ募集をかけて、国からの支援金を自領で回収するのが普通らしい。




国からの援助である資金を自領民に渡れば、結果的にその領地の資金は増えるし、新しい領地に回せるお金も増えると良い事尽くめなのだ。




「であるなら、リールトンの街で開拓民を募集した方が良いのでは?」



「それをすると他の貴族から悪評が出てしまうのだよ……『娘を開拓資金欲しさに新興の男爵家に売り払った』と言ったね」




「そんなの私がリールトンの街で募集したかったとでも言えば大丈夫なのでは?」




ライアはアイゼルが主導で動いているのではなく、あくまでライア本人がそうしているのだと主張すればいいのではと提案をする。



「ははは、そうした所でそれを信じる者はいないさ。人間というのは自分の都合の良い事ばかりを信じる生き物だからね」




「……それは……」




アイゼルの言葉に、何とか言い返そうにも実際にそうだと納得してしまう思いがあり、何も言えなくなってしまう。




「まぁ気にすることは無いよ、我がリールトンの街は十分賑わっているし、ライア君とリネットとの婚約に下手な泥を塗られるのも、父親としては我慢ならないからね!」



「アイゼル様……」




そう言えば、この人と初めて王都に向かった時も、馬車の中でリネットの事を心配し、一芝居を打つほど、父親をしている人だったなと感心をするライア。




そんな話をしていると、馬車の目的地である冒険者ギルドに近づいて来たのか、馬車のスピードが徐々に落ちていくのを感じる。




――――――ギィィ……



「む?どうやら冒険者ギルドに到着したようだね。さぁライア君、行こうか」




「はい」




ライアは馬車を降りていくアイゼルの背を追いかけて行き、目的地である冒険者ギルドの中に入って行くのであった。











――――――――――

――――――――

――――――









「こんにちは~」



冒険者ギルドに入り、1階の酒場を覗いてみれば、いつぞやのサボりギルドマスターであるガゼル・ポートリオを発見したので、用もあるのだし、気軽に声をかけることにする。




「んえ…?……おぉぉ!ライアちゃんじゃねぇか?どうしたどうした!寂しくなって会いに来てくれたのかい?」



「寂しくて会いに来たわけでは無いですけど、用がありましたので」




どうやらまたこんな朝早くからお酒を飲んでいたようで、ガゼルの座るテーブルにはお酒が置かれており、お酒臭さがこちらまで漂ってくる。



(……酒臭い……あれ?もしかして≪嗅覚強化≫の所為で余計に臭く感じてる…?)



ライアは自身のスキルの恩恵なのか、前に来た時よりも酒臭いにおいを感じてしまうようで、すかさずアイゼルの後ろの方にさりげなく逃げていく。



「んお?そちらさんは?」



「この方は私がお世話になっている方でアイゼル様です……アイゼル様、こちらこの冒険者ギルドのギルドマスター……らしいガゼル・ポートリオさんです」



さすがにいきなり知人に話しかけて、紹介も無しはいけないと思い、この人がギルドマスターだとアイゼルに伝える事にする。




「ギルドマスター殿…?……なるほど。……私はリールトン伯爵家が当主、アイゼル・ロー・リールトン。今回は依頼を頼みたく来訪した」



「………………へ?」






酒で脳が回っていないガゼルは、アイゼルの自己紹介にまともに反応が出来なかったようで、間抜けな顔を晒して、しばらく見つめ合うという不思議な空間が出来上がっていた。











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