情報屋(ロール)









部屋の前で立ち話をするのもあれだという事で、アーノルドのお部屋にお邪魔し、部屋の中で慌てていた人達もホッと安心した様子を見ながら、ライア達は部屋に置かれている椅子に着席する。



「すまないな、あれからステータスカードでの連絡しかできなかったからな……ほんの少し興奮してしまった」



「いえ、私は別に大丈夫ですよ」



アーノルドも部屋に戻る際にお付きの人達を見て、自分が興奮していた事に気付いたのか、そう謝罪をしてくる。



(……俺的には、案内をしてくれた執事さんの落ち着きっぷりの方が若干驚いたけどね)



ここに来る間に雑談を交わした老紳士と言った風貌の執事が、アーノルドのいきなりの登場にも一切動揺せずに行動していたのが、如何にもプロの使用人と言った感じであった。



ちなみのその案内をしてくれた執事はここの案内を終えると、別の仕事があるのかすぐに何処かに消えていた。



と、そんな変な事を考えている間に、机の上にケーキやクッキーのような洋菓子と紅茶を用意されていて、いつの間にかお茶会の準備が完了していた。



「さぁライア殿!今日も思う存分語らおうではないか!」



「あははは……」



先程まで興奮していてすまないと謝っていたと思ったら、すぐさま興奮しているアーノルドに苦笑いを返しはすれど、嫌な気持ちは全くなかったので、ライアは紅茶で喉を潤わせながら、アーノルドとの会話を楽しむのであった。














―――――――ウィスンSide






――――カランカラン……


「やぁウィスン君、いらっしゃい」



「こんにちはマスター……エール貰える?」




王都アンファングの住宅街にひっそりと佇み、観光客などは殆ど来ないお店“BARハイド”にウィスンは来ていた。



「はいよ……今日はいつもより早く来たんだね?」



「あぁ、今日は調べものがあってね」




店主はウィスンがこの日時に来店することが珍しいと言いたげにそうウィスンに質問を投げかける。



というのも、実は3か月前の初めて王都に来た際に、この“BARハイド”を訪れてから、ウィスンは1週間に1度のペースで通う常連客になっていた。



なぜ、味を感じる事の出来ない分身体であるウィスンを週に1度のペースで、お酒が提供されるここに訪れているかというと…。




「調べものかい?私の知っている事であれば教えてあげたいし、いつも私の話を聞きに来てくれるウィスン君の力になってあげたいから、出来るだけの協力はするよ?」



「あははは、実はそのマスターの知恵を借りられないかなって期待して来たんだよ」




そう、実はここの店主は、この王都で起きている事や様々な情報などをお酒のつまみ代わりに色々と話してくれるのだ。



……とは言っても、店に来店して来たお客の酔った勢いで漏らした情報や世間話で手に入れた情報だったりで、確実性のある情報という訳では無いのだが、それでも信憑性は高い物ばかりなので、よくお世話になっている。



そして、どうしてウィスンの事をここまで気に入ってくれているかというと実はこの店主、夜の営業時間とかになると、情報などをお客に話す際に自分もお酒を飲み始め、絡み酒で話しかけて来るので、他のお客は早々に逃げ出してしまうのだ。



「そうなのかい?私の話を聞いてくれるウィスン君には感謝しかないからね……なんでも聞いてくれよ」



とまぁそんな絡み酒の店主にウィスンが情報収集ついでに毎週付き合っていたら、このような関係になったという訳だ。



「ありがとうマスター、知りたいのはある貴族の評判……というか噂が知りたいんだ」



「ほぉ……貴族様の事は良くは知らないが、噂くらいならいくつか知ってるよ?なんて言う貴族なのかな?」



店主は如何にもどこかの情報屋っぽい雰囲気を醸し出し、ライアに貴族の名前を聞いてくる。



……ちなみにお酒が入った際は、わざと暗い雰囲気を出したり、「ひっひっひ」と変な笑い声を出したり、「本当に知りたいか…?後戻り出来なくなるぞぉ…?」と闇の情報屋的なロールプレイをし始めるので、恐らく軽い中二病に近い憧れがあるのだとライアは思っている。




「……フェンベルト子爵」



「ふむ……フェンベルト子爵家、王都から西にある鉄鉱山を所有するカルアムの町の領主で、つい40年程前に鉄が取れなくなり始めて、廃坑にするかもって噂があるね」



「鉄鉱山?」



アイゼルにはただ悪い噂が多いとしか聞いてはいなかったが、フェンベルト子爵の領地には廃坑寸前の鉄鉱山があるらしい。



「そう……でも、カルアムの町はその鉄鉱山から取れる鉄で経済を回していた所もあったらしくてね、だいぶ経済に痛い打撃を受けたらしいよ」



それならばアイゼルに聞いた黒い噂などは、その鉄鉱山から鉄が取れなくなり、廃坑になりかけているのが原因で、フェンベルト子爵が非合法な行為に手を出してしまったという理由であり得るのかも知れない。



「……それでフェンベルト子爵家は現状どうしてるんだ?」



「何も」



「え?」



ライアはてっきり、どこかから出自不明の金を調達してきたり、カルアムの町でアイゼルの言っていた非合法な薬が出回っているという話があるのかと思えば、答えは「何も」。




「……領主であるフェンベルト子爵は特に何もしていないらしいんだよ……経済を回す為の資金集めも鉱山をどうにかしようとも一切何もしていないって言う話だよ」



「それって、カルアムの町の人たちはどう思っているんですか?」




「そんなの領地内は不景気で食べ物やその他の物価も上がってるから、もちろん不満たらたららしいが、相手は貴族だから文句は言えないしね」




聞けば、カルアムの町の住人達はそれ位しか知らないらしく、非合法の薬が出回っていたり、人が突然行方不明になるといった事も無いらしい。



ただただカルアムの町の住人達には何もせず、何も干渉はしていないのだという。




(これってアイゼル様の言っていた事はハズレだったのかな…?非合法って言うくらいだから、使うと危ない薬だろうし……住人や周りにバレない方が難しいしね……)



あまり店主の話を鵜吞みにするのもいけないが、比較的この人からの情報は実際にカルアムの町の住人から聞いた話だったりするので、無下にも出来ない。




(アーノルド様は何か知っていたり……いやいや、貴族関連の事を他の騎士達がいる前で聞くなんて出来ないし、もし聞いて何か問題が発生してアイゼル様に迷惑をかけるのも嫌だし、相談は無しだな)




現在ライア本体はアーノルドとお茶会を楽しんでいる真っ最中だったので、フェンベルト子爵の話は本当なのかを確認しようと考えたが、それはダメだろうと思考を却下する。




「ふぅ……ありがとうマスター、助かったよ」



「こんな話であればいくらでも……それにウィスン君と話すときはノリに乗って来てくれるからね、こっちも楽しませてもらっているから気にしないでくれ」




店主は情報屋ムーブをひとしきり楽しんだようで、満足そうな顔をする。



ウィスンは話は聞けたので、カウンターにまだ半分ほど残っていたエールを飲み干し、店主に「また来るよ」と別れを告げて、店を出るのであった。













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