王子に会いに行く









翌日の早朝、ライアはアーノルドに挨拶をしに行く為に、アイゼルの用意してくれた馬車で王都に向かっていた。



馬車の中にはライアのみで、王城ではすることもなく、別室で待機するくらいしかできないパテルには、アインス達とリールトン家の屋敷でお留守番をしてもらっていた。



(……明日はパテルも連れて冒険者ギルドに行くし、今日は申し訳ないけど、暇を持て余してもらおう)




アインス視点でパテルが≪鷹の目≫の取得訓練をしているのが見えているので、暇ではないのかも知れないが、一応心の中でパテルに謝る。






―――――ギィィ……



「ん……着いたかな?」



コンコン…


『ライア様、王城にお付きいたしました』



どうやら馬車が王城に到着したようで、ゆっくりと馬車が止まるのを体で感じると、御者から到着の知らせを伝えられる。



――――――ガチャ



「……何度見ても綺麗な場所だなぁ……」



ライアは馬車から降りようと扉を開けば、数か月前にも見た白亜のお城と、色とりどりの庭園に囲まれた噴水の広場が目に映りこんで来る。



馬車のすぐ横にいた御者に「ありがとうございました」と伝えて、目の前の風景を眺めながら王城の入り口に歩いて行くライア。



「………前もあんまり眺めれなかったけど、これほどの庭園はそうそう見れないよね……もしかして、そう言うスキルもあるのかな?」



目の前の前世でもあまり見ない広大な庭園に、ライアは庭園の管理を出来るガーデニングのようなスキルがあるのかと思考しながら歩みを進める。



前回とは違い、今回はライア1人で庭園を眺めながら歩いていた為か、前回より長い時間をかけて王城の入り口に到着すると、そこには恐らくライアの到着を待っていたのであろう使用人が数名待ち構えていた。



「お待ちしておりましたライア・インクリース様、アーノルド王子が自室にてお持ちしておりますので、ご案内いたします」



「あ、はい……」



恐らくライアが庭園をゆっくりと鑑賞しながら歩いていたのは見られていたのだろうと思い、何となく恥ずかしい気持ちになりながらも、使用人の後ろを付いて行く。



「すいません、もっと急いで歩いてくればよかったですね……」



「構いませんよ、ここの庭園は国王陛下のお妃様で在られるカリファ王妃様がお造りになられた庭園ですので、その庭園に見惚れたという事であれば嬉しくはあれど、非難などある訳もございませんよ」




案内をしてくれている使用人はライアにそんな心配などしなくてもいいとでも言いたげに、とても優しい笑顔でそう言ってくれる。



「……王妃様はお花がお好きなのですか?」



「花だけ…という訳では無く、カリファ王妃様は草や野菜、樹木などもお好きな方で、外の庭園以外に果樹園や小さな畑などもお造りになられているのですよ?」



何と、外の美しい庭園のみならず、様々な草花がお好きな王妃は自前の畑まで持っているらしい。



ライアは実家が農家という事もあり、色々と不思議な親近感に似た感情が溢れて来る。




「素敵な方なんですね……」



そんな風に王妃様の大規模な家庭菜園の話に盛り上がりながら、王城の中を進んで行くと、前にも見た事のある扉の前に到着し、そこがアーノルドの部屋だとすぐに思い出す。



――――コンコンコン


「アーノルド王子、ライア・インクrガチャ「来たか!!!」……」



使用人が扉を叩き、前向上を言い切る前にアーノルドは扉を開け、飛び出て来る。



部屋の中には護衛の騎士や世話係らしきメイドなのが慌てている様子も見えていたので、ノックの音が聞こえて、周りの人が止める間もなく移動したのだと予想が出来た。



前向上を唱えていた使用人は特に慌てることなく、プロ顔負けの冷静さで、扉の前から横に移動し、アーノルドの邪魔をしないように立ち振る舞う。



「おぉぉライア殿!待っていたぞ!!」



「あははは……アーノルド様、お久しぶりでございます」



アーノルドはライアに会えることに興奮が止まらないのか、勢いのままライアに声をかけて来るので、苦笑いを浮かべたままライアは挨拶をする。



「私はライア殿と会えるのを心待ちにしていたぞ!……それにしても」



アーノルドは一旦言葉を切ると、ライアの姿を上から下までじっくり観察して、目をキラキラさせながら言葉を伝えて来る。



「ライア殿のそのドレス姿は素晴らしいな!とても似合っている!」



「あぁ……これはお世話になっている屋敷のメイド達が用意してくれたもので……」




そう、実は朝起きて、王城に向かう前にシシリーに捕まり、昨日試着していたドレスの中で、謁見には着て行かないが、とても似合っているので着ないのはもったいないと言われたドレスを無理矢理着せられ、そのまま王城に向かわされていた。



ライアの恰好は、鎖骨が露出した黒を基準に赤色の下地がアクセントになっている膝下丈のティー・レングス・ドレスのようになっていて、腰はコルセットを巻き、ウエストを細く、くびれを強調させて、スタイルの良い貴族令嬢のような姿になっている。


髪型に関して、サイドの髪を少し編み込み状に後ろへ伸ばしていったオシャレな髪型で、化粧はそれほど変わらないナチュラルメイクで仕上げてある。



その気合の入り具合に、ライア自身もアーノルドと女装の話をしに行くのだし、この格好でもまぁ悪くはないかと考えを改め、特にどこかで着替えようともせずにここまで来ていた。




「素晴らしいよ!ぜひその着こなし術も伝授してほしいものだよ師匠!」



「師匠はやめてくださいって……」




ライアの言葉にアーノルドは「アハハ!そうだったね!」とあまり反省の色は無い様子なので、これはこれから先も注意しなきゃいけないかと思うのだった。










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