アイゼルとの会話
「それにしても、どうして今回の報告会の開催場所がそのフェンベルト子爵の所になったんでしょうか?」
「恐らくだが、フェンベルト子爵の息子の一人が錬金術師をしているからだな……息子の為に居場所の提供をしたのだろう」
フェンベルト子爵の錬金術師をしている息子とやらはどうやら三男で今年18歳になる青年らしく、その青年が主催で今回の報告会が開かれるらしい。
一応そのフェンベルト子爵の三男は貴族学院でリネットの一つ下で後輩らしいのだが、リネットとの面識は無いらしいので、全くどのような人物かはわからないらしい。
「なるほど……わかりました」
「うむ……開催日時は2週間後の正午だと聞いているので、そのつもりで頼むよ」
アイゼルは報告会の件は伝えたぞと話を一旦締める。
(2週間後か……王都でする事なんて、冒険者ギルドに挨拶しに行く事とアーノルド様に会いにいく事しか無いし、どうしようかな…?……あれ?そう言えば…)
「すいませんアイゼル様、国王様との謁見って……」
「あぁすまない、そちらも伝えていなかったか。国王陛下との謁見は5日後に行われるので、その間にメイドのシシリー達と衣装相談をしておいてくれ」
アイゼルはライアの後ろで控えていたシシリーに目線を送り、ライアもそれにつられて後ろを向くと、何やら気合の入った様子のシシリーが目に入り、苦笑いを溢してしまう。
「アハハ……わかりました」
「……まぁ服装に関しては国王陛下からは特に言われる事はないと思ってくれて構わないから、自由にしなさい……」
シシリーの表情を見たアイゼルは、ライアがまともな男性の服を着させてもらえないと瞬時に悟り、仮に女装をしていても不敬罪になる事は無いと遠まわしに伝えてくれて、ライアの心が少しばかりホッとする。
……同時に後ろのシシリーに「では自重などはせずにやり遂げます」と余計な気合が入る結果になってしまったのは2人の知る由も無かったのだ。
「あぁそれと、国王陛下との謁見とは別だが、アーノルド王子から『王都に来られたらぜひ王城に遊びに来てくれ』とモーゼス経由から伝言を預かっているが……」
「あぁ、その事はこちらでもステータスカードで何度も呼ばれているので、もしよろしければ明日にでもアーノルド様にご挨拶に向かおうかと思っています」
アーノルドはこの国の第一王子でありながら、女装趣味を持ち、ライアに弟子入りしようとする変わった人で、王都を離れてからは度々ステータスカードで連絡を取り合っていた人物である。
そのアーノルドとは、ついこの間のリールトンの街から王都に向かっている馬車の中でも何度も連絡を取り合うほどで、ライア自身も王子という肩書きにそれほど緊張しないで喋れるようになって来た友人に近い関係になっていた。
(まぁそれでも師匠呼びはさせないし、様付が取れる事は無いけど)
いくらアーノルド自身がライアに気を許し、気安く接してくれと言って来ても、ライア自身が小市民としての心が無くなることは無いので、今でも敬語と様付で連絡はしているが。
「……アーノルド王子と登録していたのか…?」
「成り行きでしたね……」
アイゼルはライアとアーノルドが女装関連でお茶会のような物を開いていたのは聞いてはいたが、連絡先を登録しているほどの関係になっていたとは思っていなかったのか、大変驚いた表情をする。
「まぁ仲が良くなる分には問題は無いだろう……明日の件も了解した。明日の朝に王城へ向かう馬車を用意させよう」
「ありがとうございます」
最初は歩きで行こうとも思っていたが、王城に歩きで入れるのかもわからなかったので、アイゼルの気遣いを素直に受け取り、お礼を返す。
「……今の所ライア君に
「はい、私も聞きたい事は確認出来ましたので、このまま失礼させてもらいますね」
国王との謁見や報告会の事など、聞きたかった事は全て聞けたので、未だアイゼルの前に溜まっている仕事の邪魔をするものでもないと、早々と部屋を出る事にする。
そんなライアを仕事をする手を止めずに笑顔で「あぁ、ではまた夕食でな」と見送られ、部屋を退出するライアと後ろで待機していたシシリーであった。
「ライア様はお部屋に戻られますか?」
「そうですね、冒険者ギルドに挨拶に行くほどの時間は無いですし、今日は部屋で静かにしています」
アイゼルの執務室から出ると、シシリーがライアにこの後の予定を確認してきたので、特に今すぐ何かをする予定は無かったので、そう返事を返す。
「わかりました、では予定が無いのであれば、5日後の衣装の為に採寸と衣装合わせにお付き合い願えませんか?」
「え"ぅ"ッッ!?」
てっきり衣装合わせや衣装直しなどは後日行われるものと思っていたライアは全く予想をしていなかったシシリーのお誘いに驚き、変な声をあげてしまう。
「今回ライア様が再度国王様に謁見されると聞いてから、私共メイド一同でデザインの候補などは用意させていただいておりました。なので、後はライア様の希望と“我々メイド一同”の目で確認して、衣装を決定しようかと」
「………はい……」
シシリーの“我々メイド一同”と強調された一言に、これから何人ものメイド達にお着替え人形にされるのだろうなぁと理解し、渋々了承の返事をする。
(…まぁシシリーさん達も親切でしてくれるし、俺以外のメイクも勉強になるし、いっか……)
「ではこちらへ」というシシリーに苦笑いを返しながらも、まぁいいかとその後ろを付いて行くライア。
(……そう言えばさっきのアイゼル様、少し変な言い方したな?俺に“言えるのは”って、まるで俺には言えない何かがあるみたいだけど……)
どうにも先ほどのアイゼルの言い方に違和感を覚えていたライアはシシリーの後ろを歩きつつ、思考を回す。
(俺に言えない事だとするなら、別にいいんだけど……もし本当に言えない情報があるんだったら、アイゼル様はそれを悟らせないような喋り方をすると思うんだけど……)
アイゼルの事を色々と知っている訳では無いが、最初に王都へ馬車で向かう際に、リネットの事を聞かれた時のように偽の感情を読み取らせ、こちらの情報を引き出そうとまでする人が、そのようなミスをするとは思えない。
(……つまり言えなくはないが、現在は隠しておきたい事でもあるって事かな…?)
どちらにしろ、隠された情報を暴きたいわけでも、知りたいわけでもないライアは何となく胸にシコリが残ったような感覚を覚えるが、あまり気にしないでおこうと決めるのであった。
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