貴族の悪い噂










―――――コンコンコン


『ライア様、大旦那様から報告会の件でお伝えしたい事があるそうなので、お迎えに参りました』




リールトン家の屋敷に来てから、スキルの検証をパテルとしばらく続けていたら、廊下からシシリーの声が聞こえて来る。



「あ、はぁーい!今行きます!」



ライアは廊下にいるであろうシシリーにそう返事を返して、すぐに部屋を出ようと準備する。



実はアイゼルが報告会の件で呼び出すのには心当たりがある。



というのも実はリネットから報告会で何をするのかはきちんと聞いたのだが、報告会が行われる場所が毎回違うそうなので、きちんとどこで開催されるのかを知る必要があるので、それをアイゼルに確認をお願いしていたのだ。



報告会の開催場所は基本的に貴族の所有している講堂や貴族学院などで行なわれる為、場所の特定は貴族に任せた方が早いとリネットからアイゼルに調べるのをお願いしていたので、開催場所が分かり、呼び出されたのだと予想する。




――――――ガチャ


「お待たせしました」



「いえ、ではこちらに」










―――――コンコンコン


「大旦那様、ライア様をお連れいたしました」



ライアはシシリーに案内されて、前回の時にもお邪魔した事のある執務室に案内される。



『どうぞ』



「失礼します」



中からアイゼルの入室の許可が下り、ライアは執務室の扉を開け、部屋の中に入る。



部屋の中には護衛の騎士もいるが、比較的ライアを警戒している様子は無く、寧ろ何か仕事が忙しいのか、アイゼル含め数人の人間が書類作業をしており、何となく場違い感を覚える。



「あぁライア君、リネットからお願いされていた錬金術師達の報告会の開催場所が分かったので、呼ばせてもらったよ」



「あ、ありがとうございます……えっと、忙しそうであれば、後回しにしてくれて構わなかったのですが……」



アイゼルの目の前の机には何かの承認待ちの書類らしき紙がドンっと置かれており、ライアに声をかけている間も手を動かし、何かを記入している様子で、とても忙しそうだったので、ライアはそう言葉を漏らす。



「ははは!あまり気にしなくても構わないよ。これくらいの仕事は慣れているし、作業をしながら話をする余裕もあるからね」



「はぁ……」



アイゼルは何とも逞しい返事を返してくるが、どう考えてもそのように余裕で話しながらできる仕事量ではないと感じながら、ライアはこれ以上言うのも失礼だと、曖昧な返事を返す。




「それでなのだが、ライア君が参加する報告会の開催場所なのだが……実は面倒な場所で開催されるらしいのだよ」



「面倒……ですか?」



アイゼルは先ほどまで笑いながら話していた様子と打って変わり、ライアに対して真面目な表情を向けて、そう言ってくる。



「うむ……今回開催場所になっているのはフェンベルト子爵家の保有する講堂らしいのだよ」



「フェンベルト子爵……面倒というのは何かその子爵家の問題ですか?」




ライアは元々知らない貴族の屋敷に行くだけでも心が悲鳴を上げるほど面倒に感じるが、アイゼルの話し方ではそう言った意味合いではないのが分かっている為、そのフェンベルト子爵家に問題があるのかを質問する。



「まぁ言ってしまえばそうだな。……私も直接会ったことは無いのだが、地方にあるフェンベルト子爵家が管理している領地では未確定だが、違法な薬物の取引が行われているという話があり、その他にも色々と悪い噂が絶えない人物なのだよ」




アイゼルの話を聞いて行くと、やれ薬物の密売であったり、領民に対して無理な増税をしていたり、挙句には非合法に一般市民を犯罪奴隷に仕立て上げているという話もあるそうだ。



「犯罪奴隷って人を殺めたりして、称号に【人殺し】があったり、余程の罪を犯さないとならないんじゃ?」



前に奴隷に関してはゼル達に教えてもらい、犯罪奴隷と借金奴隷の2種類があるのを覚えているが、犯罪奴隷に関してはステータスカードの【人殺し】の称号などで判断して犯罪奴隷に落とすと聞いてたので、それは無理なんじゃ?とアイゼルにそう伝える。



「確かに普通に考えれば罪もない人間を犯罪奴隷に落とすことは出来ないのだが、一応出来なくも無いのだよ。……例えば他人に他人を襲わせて【人殺し】を取得させたり……ギルドと結託して、ステータスの改ざんを行ったりとね」



「冒険者ギルドが…??」



ライアはこの世界で知った、とても優しい人たちが集まる冒険者ギルドという組織が、そのような悪事に手を貸しているとは思えず、驚愕の表情をしてしまう。



「例えばと言ったろう?別に冒険者ギルドが悪事に加担していると断定した訳では無いし、何よりこれはまだ噂の域を出ない話なのだ」



「あ、すいません…」




アイゼルの言葉に少しだけ冷静さを取り戻したライアは、申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べる。



「とまぁこれだけ言ったが、全てまだ確証がない噂なのだ……だが、フェンベルト子爵に対していい噂を聞かないのは事実だからな……ライア君には報告会では気を付けて欲しいのだよ」



アイゼルは先ほどまでの真剣な表情と打って変わって、子供を心配するかのような優しい顔でそう注意してくる。



今聞いた事は実際にそれらの噂がある以上、確実な黒では無いにしろ、何かあくどい事をしている可能性が高いので、報告会に行った際に平民であるライアが何かしらフェンベルト子爵に目を付けられ、被害を受けるといった事もあるかも知れないとアイゼルは思っているらしい。



「あ、ありがとうございます……一応貴族の皆様に無礼をしないように気を付けて、礼儀正しくしておきますね!」



ライアはアイゼルに心配させまいとそう意気込みを語り、面倒事が起きないように自分の役割を済ませたら大人しくしておこうと心に決める。



「………」



「……アイゼル様?」



「……いや、何でもないよ」




アイゼルは何やら心配をしている表情がさらに深まったような顔をしている気がしたが、何でもないと返されてしまったので、ライアはそれ以上は突っ込まなかった。













―――――――アイゼルSide







「あ、ありがとうございます……一応貴族の皆様に無礼をしないように気を付けて、礼儀正しくしておきますね!」



「………」



アイゼルは自身の心配を口に出し、ライアに注意を投げかければ、やけに気合の入った意気込みを返され、少し思考に疑問が生まれる。




(この子が大人しく礼儀正しい姿はどこぞの貴族令嬢にしか見えないが……寧ろそれで平民の出だと知られれば余計に目を付けられる可能性が高いのでは……?)



とアイゼルはライアの意気込みを聞きそう感じてしまい、何か避けられぬ何かが近々起こるのでは?と考え込んでしまっていた。





「……アイゼル様?」



自身の考えに没頭していたアイゼルはライアの声に我を取り戻し、何かライアに言うべきかを考えるが。




「……いや、何でもないよ」




もし仮にこの考えを言おうものなら、どう伝えればいいのかも分からないし、言った所でどうする事も出来ないだろうと自分の考えを伝えることをやめ、特に問題は無いと話を切り上げる。



「………?」



ライアはアイゼルの様子にほんの少し疑問があったようだが、特に何も言わないでいてくれた。













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