錬金術師の報告会









「王都に向かったら、恐らく≪合成術≫の事に関して、色々と説明を求められると思うのですが、もし他の貴族なんかに“リグの事をよこせ!”などと言われてもリールトン家の名前を出してもいいので、はっきりと断るのですよ?」



「……俺…気が重いんですが……」



領主邸から工房に戻って来ていたライアは、王都に行った際に≪合成術≫関連で起こるであろう問題の注意事項をリネットに注意されていた。



本来、今回≪合成術≫に関しての報告書の説明で、王都に行くはずだったリネットなのだが、ダンジョン発見により、ライアが王都に行かなければいけなくなったからと、リネットの担当であったその件もライアが行う事になった為であった。




「さすがに俺が他の貴族達相手に合成魔石の説明なんて、心臓が持たないと思うんですが……」



実は今回リネットに注意されている内容というのが、王都で行なわれるという錬金術師同士の報告会に参加しなければいけないという話であった。



その報告会というのに参加するのは、殆どが貴族学院を卒業した貴族の錬金術師ばかりらしく、そこでライアは≪合成術≫に関してわかったことなどを発表しなければならないらしい。



普通はそう言った催しに平民のライアが出るのはどうなのかと思ったが、平民の錬金術師も要るし、何より錬金術師はリネットのような研究者気質の人が多いらしく、あまりそう言った差別的考えはないらしい。



だが、その分実力主義な部分もあるし、何より自分の研究を優先しようと先ほどリネットが注意したように、貴族の権力を使って強引な引き抜きはあるだろうとも言われた。



そんな場所にライア1人送られてもキツイとリネットには伝えるが「ライアなら大丈夫なのですよ」と何の根拠もない言葉を投げかけて来る。




「ライアはあまり自分を卑下しなくていいのですよ?ライアは火竜を討伐して国王陛下から家名と【竜騎士】という称号を貰った人物なのですよ!それに、今回のダンジョン発見の功で国王陛下からまた褒美を貰えるのです……ライアは傍から見たら下手な貴族より発言力のある立場になっているのですよ?」



「そうなんですか?」



確かにライアは変に目立っている自覚はあるが、それが他貴族よりも影響力が上になっているというのは些か信じられない。



「当たり前なのです。ライアは今や国に多大な貢献を成して、国王陛下にいい意味で覚えられている人物なのですよ?そんな人物に子爵位以下の貴族があーだこーだ言えると思うのですか?」



「……言われてみれば、確かに?」



ライアはもし仮に、自分が男爵貴族のような、平民よりは偉い位の立場の人物だと仮定して考えてみて、国王に何度も褒美をもらっている英雄に、要らぬ手出しをすれば国王に悪い印象を与えそうだと、尻込みしそうだと考える。



「だから、ライアは仮にその報告会である程度失礼をしても大丈夫という訳なのです!だから安心して、ボクの代わりに行ってくるのですよ!」



「いや、さすがに大丈夫だとしても失礼な事はしたくないので、色々と教えてくださいよ?……あと、その本音は出来る事なら隠しておいてください……」




ライアは静かにため息を漏らしながら、リネットに報告会の詳細などを教えてもらうのであった。












―――――――――

―――――――

―――――








―――――ギルド長付き分身体Side




「マジか……新しいダンジョンねぇ」



「あ、これはまだ公開する情報じゃないらしいんで、秘密にしてくださいね?」



ダンジョンの事をアイゼルに伝えた後、一応冒険者ギルドにも情報を伝えて方が良いかと思って、先んじてギルドマスターにダンジョンを発見した事を伝える。



アイゼルには出来るだけ一般の人たちにはダンジョンの存在を広めないで欲しいが、秘密にしてくれるのなら知り合いには話してもいいと言われていたので、ギルドマスターにこの事を広めないように注意しながら話をする。



「別に言うなって言うなら別に構わねぇが……もし、そのダンジョンが公になれば、ギルドも忙しく何だろうなぁ」



「ここから1か月もかかりますし、それほど冒険者達に魅力的なダンジョンでは無いと思いますが?」



今は山の周りの森にも弱い魔物しか居ないので、他の冒険者が向かう事は出来るだろうが、近くにもダンジョンがあるのだから、それほど向かう冒険者が出るだろうか?と疑問に思う。



「アホか?ダンジョンってのはそれぞれ現れる魔物の種類が違うし、下手をすれば新種の魔物だって出てくることもあるんだぞ?……それに、オレが忙しくなるって言ってんのは新しいダンジョンに冒険者どもが群がるって予想してるからじゃねぇよ」



「……ではなぜ?」




冒険者ギルドで忙しいという話になれば冒険者関係しかないだろうと思っているライアにギルドマスターはこう答えた。




「新しいダンジョンが見つかって、一番近い街が1か月かかるこのリールトンの街なんだとしたら、不便だろう?……そう遠くない未来に近くに街を興そうって国が動き始めるだろうよ。そうなったら新しい冒険者ギルドも作んないといけないからな、そう言った意味でオレ達も忙しくなるって言ってんだよ」



「そうなんですか!?」



まさかダンジョン一つで街が新たに作られるとは思っていなかったライアはギルドマスターの言葉に驚愕してしまう。



「なんだ?リネットの奴からそこら辺は聞いてないのか?」



「えっと、王都に行った際に色々と頼まれているので、そっちの話ばかりしてますが…」




ライア本体の方は錬金術師達の報告会に関しての注意や開催場所のレクチャーをしてもらっており、ダンジョンが見つかった時は、発見者が褒美をもらうと言った事しか聞いていないとギルドマスターに話す。




「ん~…まぁ街が出来るって言ったって、お前自身にはあまり関係のない話だろうし、特に言う意味もないから忘れてたんかね?」




「……まぁ俺がその街に行くとかじゃないですしね……」




ライアは納得は出来るが、それほどの情報は一応知っておきたかったなと少しだけリネットに心の中で文句を垂れる。




「オレ達はそのダンジョンに一番近い冒険者ギルドなんだ、色々と周辺調査依頼やら王都から来る冒険者ギルドのお偉いさん達の持て成しなんかもしなきゃだからな……頑張れよ!ライア!」



「面倒だからって俺に押し付けようとしないでくださいよ!」




これから起こる面倒事を考えて、目が死んだ魚のようにハイライトが消えたギルドマスターが「やぁぁぁだぁぁぁ」とだだをこねる様子をライアは呆れた目で眺めるのであった。















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