報告









「リネットさん……」



「えっと、ごめんなのですよ……つい王都に行かないでいいと思ってしまったので、ライアの気持ちを考えずに喜んでしまったのですよ……」



あれから少しだけ落ち着いたリネットに、ジト目を向けながら普段は先生呼びの所を他人行儀のさん付け呼びをすれば、さすがに悪い事をしたと思ったのかそう謝罪をしてくる。



「……はぁ…まぁいいです…それよりも、俺がまた国王陛下に褒美をもらうってどういうことです?さすがにこの間、名前と称号を貰ったばかりなんですけど」



「それに関してはライアが褒美をもらうような偉業を次々と持ち込んでくるのが悪いと思うのですよ?」



「うぐっ……」



ライア本人にその気は無くとも、火竜の討伐は正しく、色んな人から賞賛されるべき偉業であり、その件に関しては文句が言えないライア。



「火竜の件はさすがに理解しているつもりなので、文句は無いんですが、さすがにダンジョンを見つけただけで褒美はいらないのでは?」



「この国でダンジョンが最後に見つかったのはこのリールトンの街のダンジョンが最後で、約300年前なのです。…つまり国で2つしか発見できていない珍しいダンジョンが300年ぶりに新たに発見されたのですよ?それは国にとって大変利益の出る事なのですよ」



「……なるほど…」



ダンジョンというのは様々な魔物が生み出され、色々な魔石や魔物の素材が回収出来、たまにしか取れないがダンジョンにはミスリルというダンジョンでしか取れない鉱物もあるのだ。



そんな物的資源が常に回収出来る新たなダンジョンが300年ぶりに発見されたとなれば、それは大変めでたい事なのだろうとライアは納得させられる。



「という訳なので、元々昔から、ダンジョンを発見した者には褒美を!という話はあるので、王都にまた呼ばれるのは確定なのですよ」



「……2回目ですし、分身体じゃダメです……ですよね……はぁぁ」



日にち的にはもうリールトンの街に着いて1か月なのだが、気分的にはつい先日帰って来たくらいの気持ちなので、ライアは何とも憂鬱な気分になってしまう。




「火竜の件もある程度調べることが出来たのです。早めにお父様に報告をして、覚悟を決めた方が良いと思うのですよ?」



「……そうしときます。先生は一緒に王都へは……」



「ライアが王都に行ってくれて本当に助かるのですよ!」



ライアの言葉を遮るように満面の笑みを浮かべるリネットに、何を言ってもこの人は動かないのだと理解した。












―――――――――

―――――――

―――――










「なるほどな……まさかダンジョンが見つかるとは思ってはいなかったが、火竜の件は了解したよ」




ライアはそれから、アイゼルの元へ向かい、ダンジョンの件と火竜の出現の原因らしき考えを話に来ていた。



「さすがにこれほど早く続報が来るとは思ってはいなかったが、ダンジョンの発見は国にとっては喜ばしい事だよ」



「すいません、一日に何度もお邪魔してしまいまして……」



ダンジョンの発見を素直に喜んでいるアイゼルに対し、ライアは一日に2度も屋敷を訪ねることになって、仕事の邪魔をしているだろうと、申し訳なく思ってしまう。




「構わないさ、元々依頼主に情報を渡すのは間違っていないし、その情報もとても大事な事だからね……変に先延ばしされるよりは助かっているよ。ははは」



アイゼルはそう言って笑いを溢してくれて、ライアの心境に安堵が生まれる。



「と、そうだ……すでにリネットからは聞いているだろうが、報告書の件に続いてダンジョンの発見もあり、ライア君には申し訳ないが、また王都に来てもらう事になるが、それはいいかい?」



「……えっと、一応先生に聞いていたのでわかっています」



アイゼルもこんなに短時間にまた王都に行く事になるのは大変だろうに、ライアの心配をしてくれているアイゼル。




「……リネットが済まないね、昨日も王都に行くのは面倒だと夕食の場で小言を漏らしていたし、先程も機嫌が良さそうに『ライアがボクの代わりに王都へ行ってくれることになったのですよ』とステータスカードで連絡してきたしね…」



「この間までは一応私が何度も王都に行くのは可哀想と自分で行ってくれると話していたのですが……」



「ライア君がダンジョンを見つけて、ちょうどいい“理由”が出来てしまったという訳だね……はぁ」



「あははは……」



アイゼルは己の娘を思いため息を漏らし、ライアはそれを見て、苦笑いを溢す。



「まぁそこはいい……王都に向かう日程だが、さすがに準備に時間が掛かりそうなのでね。1か月後くらいになりそうなのだが、それでもいいかい?」



気を取り直したアイゼルは、前回とは違い、すぐに王都に出発するわけではないらしく、しばらく準備の時間を取ってから王都に向かうらしい。



「私は大丈夫です。むしろ、アインス達を火竜の山から戻らせれるので、ありがたい位ですが……準備って結構かかるものなんですか?」



ライアは前に輸送隊達がいた時の方がよほど準備に時間が掛かりそうなのに、今回の方が準備に時間が掛かるのかとアイゼルに疑問を聞く。



「前回に関しては火竜の素材をすぐに届けたいという理由があったのでな、少しばかり急いでいた。だが、それでも準備期間が無かった訳では無く、ライア君が故郷の村から戻ってくるまでの間に大至急準備を進めたという訳さ」



アイゼルは準備を急いだとは言うが、あの時はヤヤ村から1週間もかからずリールトンの街に着いたので、だいぶ無理をしたのだと予想が出来た。




「まぁ今回は火竜の素材なども無いし、急いでいく物でもないので、きちんと準備してから王都に出発するという訳だよ」



「なるほどですね、わかりました」



前回の時よりも準備に時間が掛かるのかの理由を聞き、今回は急ぎではないから、1か月後なのかと納得する事も出来たので、伝えるべく用件も終わったのだし、ライアは「それじゃぁ何度も訪問してすみませんでした。失礼しました」と言って部屋を出ようとする。





「……あぁそうだ、少しいいかい?」




ライアは話が終わったと、部屋を退出しようとすると、アイゼルが何か用事か何かを思い出したのか、ライアを呼び留める。



「はい?なんでしょう」




「少し聞きづらい部分でもあるのだが……ライア君の心は女性……だったりするわけなのかい?」




「へ?」



アイゼルがなんとも真剣な表情をしているので、どんな質問をされるのかと思えば、ライア自身の心が女性なのか男性なのかを聞いてきて、腑抜けた声をあげてしまう。




「えぇと……すいません、私は男のつもりですが…?」



「なるほどな……では恋愛対象は女性なのかな?」



いきなり摩訶不思議な質問をされたと思えば、今度は恋愛話にでもなったのか、アイゼルはそう質問を投げかけて来る。



「あ、えぇと……まだ恋愛をした事が無いので確証はないですが、恋愛対象は……女性…だとオモイマスガ……」



さすがのライアも、57歳の知り合いのお父さんで貴族の男性にこんなことを聞かれて、真面目に返答するのに、心をすり減らしてしまい、片言混じりに返事をしてしまう。



「ふむ、なるほどな………いや色々聞いて済まなかったな、特に気にしないでくれていいから、忘れてくれても構わないよ」




(え、なんか怖いんですけど……なに?なんなの!?)




気にしないなど不可能だと思いつつも、アイゼルに理由などを聞き出せる勇気が無いライアは「は、はぁ…」と曖昧な頷きを返して、この部屋を退出する事しかできなかった。











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