謎の洞窟








アインス達は暫く周りの状態や他に何か無いかを探していたが、やはり先ほどの洞窟以外には火竜の山を下りた原因になりそうな物は発見することが出来なかった。




「てなると、後はこの洞窟の中に何があるのかが気になる所だけど……」



ライアは実はまだ洞口の中を調べてはおらず、周辺調査だけで済ませていた。



それというのも、実は洞窟の中に知らない魔物の気配を≪索敵≫で察知しており、それが火竜の子であるなら、下手をすればこちらがやられる可能性があった為、すぐに入ろうという気にはならなかった為である。



「向こうも特に洞窟を出てくる気はないみたいだけど……行くしかないかぁ」



どうにも洞窟内にいる魔物は殆ど動かず、このままでは日が暮れてしまうと思ったライアはしょうがないと言った心境でアインス達を洞窟の中に進ませることにした。



「洞窟の中で、ブレスでも吐かれたら一瞬で全滅だな……」



松明を手に慎重に洞窟内を進んでいくと、洞窟内は比較的人が通れるほどの通路が一本道で、仮に今火竜が正面から向かってきた場合を考えれば、みんな仲良く消し炭にされるしかないと予想できる。



洞窟に入り、しばらく一本道を進んで行くと≪索敵≫で捉えていた生き物がもう少しで見えて来る位置まで来ることが出来た。



しかし、相手側はこれだけ近づいても匂いや物音で気付けそうな物なのだが、一向にこちらに気付いた様子が無い。



「……死んでる…?…いや、≪索敵≫には死んだ者を察知は出来ないから、生きてるはずだけど……」



アインス達は慎重に足を進めて行き、ついに魔物の正体が見える所まで到着する。






「………」



「………」



――――プルンプル……




アインス達の前には何とも形容しずらい、半透明の物体が静かに体を揺らしており、どう見ても生き物の定義から外れた姿にアインス達は言葉を失う。




―――――プルプル……



「……スライ……ム?」



少しだけ思考が動き出し始めたアインスは、目の前にいる不定形の生き物が、前世の記憶でファンタジー物の定番中の定番として登場する“スライム”なのだと理解する。




「ス…ライム……初めて見た…」



―――――プルンプル


「………」



アインスはスライムが魔物というのをすっかり思考の外に追いやり、プルプルと体を揺らすスライムに近づいて、観察をしだす。




「……動く大き目の水風船……え、こんな可愛い系なのか……目と角らしき触角は無いのか……」



スライムの見た目は比較的形がまとまっており、ゲルのように地面に広がるスライムではなく、水風船のような半透明の体に、身体の中心に魔石らしきものが見える姿だった。




――――プルプル




「……なんか倒しずらいな……襲ってくるか逃げるかしろよ……」



アインスに見つかったスライムは特に逃げ出しもせず、アインス達に襲い掛かって来ることもしないで、その場でただ震えているだけの姿に何となく、倒すのを躊躇してしまう。



「まぁこんだけ動かないなら、ラットル達と同じで、無害な魔物だろうし、倒さなくてもいいか……」



ライアは自分にそう言い訳するように独り言を漏らしながら、周囲に目を向ける。



「しかし、ここってただの洞窟じゃなくて、もしかしてダンジョンだったりするのか…?……よく見れば洞窟の壁に照明石がチラホラとあるし……」




ここに来る間は火竜の攻撃に備えて気付かなかったが、どうやらここはダンジョンであるらしく、洞窟の壁にはダンジョンの中でしか光らないと言われている照明石があちらこちらに生えているのを確認できた。



(こんな事にも気付けないなんて、予想以上に緊張してたんだな、俺って)




ライアはリールトンの街のダンジョンしか知らない為、元々あまりダンジョンについての知識が無いとは言っても、前に教えてもらった事にすぐに気付けなかった自分に反省する。




「しかし、ダンジョンか……人生これで2個目のダンジョンだな……あれ…?……ダンジョンって国でもかなり珍しい物のはずだよね……?これもアイゼル様に報告しなきゃか……はぁぁ…」



火竜の件以外でも、これは結構大事になる気がしてきたライアは、またアイゼルに色々と聞かれるのだろうなと憂鬱な気分になるのであった。












――――――――ライアSide





「なるほどなのです……火竜が山を下りたのは、火竜の子供を探しにという説が高いというのも納得なのです……そこでダンジョンの発見なのですね」



「はい、さすがに火竜の件もありますし、ダンジョンは報告した方が良いと思って」



アインス達が見聞きした情報を最初にリネットに伝えておこうと考えたライアは、実験室で改良魔道具の図面を引いているリネットに話しかける。



「………」



「……さすがにダンジョンがあるのは予想外でしたよね」




リネットもさすがに火竜を探してダンジョンを見つけたという話に何か思う事でもあるのか、黙り込んでしまう。



「……ライア」



「はい?」



暫くの沈黙の後、リネットは静かにライアの顔を見つめながら声をかけて来る。




「大変よくやったのですよ!!!」



「……あれ…?」



真面目な顔をしていると思ったら≪錬金術≫以外の事ではあまり興奮しないはずのリネットがまるで自分への誕生日に嬉しい物を貰ったような反応をするので、困惑するライア。



「えっと……そんなに先生にとって良い事なんですか?」



「いい事に決まっているのですよ!ボクはライアに精一杯のお礼をしたい程嬉しいのです!」




どうやら、ダンジョンの発見はリネットにとって、とても利益の出る事なのか、笑顔でそう言ってくる。



「……でもダンジョンだったら、リールトンの街にもありますよね?どうして先生がそんなに喜ぶんですか?」



「ん?あぁボクは別にダンジョン自体にはあまり関心は無いのですよ?」



「え?」




あまりに喜んでいるリネットになぜダンジョンに喜ぶのか質問をすれば、ライアの考えていたどの返答とも違う返しが返って来て、脳内はハテナだらけになってしまう。





「そ、それではどうしてそんな反応を?」



ライアは混乱している頭で何とかリネットにそう聞くと、すぐに答えを返してくれた。








「ダンジョンを見つけた者は国王陛下に褒美を貰える決まりなのですよ……つまり!!この間の≪合成術≫の報告書の件で王都に行く事になっていた予定をライアが代わりに行けるのですよ!!つまりボクは実験室に篭っていられるのです!!」




「……はい…?」




どうやらリネットが喜んでいたのは、この間決めた次に王都に行くのはリネットという順番を反故に出来、自分は工房で≪錬金術≫をしていられるという打算から来るものであったらしい。












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