火竜の巣
翌朝、アインス達は目が覚めると、野営地を囲っていた土壁が壊されていないかの確認と幻魔法が持続しているのかの確認をしていた。
「やっぱ、幻魔法はダメだったか……」
アインスは壁の外に出て、幻魔法を確認すると、案の定魔法は消えていて、土魔法で作り上げた土壁が丸見え状態だった。
しかし、夜の間に魔物達が襲撃して来なかったらしく、土壁には罅一つない状態であった。
(ま、あれだけ魔物が少ないなら、大丈夫だとは思ってたけど……しょうがないし、火竜の山にいる間はこのやり方で過ごすか)
今回の調査依頼中は出来るだけ魔物が来なさそうな場所で、魔物達が襲撃してこないことを祈るギャンブルの野営方法で過ごすことを決めて、出来るだけ原因究明を急ごうと野営地を出発することにする。
火竜の山に入ってからはゴブリン、ラットル、ロックタートルしか見ておらず、それは二日目の今日に関しても変わらない。
ただ、山の頂上に近づいて行くほどに魔物達は少なくなり、野営地から5時間ほど登った頃には魔物と出会わなくなっていた。
「……空気が薄い…のかな?分身体だとそこらへんの感覚が薄いから、こういう時に少し不便だな…」
本来であれば空気の薄い高度の高い山などに上る際は、高山病などになって下手をすれば命を失う可能性もあるのだが、分身体の体には食事と一緒で、酸素は殆ど必要とせず、やろうと思えばしばらくは無呼吸で過ごすことも出来る。
だが、今回のように現在地の空気がどれほど薄いのか、はたまた空気中に異臭がするといった感覚的に捕えられる事が非常に難しいのだ。
極端な例を出すなら、分身体が生存可能な場所でも、他の人がそこに行けば、息が出来ないという事もあり得るので、現地の空気を調べるのは不得手なのだ。
……まぁそんな状況は別惑星にでも行かない限り、殆ど無いと思うので≪分体≫のスキルが役立たずとは全く思わないが。
「……そろそろか」
そんな事を考えながら歩いて行くと、やっとのこと山の頂上が見えて来た。
分身体はステータスの高さからかなり強引に登山を進めてきたとはいえ、昨日から会わせて約8時間ほど登って、頂上に着いたのだ。分身体の足で8時間ならかなり高い山なのだろう。
「………穴……いや、火口か?」
アインス達は頂上付近に急ぎ足で向かって行くと、目の前には大きな窪みのような穴が広がっており、それはまるで、火山の火口のような形をしていた。
「もしかして、この山って元は火山だったのかな……それとも火竜がこういった形に削り取ったとか?」
大きな窪みに見える山頂は、火山が休眠して、火口の穴が塞がり、長い年月が経ったようにも見えるが、ここは火竜の住処だった場所なので、どちらにしても予想しか出来ない。
ひとまず火竜の住処の痕跡を探そうと穴へと足を進めていくアインス達。
穴の中はごろごろとした大岩が至る所に転がっており、非常に歩きにくい場所であった。
「ん?」
そんな足元が悪い所を無理矢理歩いて行くと、何やらひらけた場所が目に入る。
「ここが……火竜の巣?」
そこには何ともお粗末な、巣と言えるのかも微妙なただの平地が広がっていた。
巣らしき要因は殆ど無く、あるとすれば申し訳程度に集められた枝木の寝床?のような場所くらいだろうか。
「……それにしては、この寝床…少し小さくないか?」
枝木で作られた寝床のような場所は、3か月前に討伐した火竜の大きさには全く合って無く、精々が人間一人がすっぽりと入るぐらいの大きさしかない。
「……ここで火竜は寝れるわけもないし…火竜は地べたで寝ると考えていいのかな?……ん?」
何とも不思議な巣の作りをするものだと思っていたら、寝床の枝に何か付いているのが見え、それを拾う。
「……これは、何かの欠片か?………あ、卵か!?」
ここでようやくライアはこの小さすぎる寝床が卵を置く場所なのだと理解し、納得する。
(なるほどな…多分火竜が地べたで眠るのは合っていて、この寝床は子供の為の場所だったのか……だが、それならなんで、その子供がここにいない?)
落ちていた卵の欠片を見ても、それほど昔の物とは見えないし、3か月前に襲ってきた火竜がこの卵から生まれたというのも些か早すぎる気もする。
「……これはさすがにわからないから、報告してからかな…」
結局、自分が色々と考えても、火竜というライアの知らない生物の事なので、実際にはあの火竜がただの子供だったという可能性もある以上、これ以上ライアが考えても意味ないと判断する。
一応このことはリールトンの街にいるライアがリネットやアイゼルに報告して、どういうことかわかるのを待とうと、火竜の巣の散策を再開する事にする。
――――――――ライアSide
「火竜の卵……なのです?」
「おそらくは卵だと思いますが……何かあるんですか?」
ライアは早速近くにいたリネットに火竜の卵の事を相談すると、リネットはものすごく意外そうな顔をする。
「火竜……いえ、火竜のみならず竜種と言われる種族は数百年に1度ほどしか子を生さないと言われているのです」
「数百年……」
アインス達の見つけた卵の欠片はどう見ても1年も経っていない程新しく、風化していない様子だったので、少なくともあそこの山には親の竜と子の竜の2頭がいた事は確かだとライアは考える。
「もし、火竜の子が生まれているのだとしたら、この間の火竜の動きは、独り立ちの為に別の住処を探しに出たです?」
「それはどうでしょう…少なくとも現状、あの山には他の竜種はいないと思いますよ?」
これは山を登っている間も常に≪索敵≫を使用していたし、山の頂上から周りを見渡しているが、それらしき影は見えていないので、その可能性は低いだろうとリネットに告げる。
「……だとしたら、余計にわからないのですね……ひとまず、他にも何かわかったらまた教えて欲しいのですよ」
「わかりました。ひとまずアイゼル様にも卵の事を伝えに行きますね」
リネットは「お願いするのです」と返事を返してくれたので、分身体の一人を使い、領主邸にこの事を知らせに行かせるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます