合成について









「お待たせしました」




休憩室に入ると、すでにユイとリネットが紅茶を入れて椅子に座っていて、ライアとリグを待っている様子だった。



「丁度今、紅茶を入れたばかりなのですよ」



「こちらにどうぞ、ライア様、リグ様」



ユイの誘導に従い席に座ると、目の前に「どうぞ」と先ほど入れたばかりなのが分かる、いい匂いが立ちのぼる紅茶の入ったティーカップが置かれる。



「さぁ冷めないうちに頂くのです」



リネットはそう言って自分の紅茶を飲み始めるのを見て、リグもライアも自分のティーカップを手に取る。









「……それで、リグ君はどうです?辛いとかキツイとかないのです?」



「ライアさんにも言いましたけど、俺は大丈夫ですよ。特に無理などもしていないですし、結構楽しんでますから」



紅茶を飲み始め、数分程仕事の疲れを癒すようにリラックスした後、リネットがリグに工房での仕事がどうかと質問をするが、それは先ほどライアが聞いた事だったので、リグは少しだけ苦笑いを浮かべながら、そう返事を返す。



「ライアもボクもリグ君の事を心配してしまうのですよ。…でも楽しいと感じてくれるのなら、それはボクにとってとても嬉しい事なのですよ」



「……はい」



少し意味が違うのだが、≪錬金術≫に関係がある所を“楽しい”と言ってくれたリグにリネットは自分の好きな物を好きになってくれた事に純粋に嬉しいのか、笑顔でそう感謝を述べるので、リグも少しだけ照れ臭そうに頷く。




「そう言えばライア、報告書は領主邸のお父様には届けたのですよね?」



「はい、今馬車に乗って領主邸に着きましたので、もうお渡し出来ますよ」



つい先程、リグの≪合成術≫の詳細と合成魔石が普及した場合に起こる問題などを記載した報告書は領主であるアイゼルの指示で作成し、提出しに行き、もうすぐ渡せる所だとリネットに返答する。



「あれを見たお父様はきっと驚くのですよ」



「それはまぁ……元々≪錬金術≫に関してはあまり関心が無かったようですけど、“国の魔道具が全て”改良出来るようになると言われれば慌てもしますよね…」



王都ではライアからあまり確定していないことをリネットを通さずベラベラというのもあれかと、特に詳しい情報を伝えていなかったので、リネットからその可能性を聞かされて大慌てだったらしい。



リグの合成魔石がきちんと魔道具として活用できることもわかったので、ただの可能性の話が確定情報になる報告書はアイゼルにとって驚きの種だろう。




「それに、別属性の魔石の合成も出来るとなれば、どんな魔道具が出来るのかも予想がつかないのですよ!」



「……その実験は今の所不可能だったので、報告書にも“現状は不可”と記載しましたからね?」



リネットが興奮したように話す“別属性の魔石合成”というのは実はこの1週間でリグにお願いして試してみた実験の一つである。




【電気属性の魔石1】+【電気属性の魔石1】=【電気属性の魔石2】

というのが通常の合成魔石なのだが試しにこうしてみたのだ。



それがこの

【電気属性の魔石1】+【毒属性の魔石1】=

といった別の属性魔石同士を合成するといった試みである。



だが、この実験は実は失敗している。



というのも…




「すいません、俺が力不足なせいで……」



「いや、リグが謝る事じゃないよ!さっきも言ったでしょ?本来ならもっとゆっくりスキルのレベルを上げてからやって行く事だって」




そう、別属性同士の合成は非常に難しいらしく、リグは合成途中で力尽きてしまったのだ。



「感覚的には合成出来ない訳じゃないですけど……まだまだスキルのレベルを上げないと出来そうにないです」



というリグの話を聞いて、報告書には“現状は不可”と記載したのだ。



一応他にも合成魔石同士の合成や魔石と素材の合成自体の実験も行ったが、どれも合成する難易度が上がるだけで、合成出来なくはないといった結果だったので、基本的に≪合成術≫に合成出来ない物は無いのかも知れないという事も報告書には記載した。



(これって本当にすごいよね……レベルを上げるのもそれほど難しいってわけじゃないと思うし、リグの≪合成術≫は大当たりのスキルだったね)



リグはまだ自分のスキルは力不足と感じているようだが、ライアは素直にそう思っており、伝えているのだが、今の所信じてくれている様子はない。



「お父様に報告書も送って、ある程度の魔道具の改良も進んだのです……後は少しずつ一般の魔道具も改良して行きながら、新たな魔道具の開発に力を入れるのですよ!」



リネットの頭の中にはすでに新しい実験や研究に思考が動いているのか、とても楽し気に語る姿はまるで小さな子供がはしゃいでいるように見えてしまう。



「……あの報告書が国王様に渡って、仮に何かしらの呼び出しがあった場合は先生が行ってくださいね?」



そんなはしゃいでいるリネットを見ながらライアは、王都に報告した際にまた呼び出されるのでは?と一抹の不安に駆られ、保険のつもりでリネットにそう言うと、リネットも少しだけ嫌な予感がしたのか、喜んでいた顔がピタリと止まる。



「……ライア……弟子は師匠の代わりに面倒な仕事をするのも宿命だと思うのですよ……」



「え、本当に呼び出されるんですか!?さすがについこの間王都に行ったばかりなので、俺か先生なら、先生に行ってきて欲しいんですが……」



もしも≪合成術≫の事で呼び出されるとしたら、直接リグを見つけて連れてきたライアか、工房主で雇い主であるリネットだと思うが、ライアはさすがにほぼ日を空けずに1か月の旅をするのはキツイとリネットにそうお願いする。




「……うぅぅ…さすがにライアだけに面倒を押し付けるのは可哀想なのですよ……どうにかライアが王都に行く用事とかが出来れば潔く任せられるのですが…」



どうやらリネットの中ではかなりの確率で王都に呼び出される可能性が高いようで、上がっていたテンションがガクリと落としながら、どこが潔いのか分からないセリフを吐く。



「えっと……なんかすいません?」



「いいのですよ……呼び出されなければいいのです……貴族学院や他の錬金術師達が余計な事をしなければ……何とか行かなくて済む……はず……うぅぅん…」




どうやら呼び出される理由は同業者の錬金術師達や王都の学院関係らしいので、もし呼び出された時は、全力で潔くリネットを差し出そうと考えるライアだった。











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