忙しい工房









王都からリールトンの街に帰って来てから約1週間……リネットの工房では、大忙しの日々を過ごしていた。





「先生、リグの合成魔石の追加を持ってきました」



「魔道オーブンの熱の魔石ですね。そこにおいて置いて欲しいのです……あ、リグ君の≪合成術≫に関しての報告書の方は……」



「そっちは先ほど作成して、分身体の一人を使って、アイゼル様の所に持って行きましたよ」




「それは助かるのです」



実験室の中にはライアの分身体が大勢おり、1人1人が従来の魔道具から魔石を取り出し、リグの仕事部屋に運ぶ作業をしており、その傍らでリネットが新しい合成魔石の実験内容をまとめながら、数少ない合成魔石を使って魔道具の試作を行いながら返事が返ってくる。



そんな実験室の中で話されたライアの作成した報告書というのは、合成魔石を作る際に必要な≪合成術≫がどのようなことが出来るのかと、合成魔石がもたらすメリットなどの想定を詳細に書いた書類だ。



報告書と名を打っている所から、もしかしたら想像できるかもしれないが、実はリールトンの街の領主に正式に報告書を提出し、そのまま国王にまで報告することになったのだ。




それに関しては元々合成魔石が普及すれば、国王どころかこの国の常識が一つ変わる事だったので予想は出来ていたのだが、如何せんこれほどすぐに報告書を提出することになるとは思わなかった。




(……リールトンの街に着いて、翌日には先生がアイゼル様に合成魔石の事を詳細に伝えたら、すぐに資料が欲しいって急がされたからなぁ……そのせいでこの1週間は地獄だった…)




本来であれば、リールトンの街で売られている魔道具などの改良から手を付け、実績とともに1年程かけて、他の街にも情報を流していく予定だったのだが……。それがまさかの1週間で行なう事になろうとは…。



「ライア!材料が足りなくなってきたのです!冒険者ギルドの方で追加発注をお願いするのです!」



「わかりました!」












――――――――

――――――

――――








「……これで、魔道オーブンの方は大丈夫ですね……そっちは大丈夫なのです?」



「こっちもあらかた終わりましたよ、お疲れ様です」




魔道具の改良や解体作業が終わった2人は、お互いの進捗を確かめながら一息つこうと実験室にある椅子にもたれかかる。



「ぬぅ~……はぁぁ……さすがに大変でしたね」



「何を言ってるのですライア!これからももっと忙しくなるのですから弱音はダメなのですよ!」




リネットは自分の好きな錬金術関連だからなのか、あまり疲れた表情はせず、楽し気に話していた。




「さすが先生ですね……あ!リグにも一緒に休憩しようって伝えて来ますか?」



「そうですね、ではボクは休憩室でお茶を出してもらえるようにユイに頼んでおくのです」




リネットはそう言ってメイドのユイを工房の中を探しに行ったので、ライアはリグに休憩に誘おうとリグの作業部屋に向かう。







(リグには申し訳ない事をしちゃってるなぁ……)




実はこの一週間、リグには合成魔石を沢山作ってもらったり、≪合成術≫の詳細を報告書にまとめる為に色々と実験にも付き合ってもらったりと、リグにはかなり無理をさせてしまっていた。



本来なら、もう少し休み休み進める予定だったのに、リグが「任せてください!俺に出来る事をやりたいんで!」という言葉についつい甘えてしまっていた。



一応、合成魔石の回収ついでや、少しの休憩時に様子は見ていたので、倒れたりはしていないのはわかっているが、さすがに13歳の子供にこの仕打ちはあんまりだろうと反省する。





――――コンコンコン


「リグ?入っていいかな?」




『ライアさん?どうぞー』




リグの仕事部屋にはリグが作業する為の椅子と机が置かれており、その横には≪合成術≫を使った後に休めるようにソファーも置かれており、部屋の隅の方には合成前の魔石が沢山おいてある。



部屋に入ってきたライアにリグが手に持っていた魔石を置きながらこちらに振り返ってこちらを見て来る。



「どうしたのライアさん?合成魔石はまだ溜まってないけど…?」



「あ、違うんだリグ、催促しに来たんじゃなくて、こっちの作業がひと段落したから一緒に休憩しようって誘いに来たんだ……ごめんね、こんなに忙しくさせちゃって」




リグは特に疲れた表情などはしていなかったが、それでも申し訳ない気持ちが出たライアはそう謝罪する。



「…?俺は大丈夫だよ!むしろまだ一日に少ししか合成魔石を作れなくて申し訳ない位だし」



「いや、本来であればもっと≪合成術≫のレベルが上がってからじゃないといけないのに、リグに無理をさせちゃってるからね……」



「そんなに心配しなくてもいいのに…」



リグがそう言うが、ライアはリグの合成魔石を作る時の大変さは孤児院の時に見ている。



レベルが1つ上がったからなのか、単純に魔石を合成するのに少し慣れたのか、リールトンの街に着いてから魔石を合成して倒れるなどという事は無いが、合成後は必ず休憩を取るのは変わっていないので、心配するなというのは無理という物だ。




「それよりも、休憩って言ってたけど…」



「……あぁそうだった、先生がユイさんにお願いして、休憩室でお茶を出してくれるように頼んでくれてるから、俺達も行こう?」




リグとの会話で少しだけ忘れかけていた本題を思い出し、リグにそう伝える。




「わかったよ。さっき魔石を一個合成した所だったし、ちょうどよかった」




「……辛いとかは無いんだよね?」



リグの元気そうな表情からは疲れや無理をしているような感じは見えないが、つい反射で心配の言葉を投げかける。




「本当に大丈夫だから!……さ!早くリネット先生の所行こ!」




「あ、ちょ、リグごめんって!自分で歩くから!」




さすがにしつこかったのか、リグはライアの背中を押して部屋を退出し、リネットとユイの待つ休憩室に向かって歩き出す。










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