リグの仕事場
冒険者ギルドを出たライアは、朝は別行動であったリグとパテルが待つ工房に向かう。
(…片道1か月もかかるのだし、今回は人数分の馬を借りておこうかな)
工房に向かいつつ、それと同時にアインス達を火竜の山まで調査しに行く為の馬を借りに行かせる。
馬を借りるのは以前に神樹の森の調査に
そんな事を考えながら歩いていると、見慣れたレンガ調のリネット錬金術工房に到着するライア。
――――ガチャ
「お邪魔します」
分身体の視点で、実験室より奥の空き部屋にみんなが集まっているのはわかっていたので、出迎えなどは期待せず、自分も早くみんながいる部屋に向かおうと急ぐ。
――――コンコンコン
「先生ー?ライアです、入りますね?」
『どうぞなのですー』
みんなが集まってる部屋に到着し、中にいるリネットに入室の許可を貰ってから部屋の中に入ると、実験室よりは狭いが、物などがあまりない殺風景な部屋にリネットとユイ、それとリグにパテルと分身体が一人の合計5人が部屋の中央に集まって話をしていた。
「ライアさん、おはようございます」
「おはようリグ……これから部屋の説明ですね」
「そうなのです」
リグの朝の挨拶を返しながら、リネットにこの部屋に居る理由を分身体越しには聞いていたが確認も込めてそう質問する。
「リグ君達をこの部屋に案内したのは、この部屋がリグ君の仕事部屋になるからなのですよ」
「俺の仕事部屋……」
リグはリネットの言葉を聞き、部屋を見渡しながら言葉を漏らす。
「リグ君には≪合成術≫で魔石や魔道具に必要な材料の改良作業をしてもらうのですが、実験室では下手をすると爆発する物も置いてあるので、基本は≪錬金術≫を持たない人の入室は禁止なのです」
リネットの話は前にも聞いたとは思うが、きちんとした知識が無い者が間違って触れたりすることがあれば、その人の命にかかわるので≪錬金術≫を持たないメイドのユイも実験室に入れず、掃除が出来ないと言った事があった。
「なのでリグ君には実験室の近くのこの部屋を使ってもらう事にしたのです。この部屋は元々他の錬金術師に使ってもおらう部屋だったのですが、ここに来ないですからね」
「あ、ありがとうございます!」
リグは自分の部屋という物に新鮮さを感じているのか、瞳を輝かせながらリネットにお礼を伝える。
これはただの予想だが、リグは孤児院に住んでいたので、基本は数人の孤児達と同じ部屋を与えられていたのだろう。
故に自分の部屋という物に憧れがあり、これほど喜んでいるのだろうと1人納得するライア。
(……そう言えば、実家にいた時に自分の部屋を貰った時もかぁさんに『ふふふ…ライアもなんだかんだ言って子供なのね♪』と子供扱いされたしなぁ……リグもそんな状態ってわけか)
ライアが部屋を貰った時はそんな子供らしい理由で喜んではいなかったとは思うが、あまり細かい事を気にしても意味は無いかとその思考を忘却する。
「リネット先生!俺は何をすればいいですか!?」
「そんなに慌てなくていいのですよ!今日は他にも確認したい事があるので、そちらを優先するのです……ライア」
リネットは自分の仕事部屋に興奮しているリグをなだめつつ、他の確認事項を勧めようとライアに目線を送ってくる。
「はい、きちんと貰ってきましたよ……はい、リグ」
「え……?これって…ステータスカード?」
ライアの手には先ほど冒険者ギルドで、ギルドマスターから買い取っていたステータスカードが乗っていた。
「それに……パテルにもあるからね?」
「……俺は自分で用意すると言ったのだが……」
「そう言ってたから馬車の中でステータスを確認できないって事になったでしょ?……もうギルドで買っちゃったんだから、貰ってね?」
ライアの言い分に心当たりがあるのか「…むぅ」と唸りながらも渋々ステータスカードを受け取ってくれた。
実は王都に向かってこの街を出発してから、ずっとスキルの練習をしていたパテルはスキルが取れたのかをステータスカードが無かった為、確認できないでいたのだ。
なので、これはもう無理にでもステータスカードを渡した方が良いと判断して、先ほど冒険者ギルドで、ギルドマスターに2枚ほどステータスカードを売ってもらっていたのだ。
渋々受け取ったパテルは「…必ず代金は払うぞ…助かる」とお礼を言ってきたので、律儀だなぁと思いながらこちらも頷く。
「いいんですか?俺がこんな貴重な物を受け取って……」
「いいのですよ、これは≪合成術≫や他のスキルのレベル変動などを調べるのに必要なものです。経費としてリグ君に支給するのです」
リグが申し訳なさそうにするので、リネットが「心配しなくても、これはこの工房の経費で落ちてるから、何も問題はない」とフォローを入れる。
(……ここってリネット先生の工房だから、結果的にはリネット先生が払ってる事になるのでは…?)
ライアはリネットのフォローにそうツッコミを入れたかったが、せっかくリグの表情が和らいで来ていたので、水を差すのは野暮だろうと言葉を飲むのであった。
「それでは2人とも、早速ステータスカードに個人登録するのです」
リネットがそう言って2人を促し、メイドのユイが持っていた針を受け取り、各々がステータスカードに血を付着させる。
「おぉぉ……」「………」
2人は個人登録をされていないステータス画面しか見た事が無かった為か、驚きの表情をしながらおそらく自分のステータスを確認している。
「ステータス値やスキル欄以外にも色々と項目が増えてると思うのですが、そちらの確認も各自で確認するといいのですよ」
「はい……あ、≪合成術≫のレベルがこの間より上がってます……馬車での練習で上がったのかな?」
ステータスカードを確認していたリグは≪合成術≫のレベルが上がっているのを見たのか、そう言葉を漏らす。
「それは本当ですか!?」
「先生…?落ち着いてくださいね」
もうすでに≪合成術≫というワードに無条件で興奮するようになっているリネットに慣れた様子で釘をさすライア。
「あ、はいなのです…すいませんです…。」
「…アハハハ……」
リグはある意味自分の所為だと思っているのか、何とも言えない乾いた愛想笑いをするのであった。
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