リグの回想









―――――リグSide





俺は物心着く頃には孤児院に捨てられていた。



孤児院には様々な大人がいて、特に生活するのに困ることは無かったとは思うし、他の子供達とも関係は良好で、皆が家族のように仲が良かった。



それでも世間は、俺達が孤児っていうだけでこちらを同情の孕んだ目で見て来るし、孤児はすぐ盗みを働くという認識があるのか、嫌悪の視線を向けて来る事もある。



俺達の孤児院は比較的普通に暮らせているので盗みをする子供はいないし、親が居なくても孤児院の大人達は優しいから同情されるほど不幸なつもりもない。



だから俺はそんな街の人達の視線が嫌で、孤児院で他の子供達と一緒に遊ぶか、街の人があまり利用しない図書館にばかりに通うようなった。



他の子供達は本を読んで勉強する事自体が嫌らしいので、図書館に来る子はいないが、俺は色々と自分の知らないことを学べる事に楽しさを感じていた。





そんな風に図書館と孤児院での生活をしていたのだが、つい先日に孤児院にとある事件が起きたんだ。




「ここが……借金の形に?」



これはある意味偶然だったが、孤児院の院長室で大人たちが話し合いをしているのを聞いてしまった。



どうやらこの孤児院を作った人が借金をしてしまい、借金が返せないと逃げ出し、その人の所有しているこの孤児院が借金の形に売られてしまうらしいと話していた。




「……さすがにこれは俺達にはどうしようもないし、給料が出ないってなったら俺達の生活も危うい」




「……子供達には近場の孤児院を紹介してあげて、何とかしてもらうしかないわね…」




大人たちは自分の生活がある為、あまりできる事は無いがそれくらいはしてあげようと話し合ってる。




「なんですかそれ?……あの子達に孤児院を紹介って何の意味があるんですか!?他の孤児院は今の所どこも手一杯って皆さん知ってますよね!?」



「それは……」




大人皆が「しょうがない」「あの子達に出来るのはこれぐらい」と消極的な話をしている中、いつも俺達に寄り添って、頼もしくも優しいベル先生が大声をあげる。



ベル先生の言葉に、他の大人達も心の中ではわかっていた事だが、「何もしなかった」という罪悪感を覚えたくなかったばかりに、そんな言い訳をしながら納得しようとしていた大人達は言葉に詰まる。




「……だが、そんなことを言ってもこれぐらいしか俺達には出来ないのは確かだろう?……無理に正義感を働かせてもどうにもできないことはあるんだよ」



少しの沈黙の後に、1人の男性職員がベル先生に「現実をみろ」と言葉を投げかけると、周りの人達も静かに頷く。



「私は……どんな理由があろうと子供達を見殺しにするような事はしたくありません」



「……はぁ……なら君がなんとかしてみるといい…俺達は別に止めたりはしないし、君が子供達の面倒を無理をしてでもしてくれるなら、応援はするさ」




そう言って院長室に集まっていた大人達は話が終わったとばかりに部屋を退室していく。




「!!…リグ君……聞いていたのか……すまないな」



院長室前で盗み聞きをしていたリグは、いきなり出てきた大人達にあっさりと見つかるが、先程の会話の罪悪感から、リグの目を見ようとはせず、そう言うなりリグのすぐ横を歩いて去って行く。




院長室に残ったのはベル先生だけで、他の大人達みんなはこの孤児院を捨てたのだと理解が及ぶ。




「……リグ…?ごめんね…変な所を見せちゃって」



扉の前で盗み聞きをしていた俺を見たベル先生は悲しそうな表情をしつつも、こちらに心配させないように声をかけて来る。



「先生……俺達、どうなるの?」



「心配しなくても大丈夫よ!私が何とかしてあげるから!」



ベル先生は俺の質問にそう返事を返して「さぁ今日のご飯は私が作らなきゃだから」と言って仕事に戻って行く。










それからは、他の子供達と話したり、何とかしようと図書館でお金の集め方なんかを知ろうとして、借金問題を何とかしようとしていたら、ウィスン……いや、ライアさんか……そのライアさんに出会って、何とか孤児院の借金は大丈夫になったんだ。



だから孤児院を守ってくれたライアさんには感謝しかないし、使い方が分からなかった俺の≪合成術≫に活用法を与えてくれた恩人だと思ってる。



だから、ライアさんに「ウチの工房に来ないか?」と求めてくれた事がとっても嬉しくて、違う街や違う世界を見せてくれるって話になった時は二つ返事で了承してしまっていた。




ライアさんには孤児院の皆としばらくは会えなくなるから、次に王都に来た時でもいいという話も出たけど、元々孤児院が無くなると覚悟は決めていたし、別れが先になっても寂しさは変わらないと言って断った。



ベル先生も悲しそうに、寂しそうにしていたけど、俺の気持ちも理解してくれてるみたいで、すぐに納得してくれた。









それから数日後、俺はウィスンに連れられて貴族の屋敷らしき場所に連れて行かれて、ウィスンの正体であるライアさんに初体面したんだ。




「やぁおはようリグ、もう少しで出発するから」



「………え?えっと……どなたでしょう…?」




案内されたところに行くと、会った事の無いはずの紅い髪の綺麗な女の人が俺に声をかけて来て、その正体がウィスンの正体だと聞かされて、死ぬほど驚いた。



「あれ?言ってなかったっけ?…まぁ少し姿が違うだけだから!名前はライアでいいよ~」とめちゃくちゃ軽く言われたが、さすがにこんな綺麗な女の人の名前を呼び捨てにするのは気恥ずかしくて、ライアさんって呼んでるけど。



ライアさんは≪分体≫ってスキルで何人も自分の分身体を作り出して、様々な所で働かせているらしくて、俺の石ころなんかを混ぜ合わせるだけの≪合成術≫がこの人の役に立つのか、少しだけ不安になったのはしょうがないと思う。




王都を出発してからはスキルの練習やリールトンの街の事を話してもらったり、ライアさんがアイリス様っていう貴族の娘さんにおもちゃにされているのを見ながら過ごしていたらあっという間にリールトンの街に到着した。




……ちなみにライアさんがおもちゃにされている間は、エルフのパテルさんとよく話していて、結構仲良くなれたと思う。



ただ、俺が馬車で眠るライアさんの事でパテルさんに「ライアさんも女性なんですから、違う馬車で寝た方が良いんじゃ…」と相談をしたら、ものすごい温かい目でこちらを見つめて来て「……前提が違ったとしても、それは助かるな…」とよくわからない反応をしていたのは何だったのだろうと、今でも疑問が出るが…









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る