リグとリネット錬金術工房








「改めまして、これからリグ君の上司になるリネット・リールトンなのです!工房にはボクとライア、それにそこにいるボクの専属メイドのユイの3人くらいしか殆どいないので、気楽にしてほしいのです」



「えっと、よろしくお願いします」



応接室に移動したリネット達は早速この工房の説明をリグに伝えていく。



「工房とは言っても、基本はボクとライアの2人で色々な実験を行っているだけで、何かを売ったりするのは二の次なので、リグ君にはその実験のお手伝いとして≪合成術≫の使用をお願いしたいのですよ」



「……それだけでいいんですか?雑用とかは…?」



リグは自分の≪合成術≫が必要とされているのは知っていたが、それ以外にも掃除やら雑用やらをするものと思っていたのか、意外そうに驚く。




「それは大丈夫なのです!何と言っても我らが工房には掃除の申し子みたいなライアがいるのですよ!」



「……それ、褒めてます?」



掃除や雑事はライアの分身体がするし、何だったらメイドのユイも居るので、そう言った仕事に空きは無いのだ。




「それに≪合成術≫だけとは言いますが、一日中魔石を合成するのは体力的に無理なのですよね?……ボクらはリグにあまり無理をさせたくは無いので、疲れない程度に≪合成術≫を使ってほしいのですよ」



「…ありがとうございます」



リネットの言葉に、リグはここ1か月に及ぶ馬車の中での≪合成術≫訓練の大変さを思い出し、気を使ってくれたのだろうとお礼を返す。



「……それにこの先スキルのレベルが上がって、疲れなくなってきたら、リグの気持ち次第ではありますが≪錬金術≫のスキルを取るというのはどうです?」



「俺が……≪錬金術≫をですか?」



この提案は前にリネットから聞いていた事なのだが、ただ合成魔石を作るだけでは、リグが望む新しい世界を見せるのとは違うという話になり、将来的には≪魔力操作≫から≪錬金術≫を使えるように教え込んで、リグ1人でも自立できるようにしてあげようと話していた。



もちろんこれはリグが「錬金術師になりたい」「俺も魔道具を作ってみたい」と望む場合のみであるのだが。





「……よろしくお願いします!!」



どうやらリグは元々そうなりたいとでも思っていたのか、殆ど考えるそぶりもないままリネットに≪錬金術≫を教えてくれと頭を下げる。



「ふふふ…任せるのです!……まぁ色々教えるとなる時はライアが教えると思うのですが…」



「先生……」



リネットの後半の言葉を聞いて、何とも言えない恰好悪さを感じて、ライアはジト目をリネットに向けるのであった。









それからは工房内を案内したり、リネットにリグが合成した合成魔石を渡し、またリネットが興奮してしまうといった事があったりしたのち、その日は工房を後にすることにした。




「……そういえばライアさん、俺の住む場所ってどうすればいいの?」



工房を出て、少し大通りを歩いているとリグがそう質問を投げかけてきた。




「ん?一応俺の今住んでる部屋かアインス達とパテルが使ってる宿のどちらかにしようとは思ってるけど……」



ライアはまだリグは成人していない13歳(本人に聞いた)の子供なので、設備が充実しているライア本体が使っているさすらいの宿に一緒に住まわせた方が良いかなと考える。




「そうだね、やっぱり俺の部屋の設備が良いし、リグは俺と同じへy「すみませんパテルさん、そちらにお邪魔したいんですけど」……あれ?」




ライアがリグに自分の部屋を使うように言おうとしたら、何故かパテルを頼ってそうお願いしていた。



お願いされたパテルも何やら「わかってる……そうだよな」みたいな顔をしながらリグの肩をトントンと叩きながら了承していたので、ライアは不思議に思う。




(あの二人……この1か月で仲良くなったのかな…?)




結局、リグはアインス達とパテルの使っている宿を使用することになり、後でパテルがリグを案内するという事になった。




住む場所も決まったのだし、リグの着替えや必需品を揃えようという事に決まり、街を案内しながら買い物に向かうのであった。








―――――――――

―――――――

―――――






「ふぅぅ……久々の我が家ぁ……」



買い物も終わり、リグとパテルが別の宿に帰って行くのを見送った後、ライアは久々のさすらいの宿の自室に安心感を感じていた。



「って、ここは宿なんだけどねぇ……っと、そういえばもう依頼が来てたんだっけ…」



買い物をしている途中でアイゼルから冒険者ギルドに依頼が来ているのをアハトが見て「さすが領主様…仕事が早いなぁ」と感心していた事を思い出し、依頼の事を考える。



(調査依頼で神樹の森の先にある火竜の元住処である山に向かう……でも、山までは1か月はかかるって聞いてたし、野営はどうしよう…?)



これはダンジョンの時もそうであるが、分身体を個別で休憩させていっても、完全な休息にはならない為、数日に一度は分身体とライア本体全員が眠りにつかないといけない問題がある為、どうしようかと悩んでしまう。



(一番は俺と一緒に山まで行って、魔物達の対処ができる冒険者と一緒にいく事だけど、今この街に無事に帰って来れる冒険者達はいないって話だし……)



危険な調査になるとは分かっているし、ライアのように分身体で命の危険が無い人などいる訳もなく、どうしようかと悩んでしまう。



(まぁ最悪、夜に襲われない事を祈って眠るギャンブルで何とかするしかないか!)



色々考えた結果、最終的にはただの運任せなのは何とも言えないが、もうそれしかないだろうと結論付けようとする。



「はぁ…野営で一切魔物達が襲って来ないように出来れば、こんな事考えなくて良くなるのに………襲って来ないように…?」



ふと、自分のつぶやきに対して、思考に何かが引っかかる。



「襲って来ない……襲うってこっちを認識されるから襲われるんだよな……当たり前だけど……これって幻魔法でワンチャンどうにかできないか?……いや、でも寝ながら幻魔法って使えるか?」




ライアの頭の中に、少しの可能性が浮かぶが、幻魔法が寝てる間も持続するのかどうかが分からず、頭を悩ませる。




「うぅぅ~ん……わっかんね!!成功するかどうかは実際に試してみて、ダメだったらギャンブルだ!うん、そうしよう!」



結果悩むより、元々ギャンブルしか解決策が無かったので、失敗したのなら失敗でしょうがないと考えを割り切るライアだった。












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