到着、リールトンの街








―――ライアSide





時は過ぎ、王都を出発したライア達を乗せた馬車は、リールトンの街の領主邸の前に到着し、屋敷の前にライア達はそこにいた。



「ライア様……すぐに会えますわよね?」



「大丈夫ですよアイリス様、私は基本リネットさんの所か冒険者ギルドにいる予定ですから、呼ばれればすぐに会えますよ」



アイリスはまるでしばらく会えない恋人に悲しみの表情を向けているような雰囲気を醸し出しているが、会おうと思えば会えるので、苦笑いをしながらアイリスにそう伝える。



「本当ですの??では明日も会えますのね?」



「すいません……しばらくは忙しいので無理です…」



ライアはこの子を甘やかす事を言えば、毎日領主邸に行かなければいけなくなると瞬時に悟り、すぐさま前言を撤廃する。



「ライア様~…」という悲痛な声を尻目に隣で苦笑いを浮かべていたアイゼルに目線を向け、別れの挨拶を交わす。



「アイゼル様、この約2か月間、お世話になりました」



「私は何もしていないさ……むしろこちら側から色々と面倒をかけてしまったし、気にしないでくれ」



「いや、そんな…………」





この2か月間の馬車での移動もそうだし、食事などもすべてアイゼル持ちだったのでお礼を言ったが、アイゼルの言葉を聞いてアイリスの相手やコルドーの相手などを思い出し、何とも言えない気持ちになってしまった。



「それに君にはこれからも私達と仲良くしてもらいたいからね……アイリスも君の事を気に入っているようだしね」



「えっと……よろしくお願いします?」



アイリスがライアを気に入って仲良くするというのはわかるが、アイゼル自身もライアと仲良くしたいと言ったような発言に若干の不思議を覚えつつ、返事を伝えるライア。




「アハハハ!うむ、よろしく頼むよ……そうだ。前に話していた火竜出没の原因調査依頼の方は後程正式に冒険者ギルドに送らせてもらうよ」



「あ、はい、わかりました!」




そう言った義務的な話もしつつ、別れの挨拶を済ませて、帰りの馬車に乗り込み、リネットが待つ工房にまで送ってもらうのだった。











――――――――――――

―――――――――

――――――







馬車に揺られる事、数十分……現在、ライア達はリネットの工房の前に到着し、工房の中に入ろうとしているのだが。



「ライアさん?入らないの?」



「……えっと、リグには先に注意しておくけど、この扉の前に俺の≪錬金術≫の先生がいるんだけど……どうにも興奮している様子だから、いつもはこんな人じゃないって事だけは念頭に置いておいてくれるかな?」



今現在、工房の玄関には、ライア達……というよりも≪合成術≫の所持者であるリグを出迎えようと気合を入れているリネットが待ち構えている。



『先生……あまり興奮して、リグを怖がらせないでくださいね?』



『任せるのです!!そのリグ君という子は今後の錬金術の世界を変える事の出来る人物なのです!故に怖がらせるなど、この貴族学園で【錬金術の魔女】と言われたリネット・リールトンの名に誓って、ありえないのですよぉ!!』



「……いつもはこんな感じじゃなくて、もっと落ち着いた人だからね?」



工房の決して薄くない扉の向こうから聞こえて来るリネットと分身体ライアの会話を聞きながらリグに怖がらせないようにそう先に伝えておく。




「アハハ…大丈夫だよ!むしろ歓迎されてないんじゃないかって少しだけ緊張してたから、逆にホッとしたよ」



リグはライアの気遣いを嬉しく思いながら、実際にホッと安心しているのだとわかる笑みを浮かべながらそう言ってくれた。



(くぅぅ……やっぱこの子いい子で大人だなぁ……ていうかこの世界の子供って大体いい子過ぎないか?)



そんな事を脳裏に浮かばせながら、そろそろリネットを待たせるのもあれだろうと、工房の中に入ることにする。





―――――ガチャ…



「先生…戻りましたよ」



「…えっと、お邪魔します…」




扉を開けると、玄関のど真ん中にリネットとライア(分身体)がおり、リネットは扉の開く音に反応して、こちらに顔を向ける。



「いやぁ遠路はるばる、ようこそなのです!ボクがこの錬金術工房の主のリネット・リールトンなのです!!」



「あ、リグです……この度は孤児院の件もそうだし、俺を雇ってくれてありがとうございます」



どうやらリネットは興奮しているようだが、ほんの少し喋り出しが可笑しい以外は普通に自己紹介が出来ており、リグもそんな歓迎ムードのリネットにあまり緊張をしなかったのか、きちんとスラスラ話すことが出来ていた。



「借金の件に関しては正規の値段で合成魔石を買ったので、お礼は不要なのですよ?むしろ、ボクの工房に来てくれて、こっちが感謝をしたい位なのです!本来であれば、合成魔石の値段ももっと高くても良かったのですが、それでは逆に他の錬金術師達への迷惑にも……」



「はいはい、先生?そのままずっと話されたら俺もリグも困ってしまうんで、ひとまず応接室に移動しましょう?」



ライアはこのままだと、玄関先で立ったまま、リネットの錬金術トークを興奮のままに喋り出しかねないと判断し、工房の中の応接室に移動しようと提案する。




「あ、それもそうなのですね。このまま立ち話をさせるものでもないのです」



「その移動の間に少しは冷静になっていてくださいね?」




ライアに止められた手前、自分が興奮していたのを自覚できているのか「えへへ…気を付けるのです…」と照れたような反応をしていたので、今度は大丈夫だといいなと、工房の奥に向かって歩き出すライア達なのであった。












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