鷹の目
「さて、それじゃパテルにさっき言っていた新しいスキル……≪鷹の目≫の練習法を伝えておくね」
王都を出発してから少し経ち、リグに≪合成術≫の鍛錬を始めてもらいながら、パテルに図書館で調べたスキルを教えることにする。
「……≪鷹の目≫…目に関係するスキルか?…」
「そうだよ、このスキルは遠くの物を見たり、暗い暗闇でも目が見えるようになるスキルらしいよ」
このスキルを図書館で見つけた時は、なんでこんな良さげなスキルが有名になっていないのだろうと思うほど、いいスキルだと思った。
しかし、リールトンの街のギルドマスターに≪鷹の目≫の詳細を聞くと、どうも今わかっている習得
訓練方法ではかなり時間が掛かるのと、訓練に使う“望遠鏡”が割かしいい値段がするので、冒険者業で時間が無い者やお金に余裕が無い者達には不人気なスキルらしい。
だが、時間に関しても道具を買うお金に関してもライアにとって問題は無いので、取ろうと考えたわけだ。
ちなみにギルドマスターにそんなスキルあるのなら教えてほしかったと言ったら「最近お前、リネットのとこで≪錬金術≫ばっかやってたから、スキルを教える機会が無かったんだよ」と言われてしまい、そういえばライア本体はしばらくギルドマスターの所に行っていないなと思い出し、自分の所為かとギルドマスターに謝罪をしておいた。
「とまぁそんなわけで、これが≪鷹の目≫を取得する為に使う望遠鏡になります」
「……何がそんなわけなのかはわからないが……これをどうするんだ?…」
パテルは望遠鏡を見た事が無いのか、恐る恐る望遠鏡を持ち、くるくるとどんなものかを観察している。
この世界の望遠鏡は値段にして銀貨5枚…つまりは前世で言う5万ほどもする高級品で、無駄に装飾が多い贅沢品である。
なぜそこまで高いのかと言えば、実はガラスや窓などは多くは無いが生産されているのだが、レンズに加工する技術はまだ未熟で、生産量が極めて少ないので、この値段らしい。
「そこの透明なガラスみたいのがついてるとこがあるでしょ?そこを覗いてみて」
「……こう…か?……ッッ!?ライアがさらに縮んだ!?」
パテルは一昔前のお笑いのごとく、反対向きの望遠鏡を右目でのぞき込むと、心底驚いたリアクションをする。
「覗く穴が反対だよ!そっち向きで覗くと色んなものが小さく見えて、本来の向きで覗けば大きく見えるはずだから………ん?“さらに”って……」
パテルの反応に若干の疑問を持ちつつも、持ち方の間違いを指摘してあげるとパテルはすぐに正しい向きに持ち替える。
「……これは……中々に奇妙な感覚なんだな…何やら目が回りそうだ…」
「そうなの?もしかしたら慣れないと脳が混乱しちゃうのかもね」
パテルは少し望遠鏡を覗いていただけで、少し気分が悪くなったようだった。
これは予想なのだが、もしかしたら望遠鏡はライアの使っている≪分体≫の別視点による酔いに近い現象が起きているのではないかと思う。
この世界にはゲームやテレビ、それにカメラと言った自分以外の視点に触れる機会が極端に無く、そう言った視点酔いを起こしやすい人が多いのではないかと考えた。
(他の≪分体≫使いが居ない時点で考えてたけど、この世界の住人はかなりそう言った耐性が無いのかも知れない)
ライアはほんの少し具合が悪そうになったパテルから望遠鏡を預かり、少しだけ休むように伝える。
「……すまない…だが、すぐに慣れてみせよう……」
「気にしないでいいよ、元々は≪格闘技≫の練習に飽きた時用のだからね。今は≪鷹の目≫の練習法だけ知ってもらえればいいから」
そう言ってライアも望遠鏡を覗き、馬車から見える外の景色に目を向ける。
「さっきは俺の事を見てたけど、本来は遠い所を見る為の道具だから、こうやって外を見ると、そこまで視点酔いはしないと思うよ」
パテルに望遠鏡の正しい使い方を教えながら、出来るだけすぐになれるようにレクチャーしつつ、スキルの練習法を伝えていく。
「≪鷹の目≫を取る為には、遠くの風景を見た後に望遠鏡から目を離して、裸眼で同じ風景を見ようとすればいいんだ」
「……それは、その望遠鏡とやらなくても出来るのではないか?」
パテルの指摘通り、この練習は遠くを見ようとすればいいのだから、道具などを使わなくても取得出来そうにも思える。
「裸眼で遠くを見ようとするなら、元々の限界まで見える風景までしか見えないでしょ?…この練習は望遠鏡で、実際には裸眼で見ることが出来ない遠くを視認した後に、裸眼で望遠鏡で見えた風景を想像し、見える
「……なるほど…?」
パテルはよくわからないと言った表情で見つめて来るが、これ以上の説明の仕方が分からない。
≪変装≫に関しても、背が伸びるという物理法則をどっかに捨てたような物なのだから、スキルに関してまともな説明が出来るとは思わないでもらいたい。
「まぁどのみちこの1月で習得は無理だろうから、気長にやろうよ!…むしろ≪格闘技≫の方が取れる可能性の方が高いんだから」
「……おう…」
そう締めくくるとパテルは自分の訓練を開始しようとリグの隣に移動し、型の練習に入る。
(さて、それじゃ俺も色々と練習を始めようかな……≪鷹の目≫以外にも色んなスキルがあったけど、すぐに欲しいって思うのはあんまりなかったけど……≪伸爪≫……ネイルとかやってみるのもいいかも?)
ライアは図書館で調べたスキルを考えながら≪鷹の目≫の習得目指して、望遠鏡を覗きこむのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます