さらば王都











3日後……



今日は予定通り、アイゼル達とリールトンの街に向けて出立する日なので、朝から屋敷の前には輸送隊の人達や護衛の騎士達が集まっていた。




「……お、俺ってここにいてもいいのかな……場違いじゃないですか……?」



「大丈夫だよ、君の事は伝えているから俺の傍にいれば問題ないから」



「えっと……はい……」



屋敷の前にはもちろんライア達もおり、ライアの傍には孤児院出身のリグが片身が狭そうに怯えている。



「……あの、ホントにウィスン……なんですか?」



「アハハ…ごめんね?いきなり言われてもわかんないよね」



リグのライアを見つめる反応はあたかも疑心暗鬼そのもので、疑いの目を向けて来る。



というのも実は、リグに分身体の事を伝えるのを忘れていて、今日ウィスンにこの屋敷まで連れて来てもらってから、ライア本体で「よろしくリグ…俺がウィスンの正体のライアだよ」と自己紹介をしてしまい「は?」と疑問を持たれてしまった。



そこから10分ほど、ウィスンはライアの作り出した分身体であり、今まで話していたのはライアだと伝えたのだが、よくわかっていないのか、リグは他人行儀で話しかけて来る。




「えっと、後で分身体を実際に生み出す所を見せるから、それで信じてくれるといいけど」



「あ、ごめんなさい……ウィスンの言う事だから疑っている訳じゃなくて、単純にどうゆう物か分かんなかったから…」



やはりこの子は優しい子だなと感じながら、ライアは笑みを溢す。



「ふふふ……謝らなくてもいいよ。それに無理に敬語も使わなくていい、俺は平民だしね」



「あ、わかり……わかった」



リグはウィスンの時は敬語を使う子ではなかったのに、ライアが本当は偉い人?とでも思ったのか敬語を使用していたので、自分は平民だから使う必要はないと説く。




「よし!それじゃ、そろそろ馬車の中に入ろうか!」



リグに説明が終わり、時間もそろそろいい頃合いだろうと話を切り上げ、馬車に乗り込もうと動き始めるライア達。





「……ウィスンって女の人だったんだ……」





「ん…?リグ、何か言った?」



歩き出したライアの後ろで、リグが何か口に出したような気がしてそう聞くと「何でもないよ」とライアの後ろを歩き出す。




(……?)




この時はウィスンが男の姿をしており、リグとも男として接しているつもりで話していたが、ライア本体が女装姿のままなので、リグにはライアが女性なのだと勘違いされているのだが、それに気付くのはしばらく経ってからだった。











―――――――――――

―――――――――

―――――――








馬車が出発し、ライア達の乗る馬車にはライア、パテル、リグ、それにアインス達を含めた7人が乗っている。



アイリスに関しては初日はアイゼルが担当してくれるらしく、この馬車にはいない。



今回はリグも乗っているし、色々とスキルの件やらを話し合う時間が欲しかった為、すごく助かった。



「……さて、今回はリグもいるからより狭くなるけど、1か月も旅路はあるので、スキル習得とレベルアップの特訓をして行こうと思います」



「……あぁ…」「………お、おう……」



パテルは元々口下手で、リグは行きの旅に参加していなかった為よくわかっていない反応だ。




「まずパテルは馬車の中で出来るのは正拳突きの型と柔軟ぐらいなのは元々として、ちょっと新しく見つけた良さげなスキルがあるので、それも同時進行で取得を目指して行ってみよう」



「……わかった…」



実はこの3日間にスキル関連の本を図書館で見まくり、結構色々なスキルの取得方法が分かった。



その中でも比較的パテルも使いそうで、馬車の中で取得出来そうなスキルがあったので、それの取得も練習する事にした。




「そしてリグ!」



「はい!!」




「リグには基本は≪合成術≫のレベル上げを頑張って欲しいから、色々と材料は持ってきたので、それをひたすら合成する練習かな?……一応、違うスキルの取得を目指す練習も考えて来てるから、≪合成術≫に疲れてきたら教えてね?そっちに移行するから」



リグにはリネットの工房で沢山≪合成術≫を使用してもらう予定なので、今のレベルのままではまだ足りない。



なので、リグの≪合成術≫のレベル上げに必要な材料などを結構な量持ってきたので、ひたすら合成してもらおうと考えたのだ。




「が、がんばる…!」




ちなみにリグは≪合成術≫以外のスキルを持ってはいないらしいので、自衛の為にも戦闘スキル……≪格闘技≫とかでも取ってもらおうかなと考えているので≪合成術≫に疲れたら、パテルと一緒に柔軟の練習だ。




「それじゃ、練習を始めるとしようか!」



「…おう…」「うん!」
















―――――――ベルSide





「行っちゃったのね……」




朝、ウィスンさんがリグを迎えに来てすでに3時間ほどが経ち、朝食を摂る子供達の中にリグはおらず、その風景を見てリグがここを出て行ったのだと再認識してしまい、胸に穴が開いたような寂しさが私を襲う。




「……ダメね…あの子の為を思うのなら送り出して正解なのだから、後悔なんてしちゃ……」



ウィスンさんと話していたリグをあの時、院長室で私が話を止めて、リグに「行ってはだめよ」と伝えれば良かったと後悔が過ぎってしまうけど、それは私のわがままなのはわかってる。




「はぁぁ……」



「せんせい……だいじょうぶ?」



そんな落ち込んだ表情をしている私に気が付いて、心配してくれた子供達が私に声をかけて来る。



(……今落ち込んでいたら、この子達を悲しませるだけね…それに、せっかく孤児院が売られなくなったのだもの!私に出来るのはこの子達をちゃんと育て上げて、皆が返って来れる場所を作ってあげる事よね!)




この時にはすでにもうウィスンに魔石の代金を貰い、孤児院の借金は返して、ここの利権はベルの物になっていた。



なので、ベル自身がこの孤児院を売るか、何か借金をしてまた借金の形などにならない限りはもうこの場所は安泰である。





「ごめんね皆…皆のおかげで私もすっごく元気になれたよ?ありがとうね」




そうだ…リグもここが嫌で出て行ったんじゃない…。いつかはまた王都に戻って来て、私達に元気な顔を見せに来てくれるんだ。



だから私はここで、リグの帰る場所になろうと決意を胸に、子供達の笑顔に応えるのであった。












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