リグの将来2
「……って言っても俺達が王都を出立するのは数日以内だ。さすがに数日でお別れは嫌だろうから数か月後に迎えに来ることも出来るぞ?」
今回の目的である国王との謁見はすでに済み、アイゼルの用事などが終わり次第すぐにリールトンに戻る予定なので、リグの心の準備やら孤児院の皆とのお別れも出来ないと思い、そう提案する。
「俺は別に持って行く物も無いし、別れるのが遅くなっても辛さは変わんないから、ウィスンが良いならすぐに王都を出ても構わないよ」
リグはもうリールトンの街に行くと決心したのか、ウィスンの言葉に惑わされずにはっきりとそう言う。
(……さっきまで子供らしく泣いてたのに…強い子だね)
目はまだ少し赤く腫れながらも、どこか大人びた表情をするリグに感心を向けてしまう。
「わかった……なら、出発する日時が決まったら教えに来るよ。それまでにお別れとか色々済ませときなよ」
「わかった」
そんなやり取りを交わして「今日はもう遅いし、部屋に戻りなさい」というベルの言葉にリグは従い、ウィスンに「それじゃ待ってるねー」と言って部屋を出ていく。
「……すいません、ベルさんに確認しないでリグを連れて行く話をしてしまって」
「いえ、あれはあの子が決めるべきことだと思いますし、話自体は隣で聞いてたので、止めようとするなら止めれました……でも、それは私の勝手になりますから」
院長室にベルとウィスンの2人きりになり、勝手にリグの行く先を決めた事を謝罪すると、ほんの少しの寂しさが見え隠れする表情でそう返事を返してくる。
「あの子は強い子です……小さい頃からあの子を見てきた私にはわかるんです。あの子はもっと広い世界に行きたがっているって」
ベルはこれまでリグと過ごしてきた時間を思い返しているのか、とても優しい顔をしている。
「だから私はリグを広い世界に連れ出してくれるウィスンさんには感謝してるんですよ?」
「それは……ありがとうございます」
ベルのこちらに対しての感謝の気持ちしか感じ取れない言葉に、謙遜や否定はいけないなと思ったライアは素直にその言葉を受け取り、お礼を返す。
「どうして、お礼を言っているのにお礼を返されるのでしょう?」
「……少し言いたくなってしまいました」
「あら、それはしょうがないですね。ふふふ」
何が可笑しいのか分からないまま、しばらく2人は笑い合ってから孤児院を出ることにしたのだった。
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――――――
~おまけ~
――――リネット工房 分身体Side
「ライア!ライア!合成魔石の出力はすべて2倍なのですか!?質の変化はどのように変化したのですか!?エクロイールの魔石という事は静電気……つまりは電気の出力が上がるのですから、これまで出力が低くて、どうしても使い勝手が悪かった魔石達も色々と活用法が見つかるかもしれないという事なのです!これはとても素晴らしい発見なのですよライア!今後≪合成術≫の持ち手が現れれば錬金術師同士での人材競争になるのです!こうしちゃおれないのです!ライア!今すぐ冒険者ギルドに≪合成術≫の詳細を伝え、出来る事なら所持している人材を見つけたら此方に斡旋してくれるようにお願いするのですよ!!!」
「落ち着かないと、もう実験室のお掃除、並びに工房でご飯なども作ってあげませんよ」
「ぴぃぃッッ!?!?」
リグの実験結果を話す前から暴走気味であったリネットであるが、合成魔石が予想以上の大成功の結果に暴走が止まらなくなっているようで、息継ぎをしているのか分からないマシンガントークが止まらなかったので脅しをかけてみると、雛鳥が踏まれたような悲鳴が発生する。
「お、お、お掃除はライアだけが頼りなのです……ボクはもう実験室でお夜食を食べながら、そのまま寝落ちる生活無しでは生きて行けないのです……」
「えぇぇぇ……」
リネットは掃除も出来なければ、実験室で寝る人だとは知ってはいたが、どうやらもうライア無しでの工房生活は出来ない所まで来ていたらしい。
実はリネットにご飯を作っている事に関してなのだが、ここ1か月程家に帰っても誰も居ないので、殆ど帰っておらず、リネットはずっと工房で寝泊まりをしているのだ。
普段は工房で泊っても、1度は屋敷に戻り、着替えや食事を摂りに行っているので、工房で食事を摂ることはあまりない。(紅茶やお菓子はあるが…)
なので、家に帰らないリネットにきちんとした食事を摂ってもらおうにも、ユイはまだ料理が出来ないので、仕方が無くライアが作ってあげているのだ。
「落ち着いたのですライア…落ち着いたのですから、どうか許してほしいのですぅ…」
2か月前まではとても頼りになる人だと思っていたリネットが、どんどん自分の所為でダメになって行く姿を目の当たりにしたライアはため息を吐きながら、声をかける。
「はぁぁ……大丈夫です、お掃除をやめたりしないので、そんなに必死にならないでください。きちんとご飯も作りますから」
「ホントです……?」
「うぐ……ホントですよ…」
背の小さいリネットはライアの顔を見上げ、自然と上目遣いになるリネットに少し動揺してしまうが、平静を装って、そう返事を返す。
(うぅ~ん…先生も顔は整っていて可愛いんだよね…やっぱり……)
意外な思いなのかもしれないが、リネットの顔を見て“可愛い”と感じてしまうライア。
(………この顔とスタイルなら、すらっとしたマーメイドドレスとかじゃなく、足元をふわふわさせた青のプリンセスドレスが似合うかな……くっ、着させたい…)
しかし、可愛いという感情=着飾りたいという欲求に何日か前に変えられていたらしく、ファッションショーで自分が着たドレスを脳内でリネットに着せ変えするのであった。
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