リグの将来
「…って事で、実験は大成功の結果だよ」
魔石の確認を終えリネットを落ち着かせる間に、ソファで休んでいたリグ達に実験の結果を伝えておいた方が良いと考えたライアは、2人に合成魔石の出来を伝えた。
「やった……これで、皆と別れ離れにならずに、この孤児院で一緒に暮らしていける?」
「そうだね、孤児院の借金なんかはすぐに返済できるだけのお金はすぐに貰えるような結果だよ」
リグの確認に肯定を返すと、身体の力が抜けたのかソファに座りながら脱力し、目から涙を溢す。
「……良かったぁぁ……もう駄目なんだって思ってたから…」
落ち着いていて、大人な印象があったリグだが、さすがに自分たちの家を守れるのだとわかって、子供のらしく、今までの孤児院が無くなってしまう恐怖を泣き言として吐き出す。
そんなリグを横からそっとベルが抱きしめ、静かに「ごめんね…辛い思いをさせて…」と懺悔をするようにベルも涙を流す。
(……さすがに今この2人に話しかけるのは空気が読めていないのはわかるな……どうしよう…)
リネットは興奮して落ち着かせるまで話が出来ないし、こちらでは2人が泣き止まないと続きを話せないので、ウィスンはしばらくの間、そこに立ち尽くすしかなかった。
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「すみません……お恥ずかしいお姿をお見せして…」
「いえ、とてもいいご関係ではないですか」
あれから10分程泣きじゃくった2人は、傍にウィスンが居る事を思い出したのか、ベルは顔を赤らめながらこちらに謝罪をしてきて、リグはまだ疲れて立ち上がれないらしく、赤くなった目を擦りながらソファに座ったままだ。
『……すまないのです…少しばかり興奮してしまったのです…』
『はい、落ち着いてくれれば構いません』
リネットの方もやっと落ち着いて来たので、今後に関しての話も出来るとライアはホッとため息を漏らす。
『……落ち着いたのですから…どうか…どうか工房の掃除をボイコットするのだけは許してほしいのですよ?』
『…………』
まぁ、リネットを落ち着かせる為に、ほんの少しの脅しは使用したが、冷静になってくれたのであれば問題は無いだろう。
「さて、これでリグの≪合成術≫が活用できることが分かったのですが、一つ確認……いや、これはリグにお願いかな?」
「俺にか?何でも言ってくれよウィスン!俺にとってあんたは孤児院を守ってくれた恩人だ」
どうにもこの世界で色んな人に恩人認定されるのだが、これは何かそういう運命なのであろうか?
「そんな簡単に決めてくれるなよ?…今からするお願いはリグにとってこれからの人生を左右するものだ。ちゃんと考えて答えて欲しい」
ウィスンは真剣な表情でリグにそう伝えてから本題に入る。
「リグには出来れば、リールトンの街の錬金術工房に来てもらいたいんだ」
「それって……俺がこの孤児院を出てって事…?」
このお願いは実験が成功したら元々言うつもりではあったが、言ってしまえば早い話スカウトである。
リグの魔石を合成する≪合成術≫は希少な特殊スキルで、持っている人を探すのは難しいし、居たとしても別の職に就いていて、こちらに来てくれるともわからない。
なのでまだ仕事に就いてないリグは、リネット達錬金術師にはどうしても欲しい人材なのだ。
「そうだね…でも今すぐにリールトンの街に来てって事じゃなくて、仕事に就くときにリールトンの街に来て、俺達と一緒の職場に来て欲しい…ってことかな?……まぁ今すぐ来て欲しいは来て欲しいんだけどね」
どうしても欲しい人材ではあるが、せっかく孤児院の無事が決まったのにすぐにお別れはリグに酷だとそう付け足して伝える。
「このお願いは断られても文句は言わないし、こちらが注文した魔石を合成してくれれば毎回報酬はちゃんと出すよ?…さすがに毎回金貨とかでは出せないと思うけど」
一応断っても問題はないと教えて、無理矢理頷かせるようなことにならないように気を使ってそう伝えるが…。
「ううん、大丈夫だよウィスン……俺行くよ」
「リグ……それは私達の為なのかしら?だとしたら、ダメよ。これは貴方の人生を決める問題なのよ?」
リグは少し考えている表情をしていたと思ったら、こちらの目をしっかりと見つめてそうはっきりと返事をする。
そんな決意の篭った言葉を聞いて、ベルは目を見開き驚きながら、そう確認するように言葉をぶつける。
「先生…確かに孤児院の皆の為に、お金を貯めたいって事もあるけど、これはちゃんと俺の為でもあるよ。……ウィスンは多分俺の知らない事を沢山知ってるし、ウィスンの近くは沢山の事が起きる気がするんだ」
「………」
「俺って結構知らない事とかを勉強するのは好きみたいでさ……色んな事を見て覚えて、色々知って行きたいんだ。だからウィスンの誘いを受ける……いや、俺がウィスンに付いて行きたいんだ」
ライアはリグの言葉を聞いて、やはりこの子は自分をしっかりと持った大人な子だなと感心する。
(…そういえば、リグとさっき会った時も図書館であれだけ真剣に本を読んでいたし、あれもその一部だったのかな…?)
今にして思えば、利用者の少ない図書館に孤児院の危機だからと言って、小さい子供が好き好んで活字ばかりの本を読みに来るというのも変ではあったのだと思い至るライア。
「そっか……後悔はないのね」
そんなリグの思いを聞いたベルは、リグの目をじっと見つめながらそう確認するとリグはとても子供らしい笑顔を浮かべてはっきりと「無い!」と返事をするのであった。
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