合成術







「お待たせ!持ってきたよ」



ベルとリグに詳細を伝えてから、王都の冒険者ギルドに向かい、魔石をいくつか買い取って来ると、早速実験をしようと再び院長室に集まった。




「……本当にこの魔石ってのを混ぜ合わせられれば、孤児院は大丈夫になるの?」



「リグの≪合成術≫がどんな結果になるかわからないから約束はできないけど、この孤児院の借金はどうにかできるだけのお金は手に入ると思うよ」



もし合成した結果魔石が使い物にならないようになったとしても、それを買い取って研究するとリネットとは話しているので、魔石自体が合成できなかった。などという事にならない限りは借金問題は気にしなくていい。



ちなみに今回の実験はリネットも凄く興味津々なので、分身体経由でこの実験自体を聞いている。




『ライア!早く実験に移るのです!!』



どうやら冒険者ギルドに魔石を買いに行っている時からそわそわしていたリネットはもう待つこともしたくないらしく、分身体のライアをせっつく。




「……と、少し急いでほしい人もいるみたいだから、早速実験を開始しようか」



「うん!わかった!」




「……誰か急ぎの方でもいるのですか?」




ここには3人しかいないはずなのに、まるで他にも誰かがこの実験を待ち望んでいるように聞こえたベルはぼそりと質問を投げかけて来るが、聞こえなかった振りをして、リグの手元に注目する。



リグの両手には王都近くの森林地帯の川で現れる“エクロイール”と呼ばれるほんの少しだけ電気を帯電する魔物の魔石を2つ持たせていた。



「その魔石は同じ魔物の魔石で、電気の魔力を帯びているんだ。でも一つの魔石だと威力が全然なくて、使い物にならない位の出力しかない所を…」




「……俺が≪合成術≫で混ぜ合わせて、1個の魔石より強い威力が出せれば実験は大成功って事だね」



「そうだ」



魔石1つの威力などはここに来る前に軽く確かめてきたから、事前準備は出来ている。後はリグが≪合成術≫を行うだけである。




「……それじゃ、始めるね…≪合成術≫ッ!!」



リグがスキルを発動させると、リグの手元にあった2つの魔石は、徐々にお互いを飲み込み合うように合成されていく。



「……ぐっ…これいつも石とかで練習するより、キツイ……」



リグの両手の魔石はまだ3分の1程度しか混ざっていない中途半端な状態であるのに、リグはいつもと感触が違うのか、顔を苦し気に歪めながらそう伝えて来る。



「……合成は始まってるし、混ざっていない訳じゃないから出来ない訳じゃないはずだけど……レベル不足か??」



リグは元々≪合成術≫を練習していたみたいだが、それでもスキルレベルが低いのか、魔石の合成に苦戦している様子だった。



「スキルレベルが足りていない可能性があるな……リグ、続けられそうになかったら、途中でやめてくれて構わないぞ」



「大丈夫!!……キツイけど、この実験を失敗にする方が俺は嫌だ!!」




リグの心の中には孤児院の事がよぎっているのか、苦しそうに顔を歪ませながらも、瞳は力強く両手に持つ魔石を見つめていて、実験をやめる気は一切ないようだった。




「ぐっ……ぬぅおぉぉ……」



「リグ……」



そんなリグの必死な姿をベルは止めはせず、ただ心配そうに見守る姿が少しだけ信頼の証なのだなとライアは思った。






リグが≪合成術≫を使用してから5分程経っただろうか。リグは息を荒くしながら魔石にかけていた≪合成術≫を解く。





「でき……た!!」



リグの両手の中には小さい魔石2つがあった状態から、一回り大きくなった1つの魔石が出来上がっており、ひとまず魔石を合成することには成功したのだと理解する。



「お疲れリグ……その出来た魔石を貰っていいかな?」



ウィスンの言葉にリグは頷くと、魔石をこちらに渡して近くのソファに座り込む。



「リグ!?大丈夫なの?痛いとこは無い??」



「…うん、大丈夫だよ先生……ちょっと疲れただけ」



いきなり力が抜けたように座り込むリグを心配したベルは、すぐに駆け寄り体に異常はないかを確認していた。



そんな2人を横目に見ながら、ウィスンはリグに渡された魔石がどのようになったのかの確認を行う事にする。



(まず大きさは一回り大きくなっている以外、見た目に変化は無しだね……魔力も通りそうだし、魔石としての機能が無くなったわけではないみたいだから、これは期待できるかも…?)



魔石の状態を念入りに見て行き、その状態をリネットにも伝えていく。



『で!で!!?魔石の質と保有魔力や属性の変化と威力に関してはどう変わったのです!?!?』



『ちょちょ!!先生!!揺らさないでください!今すぐに確認しますから!!!』



リネットに分身体を揺らされながら急かされるが、ライアも結果は知りたいので早速魔石に≪錬金術≫を使い、どれだけの変化が起きているのかを確認する。



「さっきは弱い静電気みたいなのしか出なかったけど……おおぉ?」



ギルドで魔石を購入して、その魔石の属性魔力の威力なんかを確かめた時には、ほんのわずか指先に静電気が走る程度だったのに、この合成魔石ははっきりと元の魔石よりも強い静電気が発生していた。



(威力は確実に上がってる……見た感じでどれくらい変わったかを予想するなら、ちょうど倍くらいの威力かな…?元が小さいから他でもそうとは限らないけど……でも確かに威力が上がってる)



そのままライアはどれだけ魔力が入るのか、魔石の強度がもろくなっていないかなどを静かに確認していき、結論を出す。



『先生……完璧に元の魔石の上位互換になってますね』



『………』




ライアは魔石を調べて、実験は大成功だとリネットに魔石の事を伝えると、リネットは地面を向きながら黙り込んでしまう。



『先生?』



『……今すぐその≪合成術≫持ちを此処に連れて来るのです!!!金貨100枚までならボクが払って見せますのですーーー!!!』




黙り込んでいたリネットに強い既視感を覚えながら声をかけると、リネットはご乱心の様子でそう叫び出す。




『ちょッ!?金貨100枚とかアホな事言わないでください!!なんて金額叫んでるんですか!?』



『錬金術の未来が今ッ!!変わる時なのですッッ!!!ボクを止めるななのですぅぅぅ!!!!』




そこからリネットを落ち着かせるのにしばらく時間が掛かったのは言うまでもないだろう。











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