解決策










「「「「「いただきまーす!」」」」」




孤児院の仕事を終わらせ、夕食の準備が整うと、街に出掛けていた子供たちが戻って来たので、夕食にしようという事になった。



子供達は全員で20人のようで、食堂に集まった子供達はウィスンの作った夕食を食べ始める。




「ホントにもう夕食の準備が出来てたのね……」



先ほど掃除した孤児院の中を見て変な顔をしていたベルだったが、ウィスンの作った夕食を見て、今度は何故か呆れたような表情をしている。




「ウィスン!これめっちゃうまいよ!」



「口にあったようでよかったよ。ベルさんも味の方はどうですか?」




「……え?あ、はい。とってもおいしいですよ?」




突然話を振られたベルは驚いたような反応をしながら料理の感想を言うが、どう見ても何かを考えていて上の空と言った反応であった。



「えっと……口に合わなかったですかね?」



「あ!いえ違うんです……少し気になってることがあって、それが気になっていただけなので、料理は本当においしいですよ?」



ベル自身も自分の上の空を自覚したのか、ウィスンの言葉を必死に否定し、そう弁明してくる。



「気になる事……ですか?」



ライアはベルの言う“気になっている事”が孤児院関連の事なのかと声を静めながらそう話すと、ベルは「あ、いえ」と否定を入れてから、特に隠すこともなく気になってる事の内容を話してくれる。



「気になってる事というのは、ウィスンさんの家事の速さの件ですよ。

あれだけの仕事をたった1時間ちょいですべて終わらせるんですもの……さすがに驚いてしまいますよ」



「あぁ……まぁ速さには一応自信はありますよ?≪家事≫のスキルレベルも17ですし、ステータスは高い方だと思いますので」



「17ですか……それはすごい高いですね……私はまだ10になったばかりでしたので、それだけ違いが出るのですね……もしかして、お仕事は掃除屋さんとか料理人とかですかね?」



ベルは自分のスキルレベルと7も違う事に感心して素直に褒めてくれるが、これが15歳のライア本体の姿であれば普通はありえないと思われるものだが、ウィスンの姿の年齢は大体24,5に見えるくらいなので、それだけのレベルでも不可能ではないと思われたのだろう。



それでも男性姿であるウィスンが≪家事≫のレベルが高いことに不思議は残ってるらしく、仕事で≪家事≫を使用する人なのかと聞いてくる。



「まぁ、掃除屋さんで合ってますかね?毎日呼び出されてゴミ屋敷一歩手前の部屋を片付ける毎日ですよ……」



「あら、それは大変ですね……」



≪分体≫スキルによる経験値の効率化などの詳細は話すつもりは無かったので、リネットの工房の話をそれらしく話し、そのおかげでレベルが高くなったと誤魔化した。










『へっきしッッ!!……何か噂をされているような気がするのです……』



『……ソンナコトナイデスヨー』



『ど、どうしたのです!?いきなり変な喋り方をして?』






遠く離れたリールトンの街で女の勘らしきものが働いたのか、くしゃみでズバリと言い当てられ驚いてしまうが、何とか誤魔化しておく。




「……とまぁそんなわけで家事は得意なので、俺に任せてしっかり休んでください」



「……ありがとうございます…」




そう話を締めくくると、まだ始まったばかりの食事を再開し、子供達と賑やかに夕食を楽しんだ。









――――――――――――

――――――――――

――――――――






夕食を済ませ、使った食器を素早く洗い終えるとベルとウィスン、それにリグが普段子供達が入らない院長室に集まって、孤児院の問題の解決策を話そうと集まっていた。



最初はリグがその場にいることに、ベルはいい顔はしなかったが、自分の疲れをリグに心配されるようでは、大人だからとか、子供だからなどと言っても説得力はないと考えたのか、リグの参加を拒否はしなかった。



「…さて、それじゃ始めようか」



「……始めると言っても、私から出せる案などはもうないと言えるほど考えたつもりなのですけれど……」



「…俺も色々と考えてるけど、全部ダメなんだろうってわかるような物しか考えれなかった…」



ウィスンの言葉と同時に2人がこの会の意味を無くしてしまうような事を言い出すが、それは今までの2人の苦悩があったからこそ出た言葉だろうと解釈し、2人の言葉に返事を返す。




「確かに今更話し合ったところで簡単に解決策が出るものでもないだろうけど、何もやらないよりはいいだろう?……それにここには俺が要るし、もしかしたら解決策を出せるかもしれない」



「……解決策があるの?」



「言ったろ?出せる“かも”だよ……案がある訳じゃない」



“かも”を強調して、解決案がある訳では無い事をリグに伝えれば「そんなすぐには出ないよな…」と少しだけ肩を落とす。



「だが、少しだけ確認したい事もある。それ次第ではもしかしたら状況を打破できる可能性もあるかも知れないからね」



「「…あるの(ですか)!?」」



ウィスンの言葉に肩を落としていた二人がバッと顔を上げ詰め寄って来るのを手で押さえこみながら話の続きをする。



「待て待て!だから確認したい事の結果次第だって!期待はしないでくれよ!……それにもし俺の考えてる事を仮に実行できたとしても時間はかかるし、子供達の将来を勝手に決める結果になる事にもなるんだ」



「子供たちの将来を……ですか?」



ベルはさすがに子供たちの将来という言葉を聞いて、少しだけ冷静になったのか、話を聞く体制になる。



「ウィスン……俺は孤児院の皆がここで暮らしていけるなら俺はどうなってもいいぞ?」



「リグ!そんなことを言うんじゃないの!」



逆にリグは少しでも希望があるのならと話を聞かずに先走りながらそう言って、ベルに止められている。




「だから話の続きをちゃんと聞きなさいって……まず先に確認するけど、子供達のスキル情報って聞いてもいいのかな?」



「えっと、さすがに勝手に教えるのは私的にしたくはないですが…」



「俺は話してもいいけど……」



ウィスンの言葉にベルは勝手に子供たちのスキルを喋るのは良くないと思い言葉を濁し、リグは自分だけの犠牲なら大丈夫だが、他の子どもたちは巻き込みたくないといった感情を感じ取れる返事を返してくる。



「まぁそうだよね……確認したい事ってスキルの事なんだ。子供達の中で仮に≪錬金術≫ってスキルを持ってる子がいれば、俺か俺の知人にお願いして教え込んで今の現状をどうにかしてあげられる」




この案というのは、万が一≪錬金術≫を貰った子がいた場合のみ使える手ではあるが、この孤児院の子供達の中に≪錬金術≫を貰った子がいる確率はかなり低いであろう。



これは前にリネットに聞いたことなのだが、特殊スキルよりも≪錬金術≫を貰う方が珍しいらしく≪魔力操作≫持ちを探して≪錬金術≫を取得させた方が全然早いとの事。




「……えっと…ごめん、多分ここに住んでる皆はそのスキルを持ってないよ」



「だよねぇ…ぶっちゃけこれはただの確認しただけみたいなものだからな。期待させてすまんな」




悲しそうな顔をしながら教えてくれたリグにそう謝り、そのスキルがどんなものかを2人に説明する。



「…てな感じで≪錬金術≫持ちがいれば、スキル取得の時間を節約して傷薬を作り出せると思ったんですよ」



「あの高価な傷薬が……という事はウィスンさんの知人という方は錬金術師様なんですね!」



「えっと…まぁそうですね」



実際にはライアも錬金術師でウィスンも≪錬金術≫を使えるのだが、言いふらす必要も無いので、そのまま知人が錬金術師という事にしておく。




「ウィスン……珍しいスキルはもしかしたらお金になるかも知れないの?」



「ん?一概にそういう訳では無いけど、使い方次第では色んなスキルがお金集めに使えると思うぞ」




≪錬金術≫の話とそれに伴う傷薬の話をすると真剣そうに考え込むリグにそう質問され、そう返事を返すと、リグはウィスンの方に顔を向けてある疑問をぶつけて来る。






「俺……俺の≪合成術≫ってスキル、何か役に立てれないかな??」








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