孤児院の仕事(家事)









「すみません……少しだけ嬉しくなってしまったもので…」




孤児院の一角で行なわれた抱擁は、リグの苦し気な声にベルが気付いた事により終わったのだが、お客の前で恥ずかしい事をしてしまったとベルが照れながら謝罪してくる。



「はぁ……はぁ……はぁ……げほげほッ」



「……しばらく休んでな…」



ベルのハグにより首を絞められていたリグは、咳をしながら息を整えていたので、休むように伝えておき、ベルと先ほどの話に戻すことにする。





「えっと、自分がここに来た理由は先ほど言った通りなので、孤児院の手伝いとか色々を手伝いますよ?俺は≪家事≫スキルも持っているので、大抵のことは出来ますし」




「……そう言ってくれるのは嬉しいのだけれど…本当にいいのかしら?あなたはこの孤児院の従業員では無いのに……」



ベルはウィスンに迷惑が掛かるのではと心配してくるが、ウィスンは「構わない」と返事を返す。



「それに、それを言うならベルさんだって、今は給料とか貰ってないので孤児院の仕事をする必要はないですよね?……子供達の為に残ってるのは聞きましたから、俺も同じですよ」



「ウィスンさん……ありがとうございます」




ウィスンの説得が聞いたのか、ベルはそうお礼を伝えて来る。



「さぁ、何が出来るかもわかっていない状態なんですから、先に孤児院の仕事を片付けちゃいましょう!」



「はい」




そう結論が出てからは孤児院の中の仕事をしようと中に案内してもらうと、やはりこの大きさの建物を1人で管理するのは厳しいらしく、至る所に埃や汚れが残っていた。



ベルの話では、数人の子供達が掃除や洗濯を手伝ってくれるのだが、それも焼け石に水らしく、仕事がたまる一方だったらしい。



そんな状態なので、まずはベルとウィスンで別々に家事仕事を済ませることにした。



ベルはたまりにたまった洗濯物を担当してもらい、ウィスンは建物内の掃除と夕食の準備に取り掛かることになった。




「本当に夕食の準備までお願いしていいのかしら…」



「構いませんよ、俺が来たのはベルさんの休憩する時間を作る為でもありますから」



「……助かります」



孤児院内の掃除をする場所と厨房を場所を案内してもらいながら会話を交わす。




「……先に聞いておきたいんですけど、孤児院の借金っていくらか聞いてもいいですか?」



「……少々値段を口に出すのもあれなのですけど………小金貨5枚です…」




ベルは心底払えるわけがないと思っているような表情でそう言ってくるが、ライアは「小金貨5枚位なら傷薬500本作るだけで返せるな…」と考えてしまう。



(……あれ!?もしかして、すでに俺の金銭感覚っておかしくなってる??)



「そうですよね…こんな金額用意するなんてウィスンさんも無理だと思いますよね…」



自分の知らない間に認識が変わっている事を自覚したライアは少し驚愕としていると、その表情を金額を聞いて深刻に思っている表情と勘違いしたベルがそう言ってくる。



「え、あ、いや…そういう訳じゃないですけど……えっと……何でもないです…」



「はい?」




ウィスンは勘違いを訂正しようとするが、今それを言ってもお金持ち自慢をするだけになると思い至り、言葉を濁す。



本当なら全てライアのお金で問題を解決してもいいのだが、それをしたら頑張っているベルやどうにかしようとしているリグ達に失礼なので、もうどうしようもないとなった時の最終手段にしたかった。



(ひとまず、どれくらい借金があるのかは分かったんだ、まずはそれをこの孤児院でどうにかできないかを考えよう)



「っと…ひとまずこんな感じです。厨房の中にある冷蔵庫に今日の分の食材は入っているので、それを使ってください」



そんな風に考えながらベルに孤児院を案内をしてもらい、自分の掃除する場所などを理解する。




「冷蔵庫ですね?わかりました……それじゃ俺はこのまま掃除を始めますね!」



「はい、私は水場にいますので、何か質問があったら聞きに来てください」




ベルはそう言って離れていき、掃除道具を持つウィスン1人が残される。




(それじゃさっさと終わらせますか!)










―――――――――――

―――――――――

―――――――









―――――ベルSide




私はこの孤児院が借金の形で売られるという話が出てから、どうにか子供達を他の孤児院や安全な場所に移してあげたいと思って、給料も無くなり他に働いていた人たちも来なくなった中、1人ずっとこの孤児院を支えてきた。



子供達は可愛いし、私の事を「先生」と慕ってくれるこの子達をどうにか守りたくて頑張っていたが、さすがに1人で孤児院一つの仕事を回すのは無理があった。



仕事は次第に間に合わなくなり、その補填で寝ずに作業をするしかなかったのだけど、そんな生活が長く続く訳もなく、私の顔はひどく疲れた顔をしていた。



そんな倒れるギリギリな時に子供達の中で一番頑張り屋さんのリグが街で濡れ衣をかけられた時に助けてくれたというウィスンさんが訪ねてきた。



話を聞くと、どうやらリグにこの孤児院の事を聞いて手伝いに来たのだという。



それを聞いた時は“ここの従業員でもないのに…優しい人なんだな”と少しだけ昔の同僚に対して文句混じりの考えをしてしまった。





そんなウィスンさんに申し訳なく思いながら孤児院の掃除と夕食の準備をお願いして、私は洗濯物に取り掛かり大体1時間ほどが経った頃、ようやく洗濯物を洗い終わる。




「ふぅ……あとは干すだけね……さすがに沢山溜まってて時間掛かっちゃったけど、干したらウィスンさんのお手伝いに向かわなきゃね」



先ほど話していた時に「こちらはやっておくので、ベルさんは終わったら休んでてください」と言われたがそうもいかないだろうと、洗濯物を持って物干しがある庭に急いで向かう。




「あ、先生!こんなとこにいたんだ!」



「あら、そんなに興奮してどうしたの?」



庭に出ると、孤児院に住む一人の男の子が興奮しながら私の元に駆け寄ってくる。




「なんか、掃除をしてる人がものすごい勢いで床とか壁を綺麗にして行って孤児院の中がめちゃくちゃ綺麗になったの!それにその人が作ってる料理がすっごい豪勢だったから、今日はなんかお祝いでもあるのかなって!」



「……それって、ウィスンさん……よね?」



私は男の子に「こっちこっち」と手を引かれながら孤児院の中に連れられて行くと、先ほどまで掃除が行き届いていない者とは打って変わり、床が輝いているような錯覚をするほどに綺麗になっていた。



「これって……」



「あ、ベルさん。洗濯物が終わったんですか?こっちももうすぐ夕食が出来ますので、休んでいてくださいね」



私は完璧に掃除が終わってる様子に呆然としていると厨房から出てきたウィスンさんにそう声をかけられる。




「えっと…掃除も終わって…夕食の準備も終わり…?」



「はい、勝手がわからない部分もあったので1時間もかかってしまいました」











1時間“も”じゃない!1時間“しか”経って無いのだけれど!?!?






私は少し疲れておかしくなったのかもと、洗濯物を干したら素直に休ませてもらおうと思うのであった。









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