ライアの女装講座










「お、ここにいたのかライア殿!探してしまったぞ」



「アーノルド様??」



ステータスカードの書き換えをして、パテル達が待っているであろう部屋に向かっていると、護衛を引き連れた第一王子のアーノルドがこちらに駆け寄って来る。




「あ、もしかして先ほどの件でしょうか?」



「うむ!ぜひともライア殿とはお話をしたくてな!出来ればこの後少しだけ時間を貰えないだろうか?私の部屋で紅茶を飲みながらでも女装の事などを聞きたいのだが」



アーノルドは目をキラキラとさせながらライアに詰め寄って来て、お茶の誘いを申してくる。



(なんか、すっごい変な人だけど、なんか大型犬みたいな人だな……こんなこと言えないけど…)



アーノルドの駆け寄って来る姿や目をキラキラさせてこちらを伺う姿に若干の不敬な考えを過らせてしまうライア。



(お茶の誘いは受けるべきなんだろうけど……さすがにみんなを待たせることになるしなぁ……どうしよう)



ライアはパテルやアイリス達を待たせている事実を考えて、アーノルドにどう返事を返そうかと悩んでいると、隣で話を聞いていたモーゼスがライアの考えを読んだのか、話しに割り込んで来る。



「……ライア君は待たせている人たちの事を考えているのだろう?その事なら私が皆を屋敷に連れ帰るから気にしなくていい……ライア君の帰りの馬車も用意してもらうように手配もしておくから、アーノルド様とお話してきなさい」




(え、それって俺だけこの王城に残されるって事……?こっわ!)




「おぉ!それは助かる!私も出来る事なら沢山話をしたかったのでな。それであればあまり時間を気にせずにライア殿と話せるぞ!」





モーゼスはアーノルドの誘いを断る助言ではなかったようで、ライアを1人ここに置き去りにする提案を提唱された。



その提案を聞いたアーノルドは元々は短時間の予定だったらしいお茶会を何故か時間いっぱいに行うといい始めるが、否定も苦情もライアに言う勇気は無かった。



周りに味方がいないと虚無顔を晒していると、モーゼスは「では、私はこれで」とさっさといなくなってしまい、アーノルドと護衛数人達に加え、ライアだけになってしまった。





(……俺、なんか屋敷に戻ったら、モーゼス様のこと殴ってしまうかも…)




謁見の場でのことや女装の件でも助けてくれるどころか、追い打ちをかけてきているモーゼスに恨みを募らせ、物騒な事を考えるライアであった。





「では、ライア殿。私の部屋に向かうとしようか!」



「ハイ…」









――――――――――――

――――――――――

――――――――








アーノルドの案内で王城の奥の方に向かって歩いて行くと、謁見の間までの道にはなかったお茶会などをする為なのか、広い中庭や広い運動場なんかも目に入った。




そんな風に辺りを観察していると目的の部屋に着いたのか、アーノルドが一つの扉の前で止まる。



「さぁライア殿、ここが私の部屋だ。」



――――ガチャ…



「失礼します…」



アーノルドの部屋に入ると、デザインのいい家具や小物が置いてある高級感のある部屋が目に入る。



(……女装がしたいって感じだったけど……女の子趣味の物は無さそう?)



部屋に入って目に入るのはどれも落ち着いたデザインの家具ばかりで、少しばかり意外に思ってしまう。



「私が女性ものの洋服などをこの部屋においていたりすると、「王子に女性の影が!?」と噂されてしまうとメイド達が片付けてしまうのでな。私としては化粧品などの勉強をする為に化粧台の1つや2つを常備したいのだが……」



「いえ…化粧台は1つの方がよろしいかと…」



アーノルドのボケか素なのかわからない発言にツッコミを入れつつ、部屋の中に進んでいく。




「ライア殿はここで少し座って待っていてくれ、今紅茶の用意をさせる」



「あ、お構いn……ハイ」



アーノルドの気遣いで部屋にあった席に座るとメイドにお茶の用意をさせるというアーノルドに遠慮しようとすると、満面の笑みを向けられ、静かに席で待とうと決めるライアであった。



(イケメンの笑顔の圧はつえぇ……)







――――――――――

――――――――

――――――






「さて、では早速ライア殿の話を聞かせて貰いたいのだが…まず最初に大事な事を確認したいのだが、確認していいか?」



「えっと、私に答えられることなら…」




メイド達が机の上に紅茶とまさかのケーキを持ってきて、お茶会が始まるとアーノルドはライアの方を真剣な眼差しでじっと見つめながら話をし始める。





「………師匠と呼んでもいいか?」




「出来る事ならアーノルド様にそう呼ばれるのは身分的に少々あれでございますので、ご遠慮させていただきたく思っているのですが」



ライアはアーノルドの言葉を聞くと同時に「それだけはダメだ!」と判断し、少し変な口調になりながらも早口で断りを入れる。




「むぅ……さすがに私ではまだ師匠の足元にも及べないからな……そこはまたいずれ頼むとしよう!」



「……出来れば、いずれもやめて頂きたいのですが………あれ?今師匠って呼びました?」



アーノルドは微妙にライアの言葉を聞いていないのか、少し見当違いの方に解釈しているみたいではあるが、現状は師匠呼びをやめてくれるらしい。



「では、まずはライア殿に確認したいのだが、私のような体格の男性はどうすればもっと女性らしくなれると思うだろうか?」



アーノルドは普通に「ライア殿」呼びをしてくれつつ、己の背の高さや骨格が女性らしくないと相談を持ち掛けて来る。



「えっと、まず確認したいんですが≪変装≫スキルなどは取られていますか?」




「≪変装≫?いや、そんなスキルがあるのは初耳であるな」




アーノルドに確認すると、貴族や王族には取るべきスキルや勉強するスキルが決まっていて、その中に≪変装≫のスキルが無く、知らなかったのだという。



≪変装≫のスキルは自分以外の他人になりきって服装や化粧をすれば手に入るスキルなのだが、必要性が少ないスキルなので、服屋のような職についてる人などしか知らないみたいだった。



ライア自身もたまたまかぁさんに化粧を教えてもらって遊んでいたら手に入れたスキルだったので、あまり知られていないスキルだとは思っていなかった。




ライアは≪変装≫スキル詳細をアーノルドに伝えて、取り方なども教える。




「自在に体の骨格や身長を変化……それは素晴らしすぎるよ師匠!!!」




「まぁでも、私は効率的にレベルを上げて行って、やっと21レベルですからね……身長を変化させるまでレベルを上げるとなると時間が掛かりますよ?……師匠ではないです」




アーノルドは自身でも女性になりきれると興奮しているのかそう発言して笑みを溢している。




「よし!!では早速≪変装≫スキル取得を目指すとしよう!!たしか自分以外になりきって生活するのであったな?」



「はい」




ライアにそう確認すると、部屋の中にあったタンスをあけ、中にあった女性でも着そうな男性服を取り出し着替え始める。




「ライア殿!色々と拙い身ではあるが、化粧や服に関しても相談させてくれまいか!?」



「アハハ…はい、今日はアーノルド様にずっとお供しますので、なんでもお聞きください」




「さすがは師匠だ!」と叫ぶアーノルドに「師匠はやめてくださいね」とツッコミを入れながら、ライアの女装講座は続いて行くのであった。













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