謁見の朝









悪魔のファッションショーが開催された前日を何とか終えて、翌日の今日は国王に謁見する日である。



「……ふぅ…きもちぃ~」



ライア達は朝早くにシシリーに起こされると、すぐに湯浴みをするように言われて、浴場にて身体を清めに来ていた。



ちなみに余談ではあるが、湯浴みをする際にシシリーには「お背中をお流しいたしますね?」と一緒にお風呂に入ってこられそうになったり、パテルと一緒にお風呂に入ろうとして「やめろ!俺はまだ正常だ!」とよくわからない事を言って、部屋に戻って行ってしまった。


元々国王に謁見するのはライアだけらしく、パテルが身を清める必要はないとの事だったので、結果的にライア1人でお風呂に入っている訳だ。




(パテルも朝風呂は居ればよかったのに…朝からお風呂は嫌なタイプかな?)



そんな朝のお風呂タイムを経て、温まった体の水気を取ってから更衣室外の廊下に出ると、シシリーと数人のメイド達がそこで待ち構えていた。




「…あの?」



「ライア様のお着替えを手伝いにまいりました。衣装はこちらで用意させてもらいましたので、ご案内させていただきますね」



シシリーが決定事項だと言わんばかりにそうライアに告げると、「こちらです」と廊下を歩きだしてしまう。



ライアは昨日のファッションショーを経験したことから、メイド達に着替えを手伝われる事に抵抗が無くなっていたので、ライアは素直にシシリーの後を付いて行く。




「…えっと、シシリーさん…少し確認したいことがあるんですが」



「はい、なんでしょうか?」




ライアは前を歩いているシシリーに昨日の件からも色々と「そうなんだろうなぁ」と考えている疑問を質問してみることにする。




「もしかして、用意されてる衣装って…ドレスとかだったりします?」



昨日のアイリスやルルの発言で「これで国王様もご満悦ですわね!」やら「これで明日も大丈夫です」と言っていたし、何より一昨日のモーゼスの発言もあって、ドレス姿で謁見するのかと心配になりそう聞く。



「あぁ、その件ですが……あれはアイリスお嬢様やルルの悪ふざけと判断してもらって構いませんよ」



「…そうなんですか?」



シシリーに確認すると、どうやら昨日のファッションショーなどはアイリス達の独断で行われているし、さすがに国王と謁見するのにドレスはダメだと判断されたらしい。



(さすがにそうだよね……ドレスを着たりするのは別に嫌じゃないけど、国王様を騙すような物だからって心配してたけど、さすがに謁見の場は男装か…)



ライアがシシリーの言葉を聞いて、ホッと安堵のため息を漏らす。



「ドレスはお茶会や舞踏会などで着る物ですからね。謁見の際にはもう少しタイトな洋服を準備させておりますので」



「あ、ありがとうございます………ん?」




ライアはシシリーの発言に少しだけ違和感を持つが、どうやら着替えをする部屋に着いたようで、シシリーに確認する前に話を切られてしまう。




――――ガチャ…


「さ、こちらのお部屋になります。どうぞお入りくださいませ」




「…失礼します………これは…」



部屋の中に入ると、部屋の中央にライアが着るであろう衣装が置かれていて、その衣装にライアは目を引かれてしまう。




「シシリーさん……これが“タイトな洋服”…ですか?」




「はい、こちらがライア様に着ていただく衣装になります」




(どう見てもスカートなんだが???)




部屋の中央に準備されていた衣装はどう見てもスカート(膝上)であり、女性用の服であった。




「それでは、大旦那様方の朝食の時間もありますので、早速着替えましょう」




「あ、そうですか…わかりました…」



ライアの心は国王に謁見する際に、不敬とされないことを祈りながら、目の前にある女性用の服をシシリー達に着せられる事くらいしか、出来なかった。











―――――――――――

―――――――――

―――――――










「おぉぉぉ!よく似合っているじゃないか!さすが我がリールトン家の使用人達だな」




「はぁぁぁぁ…ライア様……そのような女性騎士のような洋服も大変似合っておいでですわね……」





ライアが着替えを終わらせ、朝食の時間だと食堂に向かうと、すでにモーゼス一家やアイリスがおり、ライアの姿を褒めてくる。



「ありがとうございます…」




ライアが着ている衣装は上は白い軍服のような形で、肩や胸元に刺繍や宝石があしらわれており、下は前世で言うストッキングに近いズボンを履き、青いラインの入った膝上ほどの短いスカート姿である。



服装以外に関しては、赤い綺麗な髪を横から後ろに向けて編み込みでまとめていき、後ろで丸めたヘアスタイルに軽い化粧と耳飾りを付けており、どこからどう見ても貴族の女性にしか見えない姿である。





「これほどの出来であれば、ライア君が平民と言われるほうが違和感になってしまうな」



「あなた?そう言った発言はよろしくないと思いますよ?

……ライアさん、本当に似合っていますよ?……その…どう見ても女性にしか見えないですが…」




モーゼスの言葉が平民に対して、少しだけ失礼な物言いになっていると指摘するモーゼスの奥さんであるセリーナは、ライアの姿を見て、そう感想を伝えて来てくれる。



「ありがとうございます…なんだが、皆さんに男性と忘れられている気がしてましたが、セリーナ様の言葉で少し安心しました…」



「…多分ですけど、うちのモーゼスは忘れてるのではないかしら…?」




「…………」




セリーナは指摘されたことを反省して、落ち込んでいるモーゼスをちらりと見てから、そう教えてくれた。



(国王に怒られたらモーゼス様の所為

ライアは心の中でそう思わずにはいられなかった。










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