ドレス・ファッションショー








リールトン家の屋敷で食事をしたその翌日…。




「さぁさぁライア様!今日はわたくしと一緒に沢山可愛いドレスを着ていただきますわよ!」



「……アイリス様…まだ朝日が出たばかりの早朝なのですが…」



「わたくし、楽しみ過ぎて殆ど眠れなかったのですわ!なので少し早いかも知れませんが、来てしまいましたの!」



まだ外は薄暗く、早朝の冷え込んだ空気が肺を冷たくする時間帯にライア達の寝ていた客室にアイリスが押しかけ、無理矢理起こされた。



(これが貴族令嬢のわがまま…?いや、これはアイリス様の性格故か…)



ライアは寝起きの眠気の残った頭で、アイリスの奇行を分析をする。



「まだ朝食の時間は先ですので、それまでわたくしのお部屋でお着替えいたしましょう!」



(そりゃこれだけ朝早ければ、朝食もまだだろうね…)



アイリスの発言に対して、そう心の中でツッコミを入れつつ、アイリスに手を引かれて部屋を出る。




「ふんふ~ん~♪」




『…えっとルルさん、朝早くですけどアイリス様の部屋に入っていいものなんですか?』



『……時間的に色々とあれかも知れませんが、一応“朝”なのでいいのではないですか?』




アイリスがご機嫌にライアの手を引いている時に、後ろに付いてきていたアイリス付きのルルに小声で話しかけ、男が薄暗い朝方に貴族のお嬢様の部屋に入るのが良いものなのかを確認すると、そう返事が返ってくる。



『それに、仮にダメだと言ってもお嬢様は止まらないでしょうし、私も止めるのが面倒です』



『……ルルさんって…同僚たちからなんて言われてます?』



『お恥ずかしながら、主人のアイリスお嬢様によく似た出来るメイド…そう評価されております…ぽっ』



ルルはライアの質問に顔を少し赤らめ、照れながらそう答えるが、恐らくそう評価した同僚さんはルルさんに気を使ったのだろうと判断し、これ以上突っ込まないことにした。





「さぁ着きましたわよ!ここがわたくしの部屋ですわ!」



アイリスの案内で着いた部屋に入ると、中には沢山の人形や洋服、それに可愛らしい家具なんかが目に付く、女の子らしい部屋であった。



「おぉぉ…すごい女性らしい部屋ですね…可愛らしい物が溢れているというかなんというか…」



「お父様やお母様などにはもっと物を減らしなさいと言われるのですけど…可愛いを捨てるなんてわたくしには出来ませんので!」



部屋の中はお世辞にも片付いているとは言えない程物が溢れているが、その事を言うとアイリスは自分の信念を持ってそう発言してくる。



(まぁ親に言われて止まるような子ではないんだろうけど…)




「それでは早速着替えましょう!ルル!ライア様のドレスの準備を!」




「かしこまりました、お嬢様。

…さぁライア様、こちらの部屋で着替えましょう」






アイリスに命じられたルルは、ライアを部屋の奥の部屋まで連れられて行く。



部屋に入ると色々と用意してあったのか、様々なドレスが並べられており、大きな部屋を狭くしていた。



「さぁ、まずはこちらのドレスから着てみましょうか」



メイドのルルは並べられていた赤いフリフリがあしらわれているボール・ガウン型(肩が露出して、腰から足元までスカートが広がっている一般的な物)のドレスを持ってきて、そう言う。



「え…あの、さすがに着替えは自分でやりますが」



「いえいえ、ドレスは一人では着替えにくい物も多いですし」



ルルはドレスを持ってくると、着替えを手伝おうと服に手をかけて来るが、さすがに女性に着替えを手伝ってもらうのはダメだと断るが、ルルは折れない。



「一人で難しいのであれば分身体を出しますから…」



「もしも、ドレスを破損させたりしてもいいのですか?」



「…うっ…」



分身体を出してでも断ろうとするライアだったが、小市民的な思考のライアの弱点をえぐるようにルルがそう言ってくる。



「このドレスはアイリス様の持ち物でもありますので、これを破損させてしまえばかなり面倒だと思いますが……それでもご自分で着替えをなさいますか?」



「………くっ…」



ルルは一応平民の出であるらしいので、こちらの弱みをわかっているのか、そう脅しをかけて来られ、ライアは静かに首を下ろし、脅しに屈する。



「ふふふ♪では僭越ながら私が、お着替えをお手伝いいたしますね~?」



諦めたライアの表情を見て、獲物を仕留めたハンターのような目をするルルは、舌なめずりをしながらライアに迫って来る。



「…あの、怖いんですけどなんか!?」



「大丈夫です…痛くは致しません」



「なぜここで痛み!?ちょ、あの!?」



ライアは警戒する相手はアイリスではなく、今ここにいるルルだったのだと認識するが、もう手遅れであった。





「あぁぁぁーーーーーーー!!」









――――――――――

――――――――

――――――





「可愛い!!」



「確かにライア様の綺麗なスカーレッドヘアと同じ、これも大変お似合いではありますが、先ほどの黒のバックレスドレスも大変魅力的でありましたよ?」(※バックレスドレス:背中が開いて露出しているドレス)



ライアのドレス姿に興奮しているアイリスとルルはどのドレスが一番かを話し合っていて、大変楽し気にしている。



「………」



その一方で、ドレスを着せられているライアの目は、何とも場違いなほど死んでおり、2人との温度差を感じる。



(…全部見られた……肌が女の子以上って……アハハハ)



ライアはドレスを着るのに必要だと言われて服をはぎ取られ、全身隈なく見られながらドレスを着せられ、心は疲弊していた。



「むむむぅ…まだまだもっと似合うドレスはありそうですわね…ルル!次のドレスをお願いね!!」



「合点承知ですお嬢様!」



「ひぃぃ~……」



女の子の可愛いへの情熱はこれほどだったのかと再確認しながら、悪魔のファッションショーは続いて行く。









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