謁見にはおめかしを?









―――――ライアSide





「ただいま戻りました」



冒険者ギルドでカエデ達と出会い、リールトンの街の冒険者ギルド職員として挨拶を終えると、すでに夕方に差し掛かっていたので、屋敷に戻ることにしたライア達。



ちなみにガゼルは本当にギルドマスターだったらしく、カエデが顔に影を落としながら肯定していた。



ガゼルは「そんなに嫌か!?」と驚いていたが、サボって酒場で飲んだくれているのに好まれていると考えるガゼルに驚いた。




(サボるのを辞めれば、少しは優しくなるだろうに…なぜ、あれだけサボっているのに、人望があると思えるのか…)




そのようにガゼルのダメ人間ぶりを思いながら屋敷に戻ると、玄関でシシリーに出迎えられる。




「お帰りなさいませ、夕食の準備がもう少しで出来ますので、もう少しお待ちください」



「あ、ありがとうございます…よく、私たちが来るってわかりましたね?」



屋敷の扉を開けた時にはシシリーが待ち構えていたので、何かしら接近を察知するすべがあったのだろうかと質問をする。



「これでも長年リールトン伯爵家に務めるメイドでございますから…では」



シシリーは答えになっていない答えを返すと、すぐさま仕事に戻るのか、屋敷の中に消えていく。



(…よく考えたら、スキルを聞いてるのと同じことだし、少し無神経だったかな?)



スキルを無暗に聞くのはマナー違反だと思い出し、自分の言葉を反省して、ライア達は自分達の部屋に向かう事にする。









―――――――――

―――――――

―――――







部屋に着いた2人は夕食の時間まで少し時間があると、パテルの≪格闘技≫の練習を再開し、ライアはウィスン達の情報を整理していると夕食の時間になったのか、シシリーがライア達を呼びに来た。




――――コンコンコン…


『ライア様、パテル様、夕食の準備が出来ましたので、食堂にご案内しにまいりました』




「わかりました。今行きます」







ライア達はシシリーの案内に付いて行き、食堂らしき場所に着くと他にも人が来るのか、何人分もの椅子が用意されており、少しだけ嫌な予感がよぎる。




「えっと、シシリーさん…もしかして、ここって…」



「はい、大旦那様や他の方々もこちらで食事を摂られますので、この後においでになられます」




食堂の状態を見たライアの表情とライアの発言から、何を聞きたいのかが分かったのか、シシリーは先を読んでライアの思考に対しての回答をしてくれる。



(馬車で領主様と話し合う時も緊張したけど……これはそれ以上だな……俺、夕食食べれるのかな?)



ライアは貴族たちに囲まれて行う食事を予想し、すごい勢いで無くなって行く食欲を感じる。





「あら?ライア様!やっとお会いできましたわ!!」



ライアが食堂の中で立ち止まっていると、後ろからアイリスが駆け寄って来る。



「あ、アイリス様…」



「もう、アイリスと呼び捨てでいいと申してますのに…。

まぁそれはいいのですわ!それよりもひどいですわライア様!わたくしとの約束がありましたのに、外出されるなんて!」



アイリスはライアにそう伝えてプリプリとあまり怒っているように見えない怒り顔でそう伝えて来る。




「え、約束?」



「ライア様のドレスですわよ?屋敷に着いたら沢山着てくれると言っていたではないですの!」



(言ってないよ!?それって君が勝手に言ってたことじゃん!?)



馬車の中で言っていた『明日には王都の屋敷に着いて、ドレスなんかを着飾れますわよ』がアイリスの中ではすでに決定事項の約束であったらしく、ライアに詰め寄って来る。



「今日はもう時間が無くなってしまわれましたが、明日は必ずドレスを着てもらいますからね?今度こそ約束ですわよ!」



「アハハハ………ハイ…」



アイリスに明日の予定を塗りつぶされ、明日の地獄のファッションショーを考えながら返事を返すと、ぞろぞろと他のリールトン一家が食堂に集まって来る。




「やぁライア君、王都観光はどうだったかね?」



「はい…とても新鮮でしたよ?」



「…どうしたのだ?異様に目が死んでいるように見えるが…」




食堂に入って来たアイゼルに今日の事を聞かれ返事を返すが、明日の事を考えていたからかライアの目が死んでいたらしい。




それからはモーゼス一家とアイリス、アイゼル達と一緒に食事を開始し、出てきた夕食を何とか食べきることに成功させる。




「ライア君は≪礼儀作法≫を持っているんだね?普通の冒険者は持っていないことが多いはずだけれど」



「あ、はい…リールトンの街の冒険者ギルドでギルドマスターをしている方に持っていた方が良いと勧められて…」



モーゼスはライアが食事をするところを見ていたのか、そう聞いてくる。



「それはこちらとしても凄く助かるね…これなら国王陛下に謁見する時も特に問題は無いだろう」



「…≪礼儀作法≫が無かった場合はどうする予定だったのですか?」



「その場合は付け焼刃の作法をみっちり覚えてもらって、言われたままに動いてもらう事になっていたかな?」



ふと、国王に会う際にスキルが無い場合にどうするのか聞いてみると、案外シンプルな答えが返ってくる。



「元々国王陛下はそれほど気にしないお方だが、周りの貴族に示しが付かないからね…スキルが無い場合はそうするつもりだったが、ライア君は大丈夫みたいだね」



(礼儀などは大丈夫でも、この格好は大丈夫なのか疑問ではあるけど…)



モーゼスはライアの服装に対しては特に触れては来ないので、問題なしと判断されているのかも知れないが、普通に考えれば良くはないなと考えてしまう。




「ライア様は可愛らしいんですもの!多少無礼をしても許される可愛さですわ!」



「はははは!それはそうかもしれないね」



アイリスの発言を冗談として聞いたのか、モーゼスはアイリスの発言を笑いながら肯定する。



(…多分だけど、アイリス様はガチで言ってるな…目がキラキラしてるし…)



アイリスの性格が分かって来たのかそう予想するが、アイゼルも目を背けながらため息を漏らしていたので、恐らくあっているのであろう。



「ライア様には3日後の国王様に謁見する際に飛び切り似合ったドレスを準備させますから、期待しててくださいまし!」



「こらこらアイリス?ドレスだったらメイド達に用意させるから、ちゃんとメイド達と相談しないとダメだぞ?」



「そうですわね……わかりましたわ!きちんと話し合って決めますわ!」




(おっと、モーゼス様?メイド達にドレスを用意させる?もしかして俺が男って忘れてますー?)




モーゼスの発言を聞いてライアは、モーゼスがライアの性別を忘れているのか、男でも似合っているからドレスでも大丈夫だと判断してそう言っているのかは、わからなくなってしまい、国王への謁見に不安が募ってしまうのであった。










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