少年リーダーリグと王都活動拠点
「…なぁあんた!」
酒屋のおっさんの土下座を見せられ謝罪を受け取り、盗人事件が終わると、街の散策を再開しようと歩き出すウィスンに少年リーダーが声をかけて来る。
「ん?どうかしたか?」
「…さっきは守ってくれて助かった…」
少年は浮かない表情をしながらこちらに近寄ってきて、先ほどの殴られそうになった時の事を言っているのか感謝の言葉を伝えて来る。
「気にしなくても構わないよ、俺は子供が殴られるのを見たくなかったから割り込んだんだし」
「それでも、助けてもらった時はお礼を言えって先生に言われてるから…」
少年はおそらくその“先生”とやらの教えを忠実に守る為、きちんとお礼を言いに来たらしい。
「そっか…ならその感謝は受け取っておくよ。
…君の名前は?」
「……リグ」
少年は小さい声で自分の名前を教えてくれた。
「リグか…俺はウィスン、また会うかもしれないから、その時は仲良くしてくれよな?」
「うん、わかった」
ウィスンは姿などを幾度も変える予定なので、もしかしたらもう会う事もないのかもしれないが、社交辞令としてそう約束を交わす。
「それじゃぁなリグ」
「またなぁーウィスンー!」
リグが手を振りながら他の子どもたちの所に戻って行くのを見送りながら、ウィスンも手を振り返し、リグと別れて、街の散策に戻るのであった。
――――――中央通り ウィスンSide
東側の住宅街方面と西側の商店街方面の探索を2人のウィスンにさせている中、3人目のウィスンは中央通りで聞き込みや王都で生活していくうえでの活動拠点の宿屋を探していた。
「ここら辺で宿屋をお勧めするなら、北門の近くにある“金色亭”をお勧めするかねぇ?あそこは北門にも近いし、料理もうまいからね」
今は宿屋の情報を聞こうと出店を開いているおばさんに話しかけており、金色亭という宿屋兼料理屋を教えてもらっていた。
「そうですか…ありがとうございます!…このチーズ焼きを一つ貰えますか?」
「あら、ありがたいね?……ほら、さっき出来たばかりのチーズ焼きだよ!味わって食べな!」
情報を貰ったし、何も買わないのは失礼と考え、売っていた商品のチーズ焼き一つを買うウィスン。
そのチーズ焼きを中央通りを食べ歩きながら、金色亭のある場所に向かって行く。
(…うん、味がしないね……こればっかりは≪分体≫の嫌な部分かなぁ…)
さすがに買った物を捨てる訳にもいかず、カモフラージュもかねて食べてみるが、分身体の体では食べ物の味が感じないので、何とも言えない顔をしてしまう。
そんな思いをしながら歩いて行くと、北門の前の広場に面している“金色亭”と書かれた看板の建物を見つける。
――――ガチャ
「失礼しまーす…おぉ…」
『はぁーい!ただいまぁー』
『すいませーん!日替わり定食をお願いしますー!』
『3番テーブル、料理あがったよ!』
金色亭の扉を開けると、一階が食事処になっているようで、沢山のお客が食事をしている風景が目に付く。
「いらっしゃいませ!食事ですか?」
食事処の光景に目を奪われていると、近くにあった受付にいた若い女性に声をかけられる。
「あ、いえ…俺は宿を取りたくて来たんですが」
「宿泊ですね?おひとり様ですか?」
ニコニコと営業スマイルを浮かべる受付の女性に宿泊したいと伝えると、とても慣れた様子でハキハキと確認事項を確認してくる。
(食事処は混んでるし、受付の中には予約表みたいな紙もびっしりと書き込まれてる…かなり人気の店っぽいな)
ライアは目に見える情報からそこまで推察しながら、この宿は当たりなんだろうなと考える。
「…3名様で1部屋、宿泊は長期という事でまずは1週間分でよろしいですね?」
「はい」
「では、3階の304号室をお使いください。部屋にある物は壊さないでいただければ、自由に使っていただいて構いません。
食事処は深夜帯はやってはおりませんが、朝早くから開いてますので、ご利用されるのでしたら御贔屓ください。」
受付の女性にそう伝えられ、304と書かれたカギを貰い1週間分の料金を払って受付横の階段を使い、部屋に向かう。
――――ガチャ…
304号室に入ると、リールトンの街のさすらいの宿よりは質が落ちているが、そこそこ広い部屋で、ウィスン達が生活させるのに問題はないと判断できる部屋だった。
「…うん、部屋も悪くないし、王都での拠点はここでいいかな?」
活動拠点を決めたライアは、持ってきていたお金や荷物を部屋に仕舞う事にし、物を片付ける。
「…しばらくお金の心配をしなくてもいい位はお金を持ってきたけど、一応こっちでもお金を稼ぐ当ても探しておかないとか…」
ウィスンはふと、聞き込みをする際に、情報料としてチーズ焼きを買ったり、宿屋の1週間分の値段を払い、ほんの少しだけ軽くなった財布を見て、そう独り言を漏らす。
「まぁしばらくは大丈夫だろうし、最悪は全くの別人に姿を変えて、魔物の素材を取ってくればいいだろう。」
ステータスカードは持っていないので、冒険者ギルドの依頼などは受けれないが、素材の売買は出来るのでそれを最終手段にしようとライアは考えるのであった。
「よし、まだ時間はあるし、もう少し情報を集めに行こうかな」
外はまだ明るく夕方にもなっていないので、色々と情報収集をしに戻ろうと決めるウィスンであった。
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