西側での喧騒
―――――西側の街 ウィスンSide
「こっちは比較的にお店なんかが多いのかな?」
西側の街を調べに来たウィスンが街を歩いていて思ったのは、商会や様々な商品などを扱う商店が多いイメージを持った。
大通りは出店や小さい商店もあり、そこの延長なのかとも思ったのだが、よく見ると扱っている商品が旅人や小金を持って買いに来るような物ではなく、家具や武器と防具…それに貴族達などが利用しそうな服屋なんかもあって、この区画は街に住む人達用のお店が多く並んでいるのだとわかった。
(なるほどね…大通りは外から来た人が沢山来るんだろうし、売る人達を考えて場所が違うんだね…)
大通りで開かれている出店などには歩きながら食べれる物やアクセサリーなどの、旅人や外から来た人達に売るのをメインにした物ばかりであった為、住み分けは出来ているのだなと思うライアだった。
「う~ん…こっち側に関しては沢山のお店があるし、色々見てみたい物もあるんだけど…情報集めをする為のウィスンだからなぁ…買い物はまた今度だね」
商店などで商品を探したり、物を買う為にウィスンを送ったわけではないので、色々みたい欲求を抑えながら、どこかに情報収集に使える店などは無いのかと周りを見ながら歩くウィスン。
「―――!!」
「―――ッ――!」
「…ん?なんだろ?」
様々なお店などを横目にしながら街を歩いて行くと、前方の方で何かあったのか人だかりが出来ており、遠くから人の怒鳴り声らしき物が聞こえてくる。
ウィスンは人だかりになっている場所に向かって行き、怒鳴り声をあげている者達に目を向ける。
「…俺達は取ってねぇって!どこにもそんなのねぇだろ!?」
「じゃかしいわガキども!お前らがウチの店から酒を持ってったんだろぉ!」
人だかりの中心には一人のおっさんと数人の10歳を少し超えたくらいの子供達がいて、その子供達のリーダーらしき子供とおっさんが怒鳴り声をあげていたらしい。
どうやら、目の前にある酒屋がおっさんの店であるらしく、そこの商品であるお酒をそこの子供たちが盗んだと口論になっているらしい。
「だから、俺達じゃねぇ―って!第一俺達が酒なんかを盗んでどうすんだよ!!そんなもん飲まねぇよ!」
「ウチの酒をどっかの店に売りゃぁ金になんだろうが!」
「そんな事するならもっと高いもの売ってる店で違うもん盗むわ!!」
子供達のリーダーはもっともらしい事を言っているが、商品が無くなって熱くなっている酒屋のおっさんはそんな事はお構いなしで怒鳴り散らしている。
(どう見ても証拠は無いっぽいし、酒屋のおっさんはキレて子供達の話を聞いてない…周りの人たちもなんで止めないんだ?)
この騒ぎがいつから行われているのかは知らないが、周りで見ていた人たちは一切止めようとするそぶりは無い。
「あぁだこぉだ言ってねぇで、盗んだもん返しやがれぇぇ!!」
「―――うわっ!?」
その事に疑問を持っていると、酒屋のおっさんはついに我慢できなくなったのか、少年たちに殴りかかる。
―――バシッ!!
「―――やめろッ!!」
さすがに目の前で子供が殴られる所を見逃すのは出来ず、すぐに少年リーダーの前に飛び出し、酒屋のおっさんの拳を手で受け止める。
「な、なんだてめぇ!?」
「…実際に盗んだかどうかは知らないが、子供相手に暴力で解決しようとしてんじゃねぇよ!」
「んっぐ…」
酒屋のおっさんは拳を止められたウィスンに驚き、狼狽えてしまう。
拳を受け止めたウィスンは子供に手をあげた酒屋のおっさんに怒りとともに説教を入れると、やり過ぎたと冷静になったのか、顔をしかめる。
「…だが、こいつらが俺の店の酒を取ったと認めねぇんだよ…それに少し頭に来ちまってよ…」
「その件は俺も途中からしか聞いていないが、何か証拠はあるのか?」
少し冷静になった酒屋のおっさんはウィスンに暴力の言い訳をするようにそう話すが、ウィスンの証拠は?という問いに余計に顔をしかめる。
「証拠は…ない…。だがこいつらは、いつもゴミ箱なんかを漁ってる孤児だぞ!?商品が無くなって近くにこいつらがいたらこいつらだって思うだろ?」
「孤児…?」
酒屋のおっさんは特に証拠もなく、ただ近くに“いつもゴミ箱漁りをしている”孤児がいたから疑っていたと話し、こちらに同意を求めて来る。
(……なるほど…周りの人たちもこの子達が孤児で、盗みを行ってもおかしくないなって思ってたから止めたりしなかったわけか……なんか嫌な気分だな…)
ライアは周りのやじ馬たちの状況などを理解はするが、腑に落ちないな、とイラつきに似た感情を顔に出す。
「…はぁ…俺は王都に住んでるわけじゃないから、孤児達の事も知らないが…さすがに“やってるだろう”で決めつけて、子供を殴りかかるのはおかしいだろう?」
「…それは……そうだな。さすがに大人げなかったな…」
酒屋のおっさんはウィスンの言葉に自分のしたことを客観的に捕えれたのか、反省の色が見える。
「…だが、盗人がいるのは確かなんだ!それがその孤児達じゃないってわかるまで、俺はこいつらに謝りはしねーぞ?」
「殴りかかったことに関しては謝るべきだと思うが…まぁいい。」
酒屋のおっさんは完全に冷静になったようではあるが、子供達をまだ疑っているようでそう言ってくるが、無理に謝らせるもんでもないだろうと思い至る。
「…まず確認するが、君らはこの人の店からお酒は盗んでいないであってるかい?」
ウィスンはずっと成り行きを見守っていた後ろの子供達に目線を向け、そう聞くと、やはり先ほどから子供たちの前で話していたリーダーらしき少年が返事を返してくる。
「……俺達はやってないぞ?」
「嘘だったら承知しねぇからな!」
少年の言葉に酒屋のおっさんは若干のイラだちを込めながらそう言ってくるが、要はこの子達が犯人じゃない証拠があればいいので、早速話を聞くことにする。
「盗まれたお酒はどんなものなんだ?」
「…ちょっと待ってろ」
酒屋のおっさんはウィスンにそう伝え、自分の酒屋に入って行き、一つの酒瓶を取って来る。
「この酒だ。値段はそこまで高くは無いが、結構人気の酒だ」
「…これって…この酒瓶が一個無くなったのか?」
「あぁ」
酒屋のおっさんが持ってきたのは一抱えするような大きい酒瓶で、とてもじゃないが隠れ盗むなんて出来そうにないように思えてしまう。
「…これをどうやって子供達が盗むんだ?」
「そんなの普通に……あ」
酒屋のおっさんは普通に考えればわかりそうな事を今気づいたのか、一気に顔が青ざめていく。
「すまん!!こんな大きな酒瓶をお前らが隠し持てるわけが無いよな……」
「だから、俺達はそんなの持ってねぇって言ったじゃん…」
リーダーの少年はこんなすぐわかるような冤罪をかけられていたのだと知り、はた迷惑だと言いたげに酒屋のおっさんに愚痴を垂れる。
「本当にすまんかったよ……」
酒屋のおっさんはさすがに自分が悪いと反省したのか深く頭を下げて謝罪をする。
「しかし、この酒はこんだけデカいから、無くなったのもすぐに気づいたんだが…
…逆にこれを盗むのなんて、どうやったんだ?」
「…それは…確かに、不思議ですね?」
ライアもこれを盗んだ相手はどうやって周りにバレないように盗んだのかを考えていると、酒屋の中から一人の女性が出てくる。
「あんた!いつになったら商品運んでくるの!?もうずっと裏で待ってるのよ!?」
「…あ!!忘れてた!!…お前、もしかして店の入り口付近にあった酒を裏に持って行ったか?」
「?運ばないといけないんだから、運んでるに決まってるじゃない?なに言ってんのよ」
酒屋のおっさんはすでに白く見えるほど血の気が無くなった顔で、奥さんらしき人に確認すると、どうやら盗人の犯人が身内の仕業で、己の勘違いから起きたものだと理解する。
「大変申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!!」
酒屋のおっさんはそれは見事に土下座をして、少年たちとウィスンに向け謝罪をしたのであった。
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