ウィスン達の役目










―――――東側の街 ウィスンSide





ライア本体が冒険者ギルドでガゼル達と仲良くなり色々と騒いでいた頃、情報収集で別行動をしていたウィスン達は王都の地理を知ろうと、街を歩き回っていた。




「……う~ん…広いな…」



王都の街はとても広く、3人がバラバラに歩いてマッピングして行っても終わりが見えそうにない。



リールトンの街も大きいと思っていたが、王都はその5倍はあると予想できるほど大きい。




「…今日だけじゃないし、気長に調べて行こうか…」



さすがに今日だけで王都全部を見れるとは思っていなかったので、特に悲嘆せずに観光気分で道を歩いて行く。




ウィスン達は馬車で入って来た北門と言われている門から右に見える東側の街に1人と左に見える西側の街に1人、そして中央の大通りでの宿屋探しや、聞き込みに1人が別れており、このウィスンは東側の街の探索に来ていた。









「おぉ…ここは図書館かな?…結構大きいし、また今度見に来ようかな…お?あれって錬金術工房の店かな?」



大きな王都だけあってリールトンの街ではあまり需要が無い為なのか、小さい図書館しかなかったのに対し、国立図書館と言っていいほどの建物もすぐに見つかるし、錬金術工房も見つけることが出来た。


リールトンの街は3人の錬金術師がリネットの工房を兼用していた為、一つしか無かったが、ここでは普通に何店舗かあるようだった。




(まぁ工房に関してはまずいく事は無いだろうけど…)



ライアはリネットに師事しているし、魔道具などが欲しくなったらリネットの所で買うか、自分で作ろうとするので、ライアにとってリネットの錬金術工房以外は行く予定のないものであった。




「ん…?」



大通りを抜け、図書館と工房のある地区を超えると住宅街のような場所に続いていたようで、ライアから見える街並みが一気に変わる。




(さすがに建築技術がリールトンの街とそこまで変わる訳では無いっぽいけど、微妙にデザインが違うね…王都の特色なのかな?)



王都の街並みはリールトンの街の規格化されたあまり変わり映えのしない街並みと違って、壁の色や屋根の形が色々種類があり、華やかな見た目をしていた。



「王都はこういったデザイン重視の設計をするのが流行りなのかな…?見ていて楽しいけど……ん?あれはお店かな…?」



そんな王都の街並みを見ながら住宅街を進んでいくと、一軒のこじゃれたお店が見えて来る。



「“BAR・ハイド”…?酒場かな?」



ライアは住宅街ばかりが立ち並ぶ中で一際いい雰囲気の店を発見し、どうしても気になる。



「BARって事は酒場なんだよな?…ちょっとだけ入ってみようかな」




ウィスンはそう独り言を漏らしつつ、建物の物陰で酒場に合った大人の男性風の姿に≪変装≫し、【BAR・ハイド】に入ることにする。




――――カランカラン…



「いらっしゃい」



お店に入ると、カウンターには渋い男性が立っていて、挨拶をしてくる。



お店の中はまだ時間が早い事もあってそれほどお客が入っておらず、カウンター席も空いていたので、そのカウンターの席へとウィスン進ませ、椅子に座らせる。





「こんにちは、ここじゃ見ない顔だね?」



「あぁ、俺は今日王都に着いたばかりの他所の街の住人だよ」



店主らしき男性は初来店のウィスンを見て、フレンドリーに話しかけてきた。




「そうなのかい?そんな人が良くここを見つけたね?」



「たまたま街を観光してたら、この住宅街に入り込んで、この店を見つけたわけさ。この店の雰囲気が良くて、すぐに入ろうと思ったよ」



詳しくは少し違うが、観光という理由も、別に違う訳では無いので構わないだろう。



雰囲気に気を取られ、店に入ったのも事実なので尚更だ。




「嬉しいねぇ…うちの店はこの住宅街に住む住人達の憩いの場になれるようにデザインなんかはかなり拘った方だからね。褒められるのは素直に嬉しいのさ」



店主はウィスンの言葉に嬉しそうに反応しながら笑みを溢している。




「おっと、少し喋りかけ過ぎましたね…すみません」



「いえ、大丈夫ですよ、それじゃ…」




店主はそう言って話を切ったので、何も頼まないのは失礼と考えて軽いお酒を注文する。



お酒を注文してから店の内装に目を向けると、全体的にモダンな内装がなされていて、店主のこだわりを感じるBARだった。



「――どうぞ」



「ありがとう…少し聞きたいんだけど、この住宅街の先って何があるか聞いてもいいかな?この後観光ついでに行こうと思っているんだけど」



ウィスンの仕事は情報集めなのは変わらないので、この住宅街の先に何があるのかを店主に確認する。



「観光をするのであれば特にこの先に見るような場所はありませんよ?…住宅街の先には子供たちが遊ぶ公園や孤児院くらいしかありませんから」



店主に聞くと、この先はしばらく住宅街が続き、その先にも特に見どころがある訳でもない公園と孤児達の世話をしてくれている孤児院があって、その先は外壁で行き止まりという事らしい。



「…んく…んく…ふはぁ……まぁ俺は観光って言っても街並みを見る為に来ているようなものだから、そこは大丈夫。教えてくれて助かるよ」



「こちらは構いませんよ」



一番端の孤児院まで行くのであれば、30分程掛かるという事も確認できたので、先が見えないマッピング作業もすぐに無くなるだろう。



「今日はまだ観光の途中だから、一旦失礼することにするよ…また来てもいいかな?」



「お客を拒む店主は居ないと思いますが?

…この店はこの時間帯から夜中まで開いていますので、またのご来店をお待ちしておりますよ」



ライアは元々この店の雰囲気に釣られて入っただけだったので、すぐに街の散策を再開する為にお店を出ることにする。



(店に来て、お酒を一杯だけ飲んで帰るのは失礼なのかもしれないけど、そこはまたこの店に来る事で返そう…)




ウィスンはカウンターにいる店主に「ありがとうございました」と見送られながら、店を出る。




(店の雰囲気も良くて店主もいい人だったし、今度は俺本体でも来てみようかな?)



ライアは隠れた名店を見つけた時のような気分になりながら、ウィスンを行き止まりである外壁の方まで歩かせて行くのだった。









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