王都のギルドマスター










「いやぁすまんすまん!要らぬおせっかいをかけたみてぇだったな」




「大丈夫ですよ、心配されて声をかけてくれたのでしょうし」



男はライアの事を誤解しているとわかるとすぐに謝罪をしてくれた。



「そう言ってくれるとこっちも助かるよ…しかし、冒険者“でも”あるのでって言ってたが、なんか訳ありか?普通の冒険者ならそんな言い方はしねぇだろ?」




男はライアの言い回しに違和感を感じて、そこを指摘してくる。




「えっと、冒険者ではあるんですけど、違う街の冒険者ギルドの職員でもあるんですよ」



「…え?…マジで?…」




ライアはリールトンの街での自身の職業を教えるが、冒険者とギルドの職員の兼業は普通には難しいので、男は疑問の表情を浮かべている。



「…ここで嘘を言う理由もわかんねーんだよな……まぁ嘘だったらそのうち分かるだろうし、まぁ別にいいか?」



「嘘をついている訳ではないのですが、そんな軽くていいんですか…?」



もし仮に嘘を言っているのだとしたら、ギルドに潜入するなり冒険者達を騙す為であったりするかもしれないはずなので、放っておいていいとは思わないのだが。




「まぁ…確かに証明するとなったらうちのギルド長と連絡してもらうとか位しかないので、どうしようもないのですが…」



「ははは!確かにそうだ!」




この男は一冒険者で、ギルド関係者ではない…。


よってギルド員の証明をする必要も無いので、信じるか信じないの話だと結論付ける。




「…と、すいません、俺達はギルドに挨拶しに行こうと思っていたので…これで」




「ん?あぁ、ギルド職員なら挨拶しなきゃって事か?そんな堅苦しくしなくても俺は気にせんぞ?」




「いえ、これは冒険者ギルドと職員の問題ですからあなたの気持ちは関係ないのですが…」




男は酔っていて思考がズレているのか少しだけ話がおかしくなっており、ツッコミを入れる。




「いやぁ…?……あぁそういえば俺って名乗って無かったか?

…俺の名前はガゼル・ポートリオ!この王都アンファングの冒険者ギルドでギルドマスターをしている者だ!」




ライア達に話しかけてきた男は、いきなり自分をギルドマスターだと自己紹介をしてくるが、どう見ても酔っ払いの冒険者にしか見えず、ライアは疑惑の目を向ける。




「……えっと…嘘ですか?」




「はははははは!確かに俺がギルドマスターには見えねーよな!…よぉし、そんじゃ証明の為にもちょっとギルドの中を案内してやろう!」



「え?ちょぉ!?」



ガゼル(?)はそう言うや否や、ライアの手を掴んでギルドの2階に連れて行こうと引っ張られる。




「カエデちゃーん!!ちょっとこの子に俺の事をおしえてくれねーか?」



ライアはガゼルに引っ張られながら階段をこけないように上がって行くと、予想したと通り受付カウンターが見え、その中央にいた黒髪ロングのカエデという女性をガゼルが呼び出す。



(…この子の見た目、日本人ぽい?……あれかな、カズオさんと同じ火の国が出身地なのかな?)



カエデという女性はお淑やかな物腰に見え、ガゼルの呼びかけに目を向けて反応する。




「あら?大変だわ!変質者が小さい女の子を誘拐してるじゃない!!」



「え、ちょ!?カエデちゃん!?人聞き悪いって!」




カエデはガゼルに手を引かれるライアを見て、周りの人に聞こえる声量で声をあげる。




「あれって…誘拐か!?」



「ついにか…ついにやっちまったか」



「わぁ…あの子かわいいね」



「誘拐犯に告ぐ!無駄な抵抗を辞め、さっさと自首しなさいサボり魔!!」





「てめぇーらも乗ってんじゃねぇよ!ついにってなんだ!?俺がいつかやるって思ってたやついねぇか!?…あとベルン!!俺は誘拐犯じゃねぇ!サボりは認めるが誤解を招くようなことは言うんじゃねぇよ!」



カエデの声に周りの人たちがガゼルを指差し、ガゼルの事を追い詰めていくが、どうやらこの流れはよくあるようで、ガゼルの叫びを聞くとすぐに興味を失ったように目線が元に戻る。



ちなみにベルンと呼ばれていたのはカエデとは別の受付にいた、男性の職員の様である。




「…ハァぁ…カエデちゃんもあんまりからかわないでくれよ…」



「あら、ならからかえないように真面目に働いて威厳という物を持ってくれませんか?」




「……まぁ、そういう訳で、うちに一番人気の受付嬢のカエデちゃんだ!」



ガゼルはカエデの言葉を聞いて、すぐさま話題を変えようとカエデの紹介をする。



(…なるほど…どこの冒険者ギルドでもギルド長はサボり魔なのが決まっているのか…)



ライアは己の知るギルドマスターの実態を知り、苦労人であろうカエデに目を向ける。




「……ギルド員って大変ですよね……サボりの監視なんかもしなくちゃならないのは……」



「!!!……もしや貴方…職員さん?」



ライアの実感と達観の篭った言葉と目を見たカエデは、不思議とライアが冒険者ギルドの職員とわかったのかそう聞いてくる。




「初めまして、私はリールトンの街で冒険者ギルドの受付をしているライアと言います」



「これはご丁寧に…私はこの王都アンファングの冒険者ギルドの受付でまとめ役のような事をしているカエデと申します」




ライアとカエデはお互いが自己紹介をし、まるで心が通じ合ったかのように自然と手を差し出し、握手をする。





「…待って、なんでカエデちゃん今のでこの子がギルドの職員ってわかったの?なんで君らそんなお互いをわかり合ってるの?」





ライアとカエデの作り出す世界にガゼルが入れず、何か色々と叫んでいる気がするが、2人の耳には入り込んでこなかったようだった。









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