小心者の心











「ん…んくぅぅ~~………はぁぁ…」




部屋に案内されたライアは、ずっと馬車移動であった疲れが出たのか、用意されたベットに横になり、伸びをする。





「……今日はもう休むのか…?」



「…ん~…王様との謁見がいつなのかわからないし、外出をしてもいいのかもわからないからしばらくは休憩かな?」




王都に着いたばかりでいきなり国王様と謁見出来る物ではないと思ってはいるが、一応心の準備をしながら長旅の疲れを取ろうと休憩することにする。



「……では、俺は≪格闘技≫訓練の続きをやっておこう…」



「疲れてない?大丈夫?」



「……むしろ馬車移動で運動が出来ず、動き足りないくらいだ…」




パテルはそういうと部屋の隅に移動し、1か月続けていた柔軟をし始める。



「この1か月間、柔軟しまくってたからだいぶ体は柔らかくなってるね」



「……馬車の中ではそれしかできなかったからな…」



元々は別に体が硬いというほどでもなく、頑張れば前屈でつま先に触れれるかな?と言ったぐらいであったが、今は両足を左右に広げ、上半身を地面に付けれそうなほど柔らかくなっていた。



「というか、もう馬車は降りたんだから次のステップに移ろうよ!もう十分体柔らかくなってるし」



「……次?なにをするんだ?」



ライアはベットの上から降りて、パテルの傍にまで歩いて行き、パテルを立たせる。



「馬車は揺れるし屋根もあったから出来なかったけど、この部屋なら素振りくらいは出来るからね!今から≪格闘技≫の素振りを教えるからやってみて!」



そう言って、小さい頃にかぁさんに教えてもらった正拳突きの素振りを見せ、パテルに真似をさせる。



「……こう…か?」



「そうそう、かなり上手!」




パテルの素振りがフォームがズレていたら教えて修正させ、正しいフォームをパテルの体に教え込む。




「この素振りの型ともういくつかの素振りの型を繰り返し練習して行けば≪格闘技≫のスキルも3か月くらいで取れるよ!」



「……なるほどな…他の型とやらはまだやらなくていいのか…?」



「まずは一つの型を覚えきってから次を教えるよ」



あまり一気に別の型と一緒に覚えると、別の型に釣られて変なフォームになってしまうかもしれないので、そう伝えると「わかった」と特に文句も無く素振りを再開する。




「…よっ…と!」


―――ポスッ…




ライアはパテルの素振りを見ながらベットに戻って寝転がり、これからどうするかを考える。



(謁見とかは俺が考えてもどうにもできないし、後で領主様に聞くとして……王都に来たんだから調べておきたいこともあるし、どうにかウィスン達を外出させたいんだけどな?)



ライアの新たに作り出したウィスン達は王都に着いたら別行動させる予定だったので、どうしようかと悩んでしまう。




(こういう時に領主様達に話を聞きに行ければいいんだけど…平民がこんな立派な屋敷をウロウロ出来るもんかい!!)



今回は客人として招かれているらしいが、普通に考えればこれほど大きい立派な屋敷を持つ伯爵家の貴族と話す事自体、小市民的思考のライアには気が重い問題だ。



そんなライアが初めて来た貴族の屋敷を勝手にうろつく勇気は無かった。




(あぁ…さっきの執事さんが居た時に、色々質問しておけばよかった…)




――――コンコンコン…




「え?は、はい!」




『ライア様、パテル様、大旦那様方がお呼びになられております。案内をさせていただきますので、良ければお部屋に入らせていただいてよろしいですか?』




ライアが少し後悔の念を覚えていると、部屋の外からドアがノックされ、メイドと思わしき女性がドア越しに用件を伝えて来る。




「はい、入っていただいて大丈夫です!」




―――ガチャ…


「失礼いたします。私はライア様方のお世話を任されましたメイドのシシリーと申します」



部屋に入って来たシシリーというメイドは出来るメイドと言った感じにカーテシーをしながら自己紹介をしてくる。




「えっと、よろしくお願いします」




「はい、それでは準備がよろしければ大旦那様の居る執務室までご案内いたしますが、よろしいでしょうか?」




「はい、お願いします」




ライアもパテルも別に着替えをするわけでもないし、準備という準備は無いのですぐにアイゼル達の所に行こうとシシリーに案内をしてもらう。









「…こちらの部屋が執務室になります。

…大旦那様、ライア様方をお連れいたしました」




シシリーの案内でアイゼル達が待つ執務室に到着し、シシリーが扉を叩き、中にいるアイゼルに声をかける。




『入ってくれ』



執務室の中からアイゼルの入室の許可が出ると、シシリーは「どうぞ」と前を空け、入室を勧められる。



「……ふぅ…失礼します」



―――ガチャ…




「ここまで来てくれてすまなかったね?謁見の日時が決まったのですぐに教えた方が良いと思ってね」



扉を開けるとアイゼルとモーゼス、それに執事が1人いる中、アイゼルが用件を伝えて来る。




「お気遣いありがとうございます…実は結構いつになるか気になっていたので、助かります」



「はははは!国王陛下に直接会われるわけだからな、緊張するのも理解できる」




アイゼルはライアの素直な言葉に笑いを漏らしながら、そう言ってくる。




「では、心の安寧の為に早く伝えておこうか…国王陛下との謁見は3日後の正午に行われることになった。その日の朝には王城に向かう事になるので、覚えておきなさい」



3日後…元々謁見の事や火竜の事を知らせておいた状態でそれなら、妥当な方かとライアは考える。




「わかりました。それまではこの屋敷から出ない方が良いとかありますか?」




「いや、外出は自由にしてくれて構わないが、外に行く場合は使用人達に声をかけてくれると助かるが……観光かな?」



「わかりました。…少し王都でやりたい事があったので外出したかったので助かります」




国王との謁見の件は了解したので、先ほど確認したかった屋敷の外出を聞くと、簡単に許可が出たので、アイゼルにお礼を言う。




「やりたい事?それは聞いてもいいのかい?」




「ちょっとした情報集め…ですかね?」




ライアはアイゼルの質問にそう答えながら、後ろに連れて来ていたウィスン達に目を向けていた。










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