リールトン家の屋敷
馬車を降りると、輸送隊の人たちが荷下ろしを開始している中、騎士の案内により屋敷の方に歩いて行く。
そして屋敷の玄関先にアイゼルやアイリス、護衛の騎士達が集まっていて、そこに合流する。
「えっと、お待たせしました」
「構わないよ、さぁ行こうか」
「…え?…あ、はい!」
ライアが合流すると、アイゼル達はすぐさま屋敷の中に入ろうとするので、慌てて後ろに付いて行く。
(えぇぇっと…俺ってただの平民なんだけど…このメンツと一緒に入っていいものなんだろうか?)
ライアは豪華な屋敷の扉が開かれるのを見ながら、小市民的な思いを心に呟く。
―――ギィィーーー……
「「「「お帰りなさいませ、大旦那様」」」」
扉の先にはメイドと執事達、それに高価そうな服をまとう人達が待ち構えており、一斉に声をかけて来る。
(…くっ…!これが上流階級…)
ライアはそんな光景に居心地の悪さを感じながら、護衛騎士達の後ろに隠れるように存在感を消す。
「お帰りなさい父上、アイリス」
「お帰りなさいお義父様、アイリスちゃん」
「あぁただいま、モーゼス達も元気そうだな」
ライアが意味の無い逃避行動をしているとアイゼルは、恐らくアイリスの言っていたモーゼスという人物と会話を始めていた。
(モーゼス…あれがアイリス様の言っていたリールトン伯爵家の長男さんか…)
モーゼスの見た目は緑色の瞳のシルバーの髪を横に流したイケメンで、アイゼル達と同じ血が流れているのが伝わる見た目をしていた。
近くには奥さんと思わしき女性と2人の子供がいて、雰囲気はダンディなお父さんみたいな印象に見える。
「父上、そちらが噂の冒険者ですか?」
「ん?あぁそうだな、先に紹介しておこう。火竜を討伐し、今回国王陛下に謁見してもらうライア君だ」
「……え…あ、はい!冒険者などをしているライアと申します。」
「私はそこの父上の息子で、次期リールトン伯爵家当主であるモーゼス・リールトンだ」
いきなりこちらに話題が飛んできて、ほんの少し慌ててしまったが何とか挨拶を返すライアときちんと自己紹介をしてくれるモーゼスであった。
…騎士はこちらに目が向いた瞬間にスゥーっと横に消えていったので、壁にはならなかった。(……)
「やはり君が…しかし、本当に男性なのかい?どこから見ても女性にしか見えないが…」
「えっと、すいません…紛らわしいかも知れませんがれっきとした男性ですよ。
ちなみに、後ろのエルフ以外の私の連れは≪分体≫で作り出した分身体です」
分身体の事を貴族などに隠してもいい事は無いと思っているし、アイゼルの身内であれば、無理に隠す方がダメだろうと考え素直に分身体達を紹介する。
「これで男性か…後ろの分身体には男性っぽい子もいるみたいだが…それもスキルの力で変えているのかい?…あぁ、別に無理に応えなくてもいいからね?」
スキルの事を熱心に聞きすぎたと思ったのかモーゼスはそう言って謝って来る。
「えっと…お気遣いありがとうございます。無理という訳ではないですよ?…これは≪変装≫のスキルで姿を変えています」
スキルを秘密にするにしても≪変装≫に関しては、冷静になって分身体を見て少し考えればわかる事だと思うので、素直に教える。
「なるほど…では、君の可愛らしい姿も≪変装≫のスキルで?」
「これは……自前です」
「…貴方?」
恐らくライアの姿を≪変装≫で作り上げた物だろうと質問してきたモーゼスだったが、ライアのこの姿は元々のものであるし、日ごろのスキンケアなどのたわものである。
そんな質問をしたモーゼスの隣にいた奥さんであろう人が、ドスの利いた声でモーゼスに声をかける。
「…え?あ、いや!別に口説いている訳ではない!事実の確認をしたまでだろう!?」
「…はぁ…まぁ私から見ても大変可愛らしい方ですからね…」
奥さんは目の前のライアを見てそう発言し、モーゼスの言葉をしょうがないと許したようだ。
「ほっ…」
モーゼスは奥さんの怒りに触れなかった事に安堵したのか、顔を背けながら息を漏らしていた。
「っと…すいません、自己紹介もせずに…ライアさん、私はモーゼス・リールトンの妻のセリーナと言います」
「あ、こちらこそよろしくお願いいたします」
モーゼスに睨みを聞かせていたセリーナはライアの方に体を向け自己紹介してくれたので、こちらも挨拶を返す。
「そして、この子達が私たちの娘で、おねーちゃんの方がメルナ。そしてこの子がモルナ。仲良くしてあげてね?」
「メルナっていいまう!」「もりゅ…な」
セリーナのすぐそばにいたプエリと同い年位の女の子〈メルナちゃん〉とさらに小さい女の子〈モルナちゃん〉がセリーナの紹介と一緒に舌ったらずな自己紹介をしてくる。
「ふふふ…よろしくお願いしますね?メルナちゃん、モルナちゃん」
2人の可愛らしい自己紹介に頬が緩んでしまうが、そのまま挨拶をする。
「…それでは紹介も済んだのだし、ライア君達を客室に案内させよう…頼む」
「かしこまりました」
モーゼス一家との自己紹介が終わると、ライア達の泊まる部屋に案内しようと、モーゼスが近くにいた執事に声をかける。
「ではライア様、こちらへどうぞ」
声をかけられた執事はアイゼルやアイリス達に一礼してからライアの方へ来て、部屋の案内をしてくれる。
「こちらの部屋がライア様の部屋になる客室になります……少しばかり確認させてもらってもよろしいでしょうか?」
「おぉぉ…え?あ、はい。なんでしょうか?」
ライアは執事の案内で着いた豪華な部屋を見て声をあげるが、執事の声を聞いてすぐに我に返る。
「ライア様のお連れ様は殆どが分身体と聞きましたが、部屋はいくつ用意いたしましょうか?一応人数分の部屋はあるのですが、別々ではいけないという可能性がありましたので…」
「あ、すいません!別よりは全員同じ部屋で構いませんよ?ベットが2つあればこちらは大丈夫です」
客室をそんなに使って迷惑をかけたくないし、部屋は一つでベットが2つあればライアとパテルが寝れるので大丈夫と執事に伝える。
「……え?…2つのベット…?」
「そうですか…かしこまりました。こちらの部屋は2つのベットがございますので、このままご使用くださいませ。
…一応別室が必要になればいつでもお声をおかけくださいませ……では失礼いたします」
執事が念のためと気を使ってくれるが、ライアは「ありがとうございます、大丈夫です」と笑顔でお礼を伝え、部屋に入ることにする。
「……同じ部屋……なのか…?」
部屋に入るライアは見ていなかったが、客室の前で難しい顔をしていたパテルを執事が遠目で確認していたらしいが、執事は特に何も言わず去って行ったらしい。
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