スキルの確認その2







「ふぅぅ…まぁ≪変装≫はこれくらいでいいか…」



ほんの少しばかり冷静ではなかったライアは≪変装≫のスキルを解き元のライアになり、気持ちを落ち着かせる。



「はぁ…後は≪礼儀作法≫…これって自分でレベルの上昇を確認できるのか…?」



最後にこの部屋で確認できそうなのが≪礼儀作法≫だけなので、確認しようと考えるが、よくよく考えれば、このスキルは動作や仕草が洗練され、周りの人に高貴な印象を与えたり、マナー面での活躍なので、確認するすべがないなと思い至る。




「……ん~…あ、リネットさんに確認してもらおうかな?丁度今は休憩中だし」








――――リネットの工房にいる分身体Side







「…という事で、貴族である先生に≪礼儀作法≫の確認をお願いしたいのですけど」




休憩時間もそれほど長い訳ではないので、すぐさまリネットに事情を話し、スキルの確認をお願いする。




「なるほどなのです。…スキルの確認をする前に言っておきたいのですが、ライアは少し勘違いをしているのですね」



「勘違い…ですか?」



リネットはライアに意味深にそう伝え、笑顔を向けて来る。



「≪礼儀作法≫のスキルがマナーを付与してくれるのではなく、ライアの知るマナーや立ち振る舞いを再現してくれるスキルというのが正しいのです。

…なのでライアが知る立ち振る舞いを再現できていれば問題はないので、何が出来るようになったとかはあまり関係がないのですよ?」




「え?…それじゃ≪礼儀作法≫のレベル上昇は何の意味が?」



リネットの話を聞くと≪礼儀作法≫はレベルが上がっても意味がないスキルと聞こえてしまう。



「このスキルはレベルが上がると、自分の再現できる立ち振る舞いの種類を増やせるのですよ。

王族相手にはこの立ち振る舞い…下の位の貴族にはこの立ち振る舞い…あとは別の国のマナーなんかも覚えれば再現できるのですよ」



「…あ!…そうですよね。目上の貴族も居れば、領主様から見て下の貴族も居るから、それに合わせたマナーもあるし、国が違えばそれだけで文化が違いますもんね…」



ライアはなるほどと感心し≪礼儀作法≫のレベルの仕組みを理解する。



「なので、先ほど言ったスキルの確認はあまり意味は無いのです。

…どうしても確認をしたいのであれば、ボクが色々な国のマナーや位の低い貴族への接し方などを教えて、どこまでできるかテストしてみるのもいいのですよ?」




リネットはライアがマナーなどを学ぶのがめんどくさいという考えをわかっているのか、からかうようにそう聞いてくる。




「…いえ、大丈夫です…」



「あはは!ボクもさすがにそれは大変なので断ってくれて助かったのです」



「…ぷっ!あははは!」



リネットはからかわれて、渋い顔をするライアを見て笑いをもらし、それに釣られるようにライアも笑ってしまう。




「あはは!はぁ…さて、他にスキルの確認は無いのです?無ければ実験室に戻るのですよ?」




「はい、室内で確認するスキルは少ないのでもう大丈夫です!色々と教えていただきありがとうございました」




「では、休憩は終わりなのですよ!」




リネットはそう告げ、テーブルに用意された紅茶を飲み切ると、一目散に工房の実験室に向かって行く。



ライアは紅茶などを用意してくれたメイドのユイにお礼を告げてから、リネットを追うように実験室に向かった。










―――――さすらいの宿(先ほどの分身体)Side





「う~ん、これでスキルは戦闘用…というか屋外で使うスキルの確認だけだから、これはそのうちアインス達で確認しよう」



部屋でライアは自身のスキルの事やステータスの変化などを紙に記録し、どれがどれほど伸びたのかを確認しながら、確認したスキルの情報も頭に入れる。



この部屋で出来ないスキルの確認は本体たちと居るアインス達が王都から戻るかしたら確認しようと気長に待つことにした。





「なら、他に考えるべきは……“詠唱魔法”かな?」



ライアがそこで思い出したのは、火竜討伐作戦において、ぶっつけ本番と言っても過言ではない“詠唱魔法”の事であった。




「急ごしらえにしては結構まとまったイメージで発動で来ていたけど、あれはぶっちゃけ【1+1=2】という足し算で作り上げた感じなんだよね…」




ライアが言う足し算というのは、あの時いた分身体が10人が1人1人【泥を作り】【泥を操り】【泥を圧縮し】【それらすべてのイメージの補助】というイメージを構築し、ただただ大きい魔法を作り出したに過ぎないとも言える魔法なのだ。



しかし、この魔法は普通であれば人と人がお互いに何を考えているのかもわからない中≪分割思考≫という自分の別人を作り出し≪分体≫で分身体という別人を作り出せるライアにしかできない魔法なのも確かだ。




それでも、ライアはこの足し算の魔法をどうにかして、掛け算の魔法にしたかったのである。




「…多分今のままじゃ足し算のイメージを掛け算にする方法なんて思いつかない…けど、俺の感覚だと何とか出来るんじゃないかなって思っちゃうんだよね…」




何故か何も根拠はないのだが、それでも己のこの“勘”と言われるものを勘違いだと捨て置けず、どうにかしたいと考えてしまう。




「……ふぅぅ…まぁこれも今すぐには出来ないんだろうし…気長に考えてみようかな!」




ライアはまだ見ぬ己の魔法を幻想しながら笑みを浮かべつつ、考えを巡らすのであった。











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