スキルの確認











アイゼルと密約を交わした後は、夕食を食べてそのすぐ後にライア達は就寝した。



基本、王都まで向かう際の野営は、村や小さい街に止まらない限りは早めに寝て、朝早くに馬車を出発させるらしいので、朝の日の出から1時間ほどでライア達は馬車に乗り込み、野営地を出発していた。




「…さてパテル、昨日はアイリス様がいたからやるタイミングが無かったけど、王都に着くまでの1か月間でやろうと思っていた事があります」



「……スキルの鍛錬、か?」



パテルはライアの考えを読んで、先に答えを口に出す。




「そうだね、ただスキルの“鍛錬”だけじゃなく“取得”も出来るように頑張ろうと思うよ?

1か月間、黙って馬車から見える風景眺めるだけより、スキル取得に時間を割いた方が良いしね」



「……取得もするのか……何をすればいい?」



さすがに馬車の移動中に新たなスキルの取得をするとは思っていなかったのか、驚きの表情を浮かべるパテルだったが、すぐに気を持ち直し、ライアにどうするのか聞いてくる。




「パテルには≪格闘技≫を取得してもらう為に、馬車の中で柔軟を行ってもらいます!」



「…柔軟?」



ライアはパテルに柔軟がどんなものか教え、やり方を教える。




「……なるほど…しかし、俺が柔軟とやらをしたら、お前の練習が出来ない位、馬車が狭くならないか…?」



ライア達の乗っている馬車はかなり広いタイプで、10人くらい乗れそうな豪華な仕様であるが、パテルが柔軟を床で行なえば、ライアのスキル練習ができないのでは?とパテルが気を遣う。



「俺は大丈夫だよ、俺は≪格闘技≫を持っているし、元々違うスキルを取ろうと思っていたしね」



実はライアは次に取るスキルを決めており、すでにリネットの工房でも少しだけ訓練していた物があったりする。



「……そうなのか?…どんなスキルか聞いても?」




「俺が今取ろうとしてるのは…≪速読≫だよ」




≪速読≫…読んだ通りの本などの読み物を読む際に、素早く読めるようになるスキルらしく、リネットの工房では≪錬金術≫を学ぶ際にそのスキルの存在を知り、勉強がてら練習をしていた。(ちなみにリネットは取得済みである)





「≪速読≫で必要なのは本を読む座席分スペースで足りるから、大丈夫だよ」




「……そうか、助かる…」




パテルはお互いの訓練が邪魔になり合わないと納得すると、先ほど教えてもらった柔軟をしようと、馬車の床に座る。




「さて…俺も頑張ろうか……さすがに馬車の揺れの中本を読むのは、酔いそうだけど…」



ライアは一抹の不安を抱えながら≪速読≫の訓練用に持ってきていた≪錬金術≫関連の本を取り出し、読み始める。



そして、2人はスキル取得に向け、訓練を始める。












―――――ギルド長付き分身体Side






輸送隊に同行しているライア本体がスキル取得に性を出している時、いつもであればギルドマスターの執務室でギルドマスターを監視している分身体が休暇を貰っていた。




(厳密にいえば分身体の休暇じゃなくて、ギルド長の休暇だけど…)



普段はアレでも、ギルドマスターという肩書きを持っている人なので、殆ど休暇は無かったのだが、今日は珍しく休みなのだという。



なので、いきなり暇になってしまった分身体を使ってスキルの確認をしようと思い、さすらいの宿の部屋で準備をする。



「この間の≪経験回収≫で、殆どのスキルがレベルアップしたんだし、色々と出来ることが増えてるかもだしね」



2日前に回収した時には≪分割思考≫≪裁縫≫≪解体≫≪細工≫≪農業≫≪投擲≫以外はすべて上がっていた。



(戦闘で使うようなスキルはここでは確認できないし、そちらは違う時に確認しよう)




ライアは部屋でも確認できるスキルがどこまで出来るようになったのかを確認し始める事にした。



「まずは≪変声≫…あ~…アァ~…アー↑……『キー』……おぉ…めっちゃ高い」



ライアは≪変声≫を使い、どんどんと高い声にしていくと、前世で聞いたことのあるモスキートーンのような声を発せられ驚く。



「……う、う”ぅん……でもちょっとだけのどに無理が感じるかな?……今の≪変声≫のレベルが18だから、20で問題なく色んな声を出せそう……それ以上はどうなるか予想もつかないな…」



ライアの≪変声≫はすでに、自分と全く違う背丈や声質の人の声も真似して出せており、人の声真似に関しては、もう十分なほどである。





「次は…≪変装≫!!」




ライアは≪変装≫を発動させると背がどんどん大きくなり、顔つきも少しだけ男らしく変わり、どう見ても別人になることが出来る。




「……おぉ…こんなに変われるようになってたんだ…最後に確かめたのはアハト達に名前を付けた時だったからね…」




アハト達に名を付けてからもうかなりレベルも上がっていたので、この≪変装≫の変わり具合はわかりやすいものだった。



「身長も全然変えれるし、この伸びた分の面積どっから来てるんだ…?……あ」



ライアは伸びた身長を見て、物理的にどうなっているのか疑問に思った時、一つだけ確かめなければいけないことを思い出した。



「≪変装≫!!…おおぉぉ!」



ライアは元の姿に戻ると、再びスキルを発動させ、自身の変化を確認する。



「こ、これは……Eはあるな!」



部屋にある姿見に映るライアの姿は、男性ではありえない胸部のふくらみが出来ており、どこからどう見ても女性の姿がそこにあった。



「…さすがに、自分のこれには興奮したりはしないけど…これで、女形の分身体の差別化が出来るね」



普通であれば自分に女性の胸を生やそうなどとは考えないのだが、ライアは長年の女性扱いや色んな人の目線を気にする生活が当たり前になり、分身体全員が貧乳に見られることに僅かな憤りを感じていた。



受付嬢の3人などは、1階の酒場でしょっちゅう「あれで胸があればなぁ」などと言われていたので、自分の分身体にダメだしされている気分だったのだ。




「……これで、小さくても色んな意味で可愛いなどと言わせんぞ……」



確実に男のライアが感じる感情では無いはずなのだが、今のライアにそれを自覚する心の余裕は無かった。




ちなみに後日、アハト達の胸がいきなり大きくなり「無理して見得パットを張らなくていいんだよ?」と冒険者達に優しい目で励まされてしまうのだが、それは今語らなくていいだろう。












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