リールトン一家








それからアイゼル達はアイリスの処遇をどうするか話し合い「今からリールトンの街に返す余分な人員もいないし、しょうがないから連れて行こう」と結論付け、アイリスはこのまま同行することになった。



なのだが…



「ライア様!よろしければ、髪をいじらせてくださらないかしら??一目見た時からこれほど綺麗なスカーレットヘアを見た事が無いんですの!」



「…えっと…どうぞ…」



アイリスは父親のアイゼルが乗っている馬車に乗る物だと考えていたら、何故かアイリスはライア達と同じ馬車に乗り、ライアの横を陣取っている。



「…うちのお嬢様がすいません…特に邪魔をするわけではないので、放っておけば大丈夫ですので……あと、私も後で触らせてくれません?」



「ちょっとルル!その言い方だとわたくしの印象が悪くなるじゃない!あとこのキューティクルはわたくしの物よ!!」




(いや、君のじゃないよ…)




アイリスと一緒にライアの髪を触ろうとするのは、先ほどアイリスと馬車に乗り込んでいたアイリス付きのメイドで、名前をルルという女性だ。



ルルはアイリスがこの馬車に乗る時に何も言わずに乗り込んできて、ちゃっかり自分の場所と言いたげにアイリスの横に座る。




(この子と1か月の旅…過労死するかも…)



アイリスがライアの馬車に乗るといった時は、貴族のご息女として、男と一緒は良くないだろうとアイゼルの方を見ると、晴れやかな顔で「アイリス自身がそちらに乗りたいというならしょうがない」とあっさり許可を出してしまい、このような状態になってしまった。



もしかしたらアイリスの相手をするのが面倒だったのかも知れない。




「ライア様はリネットお姉さまと師弟の関係なのですわよね?普段お姉さまとはどんなお話をされるのかしら?」



「…リネットさんとは基本≪錬金術≫の話ばかりですね…アイリス様や他のご兄弟の話も聞いた事が無かったですね」



「リネットお姉さまはどこでも≪錬金術≫の話ですわね…。わたくしはリネットお姉さまにもオシャレや化粧をしてもっと可愛らしい恰好をしてもらいたいのですけれど…」



リネットは≪錬金術≫にしか興味はなく、服装も初めて冒険者ギルドで会った時と同じ、フードが付いた魔女の恰好しかしない。



アイリスはリネットの可愛さをもっと出した方が良いというが、恐らくリネット本人は絶対に聞かないであろう。




「ちなみに、アイリス様は4女なのですよね?他のご兄弟方ってどんな方たちか聞いてもいいですか?」



リネットには聞いたりしなかったが、アイリスという妹とも知ったし、他にどんな人が居るのか気になり、質問する。




「大丈夫ですわよ!一番上の次期領主であられる長男の“モーゼス”お兄様。

長女の“メリラ”お姉様。次女の“アイリーン”お姉様。次男の“コルドー”お兄様ですわね!

その下にリネットお姉様で一番下がわたくしですわね!」




「お兄さんも2人いるんですね?もしかして領主邸に?」




ライアは火竜の件を報告しに来た時は使用人と騎士達としか会っていないので、あっていないと思うが、次期領主とかであれば、近くにいたのかも知れないなと考えながらそうアイリスに聞く。




「いえ、お兄様方はお二人とアイリーンお姉様は王都に住んでいますし、メリラお姉様に関しては結婚して、違う領地に引っ越されていますわ!」




アイリスに聞くと長男モーゼスは王都にあるリールトン伯爵家の屋敷に奥さんと子供で住んでいるとの事で、王都に着いたら最初に会うだろうとの事。



次男のコルドーは兄の一家の邪魔にならないように王城にある騎士の宿舎に泊まっており、王城勤めの騎士をしているらしい。



次女のアイリーンは縁談をした王都に住む貴族と恋仲になり、そのまま向こうに嫁いだらしい。




長女のメリラに関してはアイリスも殆ど顔を合わせておらず、10年以上前には違う領地に嫁いで行ったらしい。




「そうだったんですね?ご兄弟の方に会えるのは楽しみですか?」



「そうですわね!…ただ特に仲も悪くはないですけれど、会いたいというほどの関係ではありませんわよ?」



「え?」



ライアは異世界物の話でよくある“貴族の家族間での不仲”のような事があるのかと心配になり、眉を下げてしまう。



「わたくしやリネットお姉様を見てわかるように、皆が自分の好きな物をまっすぐに追い求める性格なので、実際に会っても自分のしたいことを優先させる家族なのですわよ!」




「…あぁ、なるほど…」




アイリスのその言葉とともにリネットの≪錬金術≫一筋と話している間ずっと髪を小一時間以上も弄っているアイリスを見て、納得してしまう。





「まぁ姉や兄たちの事は王都に着いてから紹介出来ますし、今はライア様のオシャレを考えましょう!時間は有限なのですから!!」




「……まだ、一か月あるのですけど…」




ライアの力ない呟きは、アイリスの耳には届かなかったようで、そのまましばらく、髪をいじられながら、化粧の事や服装に関して、色々と話をさせられた。













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どうにか、アイリスの相手を務めあげ、輸送隊が今日の野営地に着くとさすがに男女で同じ場所で寝るのはダメだと判断されたのか、アイゼルがアイリスを迎えに来る。




「…領主様…さすがに、道中も男女で密室は行けないと思うのですが…」



「そうであるなぁ…アイリスがどうしてもと言わなければ、こちらの馬車に乗せるのだがなぁ?」



アイゼルはライアの言葉に胡散臭い返しをしてきて、道中の間アイリスの相手が面倒なのだと理解し、明日からも相手をしないといけないのかと、がっくりする。



「ははは!冗談だ。さすがに連日あの子の相手をさせて、ライア君を死なせてしまうのは申し訳ないからな………1日交換でどうだろうか?」



実の娘を厄介払いしようとしているこの父親に少しばかり引いてしまう。




「…よろしくお願いします」




それでも、自分の平穏の為だと、アイゼルの提案を飲むライアであった。











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