アイリス・リールトン








「あら?あなたはライア様ではないですか!」




馬車から降りてきた同い年位の女の子が、何故かライアの名前を知っており、そのままこちらに近づいて来る。




「初めまして、ライア様!わたくしはアイリス・リールトンと申しますわ!」



「リールトン……領主様のご息女様ですか?」



「はいですわ!リールトン伯爵家の4女になりますの!」



アイリスが自己紹介してくれたおかげで、アイゼルの娘なのだと理解し、馬車を開けた時の騎士たちの様子にも納得する。



騎士達は、相手が領主の娘とわかってオロオロとしつつも、アイゼルに報告しに行ったのか、何人かを残してアイゼルのいる馬車方面に走って行った。




「…えっと…アイリス様はなぜ、私の名前を?」



「そんなライア様!わたくしの事はアイリスと呼び捨てで構いませんわよ!」



「はは…」



アイリスにそう言われるが、さすがに初対面の貴族の女の子を呼び捨てに出来るほど肝は据わっていないので、苦笑いを返すのみだ。




「わたくしがライア様を知っているのは、我が屋敷でたまたま見かけた事があったからですわよ!」



「えっと…私が領主邸に行ったのは、ギルド長と火竜に関しての情報を伝えに行った時ですよね…あの時ですか?」



ライアの記憶では、領主邸に着いてからは応接室で少し待ったあと、すぐに執務室でアイゼル達と話していた記憶しかなく、アイリスの事は見た記憶が無かった。



「えぇ…あの時、わたくしはライア様が馬車に乗りおかえりになる際に遠目で見たので、ライア様は私の事を知らなくて当り前ですわ!」



「…なるほど…?」



ならばなぜそれで、ライアの名前が知っているのかと疑問もあるが、それに関しては領主邸にいた使用人にでも聞いたりしたのだろうと理解する。






「―――アイリス!?」




アイリスと色々と話していると騎士達が連れてきたのか、アイゼルがこちらに走って来た。




「あら、お父様?どうされましたの?」



「どうされましたの?…ではないわ!なぜここにいる!?」



アイゼルにとってここにアイリスが居る事はさすがに想定外のようで、かなり驚いた表情をしていた。



アイリスも己の父親にしかられるとは思っていないのか、飄々とした態度をしている為、余計にアイゼルが困惑している状態だ。



そんなアイゼルの近くに居た騎士が事情を説明し、アイリス達が馬車に秘密裏に乗っていた事が伝えられる。





「……なるほどな……それで?なぜこの馬車に乗り込んでいたのだ、アイリス?」



「わたくしの目的はただ一つですわ!お父様!」



「……なぜ、それほど元気に返事が返せるのかはわからんが……その目的とやらは?」




アイリスの態度にアイゼルがため息を漏らしながらも、アイリスの話も聞こうと、ひとまず話を進める。




「わたくしはライア様にお会いしたく、この馬車に忍び込んでおりましたわ!!」



「忍び込んでいる自覚があるのなら、もう少し反省の色を見せなさい!」




キラキラとした目をしながら、己の父親であるアイゼルにそう啖呵をきると、我慢していた思いが爆発したのか、アイリスにそうしかりつける。



「反省も後悔もありませんわよ!ライア様に会う為ですもの!」



アイリスはアイゼルの言葉に全く反省せずに、そう言いのける。




「はぁ…全く…しかし、お前にライア君との接点があるなど、聞いたことは無かったが?」



「…えっと…そうですね…私もアイリス様とは今回が初体面ですね」



先ほどのアイリスの話でも帰り際にチラっと見られたくらいなので、接点という接点は無いはずだ。



あるとすればアイゼルがいない場で、リネットがアイリスに色々と吹き込んで、その色々の中に興味を引く話題があった位しか思い浮かばない。








「わたくしは、ライア様に……一目ぼれしたのですわ!!」




「はえ!?」



ライアはアイリスのまっすぐな思いを聞かされ、臆面にもなく赤面してしまう。




「ア、ア、アイ…リス?それは、一体…」



さすがのアイゼルも娘の告白を聞いて、しかる云々は忘れ、どういう意味なのかアイリスに確認してしまう。




「わたくし、ライア様のその可愛らしいお姿に、一目ぼれいたしましたの!!」



「えっと…あのぉ…」



これほどまっすぐな思いを女性から伝えられた事は前世も含め全くない為、どうしていいのかわからないライア。(男性からは考えない)



「……アイリス…ライア君の“可愛らしい姿”が好きなのかい…?」



「そうですわ!お父様!」




「はぁぁぁ……」




アイゼルはアイリスに一目ぼれの理由を確認すると、こちらから見てもわかるくらいに落胆の表情でため息を吐いている。



(あ、これってもしかして、娘をたぶらかした俺が焼きを入れられる的な感じ…?)



ライアは前世でよく聞くシチュエーションを思い浮かべながら、アイゼルの顔を伺う。




「…すまないなライア君…これはこの子の悪い癖みたいなものなのだ…」



「はい!…はい?」



アイゼルに話しかけられ、焼きが入れられるとビビッて声をあげるが、どうも違うらしい。




「この子は可愛い物や可愛い人などが大好物でな…可愛いと思ったものはなんでも欲しがる子なのだよ。

なので、ライア君の可愛さを見て、アイリスは君が欲しくて、こんなことを言いだしたのだろう」



「え?……はぁ…」



アイゼルの話では【一目ぼれ=恋愛】ではなく【一目ぼれ=可愛い物を見つけた時の所有欲】といった感じらしい。



「失礼な事を言わないで欲しいのよお父様!!わたくしはライア様を所有したいのではなく、お着替えやおままごとを一緒にするお友達になって欲しいのだわ!!」




「お着替え(人形)とおままごとを(させたい)のだろう?なにも違っていないではないか」




どうやらアイゼルの話は本当らしく、アイリスは「それが友達でしょう?」と言っていた。




(くぅぅ…告白されたと思って、すごく照れてしまった……はぁ…)



アイゼルとアイリスがそう話し合っている後ろで、勘違いをしてしまったと赤面してしまうライアがそこにはいた。













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