領主様とのお話合い









「依頼というのは、火竜が山を下りた理由の調査をお願いしたいのだよ。

…通常竜種は自分の縄張りから殆ど動かない習性のはずだからね」




「それは私も気になってました…エルフ達に聞いても原因は知らないと言ってました」




領主の依頼というのは、ライア自身も不思議に思っていた事で、火竜がなぜ山を下りたのかの調査依頼のお願いであった。




「依頼と言っても、リールトンの街に戻ってから正式に頼むことにはなるので、今すぐに返事を出さなくても構わない」




「ありがとうございます。でも私自身も気になっていたので、依頼を受けるのは構わないです」



領主の気遣いはありがたいが、元々ライア自身も気になっていたし、後でまた領主に面会しないといけないよりは、今返事を出して依頼を受けた方が楽だった為、すぐに了承する。



「そう言ってくれて、こちらも助かるよ」



「いえ…でも少し質問をしてもいいですか?

どうして、他の冒険者じゃなく、私なんでしょう?私以外の冒険者に頼めば、この王都に向かっている間に調査に行けて、火竜の降りてきた理由がきちんとわかるかもしれませんよ?」



もしも火竜の降りてきた理由が王都から戻る2か月後には無くなってしまい、原因不明になってしまう可能性もあるのだから、早めに調査した方が良いはずだ。




「それは単純に、今のリールトンの街で一番強い人物は君で、君以外の冒険者に火竜が住んでいた山に向かわせても、無事に帰って来れる可能性が薄いと思ったからだよ」




「…たしかに、私は分身体を送るだけなので、命の危険は無いですが…」



「ははは!火竜を討伐出来る冒険者なんて普通いないのだよ…君は分身体の安全性もあるが、強さもあるからライア君に依頼を頼むのさ」




ライアは、自分が弱いとは一切思っていないが、そこまで言われるものなのか?と疑問に思いながら、話をしていく。




「…わかりました。でも、王都から戻って来てからでいいのですか?今から分身体を火竜の山に送る事も出来ますけど…」




「あぁ…あまりライア君の負担にもさせたくは無いし、火竜の山まで歩きであれば1か月はかかる距離だ。あまり急いでも、良い事はない」





領主にそう言われ考えてみると、今仮に火竜の山に分身体を送るとなったら、8人しか予備は無く、少しばかり心もとない。



であれば、領主の言葉に甘え、リールトンの街に戻ってからでもいいかと思考する。




「お心遣い、ありがとうございます…」




「頼んでいるのはこちらなのだがな?ははは!」








―――――――――――

―――――――――

―――――――












調査依頼の話が終わると、ライアの分身体でどのようなことが出来るのかを聞かれ説明したり、リネットと工房でどんなことをしているのかを聞かれていると昼食の時間になり、馬車を止めて食事にする事になった。






「ライア君、色々と話を聞かせてくれて楽しかったよ。道中また話をしたくなったら、こちらの馬車にいつでも来るといい」




「アハハ…ありがとうございます…また伺いますね…」




領主は機嫌が良さそうにそう言って、ライアの元を離れていく。




(悪い人じゃないのはわかるけど…貴族はやっぱり気を使っちゃうなぁ…)



ライアはここ3時間ほどで、かなりの心労が蓄積されている様子で、とぼとぼとパテル達がいるところまで歩いて行く。





(………ん?あれ?……誰かまだ馬車に乗ってる…)



輸送隊のみんなはすでに馬車から降りて、昼食を取り始めており、馬車の近くに居るのは馬の世話をしている御者のみで、馬車の中に人が居る事に、ライアは不思議に思った。



「……ん~?しかもこの反応…寝っ転がってる?…何してるんだ?」



どうやら馬車に乗っている人物(多分2名)は馬車の床に寝ており、違和感はさらに強まる。



「…どうされました、ライア殿?」



馬車の方を見て、不思議そうにしているライアを見て何かあったのかと近くの騎士が聞いてくる。



「あ、すいません…あの馬車に乗っているのはどなたでしょう?横になっているので、具合でも悪くされたのですか?」



一応馬車に酔い、寝込んでいる可能性もあったので、このように質問した。




「…?あの馬車は王都にあるリールトン伯爵様の家に運ばれる家具や必需品などを運ぶ馬車で、誰も乗っていないはずですが…」



ライアの疑問に騎士が答えてくれ、あの馬車に乗っている2人は正規の輸送隊じゃないことが分かった。



「…誰かがあの馬車に乗ってます…2人ですね………盗賊とかでしょうか…?」




「……少々お待ちを…人を集めて参ります」



ライアは小声で騎士にそう伝えると、騎士も冗談ではないと瞬時に理解し、行動を起こす。



馬車に乗っている人間2人は殆ど動かず、馬車の床に寝そべっており、しばらくは動くつもりがないのだと判断して、人が集まるまで馬車を警戒する。





「――ライア殿…お待たせしました…後は我々が…」



声に振り替えると、集まった騎士達が静かに馬車を警戒しており、こちらに任せてくれと言って問題の馬車に進んでいく。




「………」



「………」


―――コク…




騎士が馬車の扉に手をかけ、他の騎士に「開けるぞ」と無言の合図を送り、皆が了解の意を込めて相槌を返す。




――――ガチャッ!!!


「出てこい!!!2人いることはわかっている!!!」




「「わきゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」」




扉を開け、相手の情報はわかっていると伝えて、投降を進めようと大声をあげる騎士だったが、その大声に驚いたのか、中の2人が悲鳴を上げる。




「なに!?なんなのだわ!?!?…あら?」



「朝ですか!?すいませんメイド長!!すぐに用意を…あれ?」




中にいた2人は寝癖を付けたまま、何やら慌てて意味不明な事を叫んでいる。




「「「「………ア、アイリス様…?」」」」




「あ…バレたのだわ…」



アイリス様と言われたであろう女の子は、馬車の外を見て「あ、やべ」というような顔をするのだった。






「あ、メイド長がいない……良かったぁぁぁ…」





何故か、もう1人の方は安堵の表情を浮かべているようだったが……












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