リールトンの街を出立







翌朝、前日の約束通り、パテルとアインス達がさすらいの宿まで来てもらい、そこから輸送隊の集合場所である、街の北側にある門へ向かうライア一行。



「……この分身体達はどうしたんだ…?」



「あぁ、この子達は王都に着いたら色々と動かそうと思ってね」




実はライアはさすらいの宿を出る前に、3人ほど新しい分身体を作り出していた。



「一応この3人はウィスンって名前を付けてみたんだ。

この3人が全員で一つの名前…って言うより、グループの名前って感じかな?」



「…ウィスン…」



「そう、基本この子達は単独で動かす予定だから、あまり会わないと思うよ!」




いつでも消したり、生み出せる分身体に会うという表現もおかしいのかもしれないが、特に問題は無いだろうと考え、そう発言する。




「王都に着いてから出したり輸送隊がいる場で出したら、知られたくない人にも情報がバレるかもだから、このまま連れていくね」



「……わかった…」




そんな感じで話をしつつ、北門の前の広場まで歩いてくると、大勢の人だかりと馬車があり、その中央には、火竜の死骸が積まれている大きい荷車が集まっていた。




「すいませーん」



「ん?……あ、ライア殿ですね?お待ちしておりました」



輸送隊の近くに居た騎士の人に声をかけると、どうやら向こうはライアの顔を知っていたらしく、すぐにそう返してくる。



「今、リールトン伯爵様が向こうの馬車でお待ちですので、ご案内いたしますね」



「え?…もしかして、領主様も一緒に王都に向かわれるんですか?」




「え?はい…聞いておりませんでしたか?」




どうやら、この輸送隊と一緒に王都に向かうのはライア達だけでなく、アイゼルも一緒なのだという。




(えぇ…もしかして、一緒の馬車とかじゃないよね?……貴族と一緒の1か月間とか気まずくて死にそうかも…)




王都までの道のりは、馬車で向っても1か月はかかるほど遠く、その間の旅路は周りの風景を楽しむか、同乗者との会話くらいしかする事が無いのだが、貴族と1か月も話す勇気も話題もない。





そんな最悪の光景を考えながら騎士の人に付いて行くと、ひときは立派な馬車に案内され、中からアイゼルが出て来る。




「来たようだね…今回は急なお願いになってしまって申し訳なかったね」



「いえいえ!私は全然大丈夫ですので」



開口一番に、貴族に謝られて、それに怒れる平民はまずいないだろう。



ライア自身も逃げたい欲はあるが、今回の呼び出しに関しても、納得は出来ているので、怒ったりはしないのだが。





「こちらの準備はもう出来ている。君らの準備も良ければ、早速出発しようと思うのだが、構わないかね?」



「はい!こっちに問題はありません」




「よし、なら出発しようか…君たちの馬車はあそこに用意してあるので、それに乗り込んでくれ」




どうやら馬車は別々のようで、ライア的には地獄の1か月にならなくてよかったと感じるとともに、こうも考える。



(…なんかそうなったらどうしようって考えたけど、俺って平民で領主様と会ったのもついこの間だし、一緒の馬車に乗るなんてありえなかったか…落ち着けばそんな事わかるもんなのになぁ…)



ライアは安堵のため息を漏らしながら、言われた馬車に向かう。



「あぁすまない!ライア君本人はこっちの馬車に乗ってくれないか?色々聞きたいこともあるのでな」




「………え?…」




ライアは後ろから聞こえたアイゼルの言葉に、しばらく頭が追い付かず、ちゃんと返事を返せなかった。










―――――――――

―――――――

―――――







「……さて…いきなりこちらの馬車に乗ってくれとお願いして悪かったね?先ほども言ったように、君とは少し話したいと思っていたんだよ」



「いえいえ!とんでもないです!…えっと、話しというのは?」




パテルと分身体達のみ別の馬車に乗りこませ、ライア自身は領主と護衛の騎士が乗っている馬車に乗り込んで街を出発させてすぐに、アイゼルはそう話を切り出してくる。




「話と言うのが幾つかあるが、まずは先に私情の方を話してしまおうか…。

君はリネットに師事し≪錬金術≫を学んでいるのだよね?」



「えっと…はい、そうです」



ライアは私情と良いのだからリネットの親として、娘に近づく男を見極めようとしているのか?と邪推しつつ、素直に返答する。




「そうか…私が聞きたいのは、リネットが工房で笑顔で過ごせているのか…あの子は幸せそうなのかを聞きたくてね…」



「…え?」



予想とは少し違い、アイゼルの顔には、ほんの少しの申し訳なささと慈愛の感情をこぼれる顔をして、そう尋ねて来る。




「もしかしたら本人に聞いているかもしれないが、実はあの子…リネットは貴族達が通う学院で≪錬金術≫の天才と言われていたのだよ」



「…そうなんですか?」



「あぁ」




ライアはギルドマスターにはそんな話はされず、ただ≪錬金術≫の先生、とだけと言われていたし、リネット自身にも、特にリネットの事を教えてもらっても居なかった。





「…私はそんなリネットの才能を知り、そっちの道に進ませた方があの子の為だろうと結婚話やお茶会などの招待を勝手に断ってしまって、あの子の貴族令嬢の幸せが掴めない所まで行かせてしまったのだよ…」




「…えっと…?」




ライアの知るリネットは≪錬金術≫の実験や研究に没頭し、結婚やお茶会などに幸せを見出せるような性格では無い、という事だけは知っているので、どういう事だろうと疑問が出てしまう。




「…あの子は家族との食事をする場では何も言わないが、もしかしたらあの子も普通の令嬢のように、好きな人と幸せな生活やお友達とお茶会をしていた方が良かったのではないかと、心配してしまうのだ…」




「……あのぉ…その思いをリネットさんに伝えたりとかは…?」




「あの子がそう思っていても、私が聞いたら気を遣わせてしまうだろう?」




これはもしかしたら、単純に子供の心を確認するのが怖いお父さん状態なのかもしれない。


貴族達の家族事情は分からないが、多分それだろうとライアは考えた。



「えっと、私が個人的に感じるものでよければお話しますが、リネットさんはそういった生活より、今の実験ばかりしている方が楽しそうだと思いますよ?…実際の貴族令嬢の生活はわかりませんが、リネットさんは、毎日楽しそうに≪錬金術≫の研究をしてます」




現に今も工房では、ワイバーンの魔石をどう魔道具にすれば楽しいか、どうすれば新しいことが出来るかを楽しそうに作業をしている。






「…君はそう思うのかね?」



「はい」




リネットとはまだ知り合って1年も経って無い仲だが、この笑顔に嘘はないだろうと、自身を持ってアイゼルの疑問に答える。




「フフフ…そうか、そこまではっきり頷くか……リネットもいい弟子を取ったな」




アイゼルは少しだけ含み笑いを溢し、ライアにそう言ってくる。




「…えっと…もしかして…?」




「すまんな、単純にあの子が楽しくやっているのかは確認したかったが、あの子が今の生活を絶対に手放さないと考える子だとは知っているよ。ははは」




どうやら、ライアがリネットの事をどこまで理解し、どのように思っているか聞き出す為、軽く騙されていたらしい。



(…くっ…冷静に考えれば、ギルド長とも親交があるんだよなこの人……そんな俺より近いギルド長にリネットの事聞いていないはず無いし、何より親があのリネットさんの事をわかってないはず無いか……)




ライアは自分が騙され、頑張って応えようとしていた事が恥ずかしくなり、顔を赤らめてしまう。




「騙すような演技をしてすまなかったな、色々君の事も知りたかったのでな」



「いえ…はい…大丈夫です……。

それで、他の話って?」




ライアは赤い顔をしながら、何とかそう返し、他の話に行ってほしかったので、話題を変える。




「そうだな、あまり若者をいじめるのも趣味ではないし、次の話にしよう。

…実は、ライア君に依頼を頼みたいのだよ」




「…依頼、ですか?」







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