改革、父親









――――ライアside




「いきなりお願いしちゃってごめんね?」



「大丈夫だよ?ライアさんの為に、僕も色々出来るのは嬉しいから」



いつもであれば、とぉさんの畑仕事を手伝いに行くクストを引き留め、急遽「スキルの練習…というか、クストの≪素材鑑定≫が他に何かできないか確かめたくてね?」と話し、ヤヤ村では恒例の畑そばの空き地に来ていた。




「でも、前も色々と調べたけど、他にも何か調べる所でもあったの?」



「え?…えぇっと……そう!スキルってレベルが上がれば出来ることが増えたりするし!その確認もあるしね!」




「そっか、わかったよ!」




(うぅむ…少し強引すぎたかな…)





実は今回、クストのスキルの確認で呼び出したわけではなく、他の事情によりこの空き地に連れ出していた。



――――チラ…


『……く……』



『ちょっとパテルさん?飛び出そうとしないでくださいよ??バレたら逃げ道無いんですから』




その事情というのが、後ろの木々に隠れているパテル達に、クスト達を見せる為だった。



(クストが俺を疑わないで付いてきてくれて助かった…畑仕事をしてるのを見せようとしたら、隠れる所なんてないもんな…)




ちなみにプエリは字の勉強を続けているし、家の手伝いをしている時でも滅多に外に出ないので、先にクストだけを連れ出したという状況だ。





『…クスト……うぅ…』



『あ…ちょ…泣きださないでくださいよ?声に気付かれちゃいますから!!』




木々の方からほんのわずかに声が漏れている気もするが、注意していないとわからない為、クストには気づかれずに済んでいる。




「それでライアさん、まずは何をするの?」



「え?…あぁー…まずは今の≪素材鑑定≫でどこまで素材の詳細が分かるようになったか教えてくれる?」




ライアはクストを連れ出した本当の理由を隠す為、一応スキルの確認をしようとクストに質問する。




「えっと…この間も言ったけど、少しは情報が増えたんだ、役に立つかわからないけど、素材の名前の他に“鮮度”と“毒の有無”がわかるようになったよ!」



「え、毒の有無がわかるなんてすごいじゃない?…山菜取りに行くときにキノコとか取れるじゃないか?」



クストは腑に落ちないといった表情でそう伝えて来るが、毒の有無が分かれば、山菜…というより、キノコなどの山の幸が、沢山食べられそうだと思うライア。




「それはそうかもだけど…元々食べれるキノコはわかってるし、毒が無くても美味しくないキノコも多いよ?」



「それは―…確かに…」



クストの指摘の通り、とぉさんからキノコの種類なども教えてもらって、毒が無く、食感の良い食用キノコは知っているので、キノコなどには毒の有無が分かってもあまり必要はない。



これに関しては前世での、無知による毒キノコを食べてしまう事件の危険性を知っていたからこそ出た発想で、山と親密に生きる俺達には、あまり意味のない情報だったようだ。




「確かにこのヤヤ村にいる際は、毒の有無はあまり必要な情報じゃないね…。

でも、俺が未知の魔物の素材で≪錬金術≫を使う際にはかなり助けてもらうかもしれないね」




「…そうなの?」



錬金術で使用する素材に毒が含まれる物もあるかも知れず、その毒を事前に知れたならライアは大変助かるという事をクストに伝える。




「…そんなことがあるんだ…なら、もっと色んな事がわかるようにレベルを上げるね!ライアさん!」



「ふふふ…ありがとね?でも自分の為のスキルも磨くんだよ?」




クストの意気込みを微笑ましく思い、パテルの事を差し置き、親の気分でクストをたしなめる。





『……クストは…立派になったもんだな…ぐすっ…』



『なんで、こんないい子を…いえ、これ以上は言いませんけど…』



『うぐっ!』



――――ザザッ…




パテルとライアは、クストの健気可愛さにヒートアップしていると、パテルが目の前の草むらを揺らしてしまう。




「…?…なんだろ?」





『…あ、まずい…』



『何やってるのパテル…!』





物音に気が付いたクストは、パテル達の隠れている方へ足を進めていく。




「……誰かいるんですか??」




クストは木の後ろに誰かの影を見て、誰かいるのだと思い声をかける。




(…くっ、しょうがない!緊急策だ!)





―――ガサガサ…





「…え?…ライアさん?」




「あぁごめんねクスト…その分身体は街から来させた分身体で≪経験回収≫をさせようと、こっちに来させたんだ!…びっくりさせてごめんね?」




「あぁ、そうだったんだ?遠い所からお疲れ様です」




実はパテルだけを隠れさせて、何か問題が起きた時に対処できるように、分身体を一緒に隠れさせておいたのだ。



(あっぶなかった…これぞ秘儀、隠れ蓑術…って違うか?)



分身体ライアがクストの視線を釘付けにし、その隙にパテルは木の影を縫って、緊急避難場所に向かってもらう。



「まぁこの分身体も来たし、まずは家に戻ろうか?」



「もういいの?わかったよ!…それじゃ、僕は畑にお手伝いしに行くね!」




本来であればパテルにクストを見せる目的は達成しているので、早速退散することにする。











―――――――――――

―――――――――

―――――――








「……ありがとう…助かったよ…」




「少し焦ったけど、まぁバレなかったし、大丈夫だよ?

…それより、どうだった?」




ライアはあらかじめ決めていた避難場所で合流したパテルに、そう質問する。




「…俺は…クストも、プエリも見殺しにしようとした事実は変わらない…」



「………」



ライアは色々な事情は分かっているが、それでも割り切れない気持ちもあるのが分かっている為、余計な口は挟まない。




「……だから、今…クストを見て確信した…。

俺はもうあの子達を助けることに躊躇しない。これは絶対だ」




「……そっか…それが聞けて俺も安心だよ」




今まで、どもり気味で喋っていたパテルが、あの子達に向けた心の誓いを、はっきりと口にして、ライアを見つめて来る。




「…俺は…あんたに会えて幸運だよ…」



「あははは…こんななりだけど、俺はれっきとした男だから、惚れたりしないでよ?」




パテルがあまりにもいい笑顔でそんなことを言って来るので、少しばかり茶化してそう伝えると、顔を赤くして「惚れるか!」と力強く否定した。











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