改革、火竜討伐 後日談2









アインス達が、そうやって後方陣地でゆったりと寛いでいると、神樹の木の方向から、数人が向かってくるのに気付き、アインス達でそちらに向かって行く。




「…すまない!アインス殿達はおられるか!!」



「はいはい…待っていたよ。アルボラ殿の目が覚めたのかな?」




人間達が大勢いる中、大声でアインス達を呼ぶのは、伝言を伝えたエルフであり、その後ろにはパテルも付いてきているようだった。




「あぁ…族長には伝言を伝え、会談には応じるそうだ。

日時は明日にでも行うそうだが、そちらに問題はないだろうか?」



「大丈夫ですよ」



エルフはこちらの都合を気にしてか、確認するような態度でアインスに日時の確認をしてくる。



(…態度が優しくなった?…火竜討伐で、こちらに恩を感じて、考え方が変わった感じかな?)



つい先日までは、明らかに人間達を信用のならない者達と言っているような視線であったのに対し、今は敬意すら感じる。




「では、明日の昼にこちらに伺います」



「わかりました、こちらもそれで構いません」



本来であれば、一冒険者のアインスが即決で決めるような事ではないが、交渉役として任されたアインスなので、周りからは文句などは出ないし、領主達からも、日時に関してはいつでも時間は作ると言われているので、問題はない。



会談の日時が決まると、伝言を伝えたエルフは森へ戻って行き、ここにはアインス達とパテルだけが残る。



「……すまなかった…」



「え?なにが??」



ほんの少し気まずい空気になっているアインスに、いきなり謝罪をしてくるパテルに、アインスは素で聞き返してしまう。



「……俺達エルフは、お前に失礼な態度を取っていた…俺も、お前の事を信用していなかったしな…」



「そんなのまだ会って数日の関係だ、別に信用されなくても不思議じゃない…謝罪はいらないよ」




パテルはエルフ達の間で、人間に対する認識が変わった為なのか、そう謝罪してくるが、100年は経っていたのだとしても、元は敵同士だったのだ。



いきなり信用して、礼儀を尽くされるほうが怖いと思ってしまう。




「…それに、これは俺個人の話だが…プエリとクストを救ってくれた恩人のあんたに失礼をしてしまったことも謝りたかった…」



「………」



パテルはそこが本題なのだと言った雰囲気で話をし始める。




「…俺は、あの子達の父親として、名乗る資格はない…それでも、あの子達を助けてくれて……ありがとう」



パテルは他にも人が居るのにもかかわらず、腰から大きく頭を下げ、感謝の意をアインスに伝える。





「…なんでだ?」



「……?」



アインスの言葉に、どういった意味が込められているかわからず、顔をこちらに向けるパテル。




「なんで、あの子達を見捨てた?…今ここで、俺に感謝を伝えるような親が、我が子を捨てるなんて事をどうして出来たんだ?」



「………」



ライアはどうしても疑問であった。



仮に神樹の木が燃える心配があったのだとしても、これだけ俺に感謝を伝える奴が、子供たちを愛していない訳がない。



なのにどうして、子供たちを追放する決断に至ったのかがライアには疑問だった。




「…この答えで、あんたが納得するとも、許してほしいとも思っていないが、そうだな…」



パテルは少しだけ前置きを挟んだ後、子供達の話をする。




「…あの子が火の魔法しか適性が無いとわかった時に、村の掟で、プエリを殺す選択しか用意されていなかったんだ……」



「…殺す?…追放じゃなくてか?」



「…あぁ……追放にしてもらったのは、俺のわがままで無理矢理、族長にお願いしたんだ…そのせいで色々と反発があって…俺は村の外に追いやられたんだがな…」




パテルの話を聞くと、プエリの対処は元々殺す一択であり、追放はパテルの懇願から叶えられたものであり、慈悲の追放であるらしかった。



それに、パテルの家がどうして、村の中ではなく外に在ったのか不思議ではあったが、それもプエリの命を救う為、掟を破った者に対しての不信感から、村の中から追い出されたかららしい。




「…だが、そんなのはどうでもよかった…むしろ、あの子達が追放されて、村の近くで小屋を作って生活していたからな……魔物達に殺されないように、先回りなどをして間引き、弱いゴブリンなんかを練習台にさせたりと、結果的には良かったんだ……」




言われてみれば、元々魔物が少ない森というのもあるので、気にしていなかったが、居ない訳じゃない。


兄のクストが4.5歳なのに、ゴブリン1匹でも勝てるか微妙なはずだ。



それを子供達が生きる為に、魔物を弱らせて、クストに倒させ、隠れて援護していたとパテルは言う。




「…だとしたら、どうして魔物達の異常発生した時に守らなかったんだ?」




「……俺は、そこであの子達を見捨てたんだよ……あの日、同じく神樹様にも、魔物の大群が襲って来て、俺はそこで戦っていた…」









――――パテルの回想…






「…くそ!なんだっていきなり、魔物達が現れてるんだ!!」



「何としても神樹様の元には行かせるな!!!」



神樹様の周りには村があり、その村の外側には外敵から侵入を拒むように、木で出来た防壁があり

、今現在そこに大量の魔物たちが、東の方から押し押せてきており、その対処にエルフ達は動いていた。



「皆に伝達!!魔物たちは広範囲にてこの森に侵入している模様!!各村の伝達係はその情報を伝えに行き、避難を優先させよ!!」



(……!!村にも魔物が…)



その防壁で魔物達を排除していたパテルの耳にその情報が入り、すぐに自分の子供たちの事が頭によぎる。



「……あの!!…族長!!…あの子達は…」



パテルは己の子を守る為に追放という温情を与えてくれたアルボラに自身の子を守りたい。救いたいと、目で訴えかけてしまう。


それはアルボラにもすぐに感じ取れるほどの感情であったが、アルボラにそれを許すことは出来なかった。




「……すまんの、パテル…あの子達をこの村に入れることは出来んのだ…すまんの」



「……………」



パテルも感情では今すぐにでも助けに行きたい…だが、この村に入れることが出来ないのもわかっており、どうすればいいのか分からず、パテルはその場に立ち尽くしてしまう。




(…あの子達を助けに行く…しかし、その先の未来はない…クストだけでも連れ戻す?……プエリを見捨てて?…そんな事を俺に出来る訳がない!!!)



忌み子として、村を追い出されたのはプエリだけだが、クストはそんな妹を助ける為に付いて行っただけだが、仮にクストだけ救ったとしたらパテルの心にはプエリ“だけ”を捨てた。愛さなかった事実だけが残ると、パテルは思考を止めてしまう。



「…パテル…ワシからの命令じゃ…ここで、神樹様を守るのだ…それがあの子達の命の意味となる」



「……命の…意味…」



アルボラは、どちらにしろ、村の外で生活している二人はもう、魔物たちに襲われていると考えており、それならばせめて、パテルの生きる目的を作ろうと、パテルに命令という名の選択肢逃げを与える。







「……わかり……ました…」




そしてパテルは、子供たちの命を神樹様を守る為に捧げたのだと、逃避した。








――――――――――――

――――――――――

――――――――







「…俺は、あの子達の命を諦めたんだ……しかも、その事実から逃げ、神樹様を守るという使命なのだからと自分を偽ったんだよ……これが、あの日の俺さ…」




「………」



(…あかんやん……聞けば聞くほど、出来る限り子供思いのお父さんやん…もうちょい“掟だからしょうがない”って感じで子供を捨てたんおもっとったら、頑張って掟と戦ってるやん!)






ライアはパテルの話を聞き、パテルもある意味被害者であることも知れたし、子供達を守ろうと色々していたのを知って、心の中で叫んでいた。




(どうしよ…俺パテルの事殴っちゃったけど、許してもらえへんやろうか…)



プエリ達の受けた境遇は決して許されるものではない。だが、これに関してはエルフの習慣事態に原因があり、パテルに起こったのは早とちりだと認識したライアは申し訳なさが出て来る。




「……アインス殿…」



「…え?あ、はい!」





パテルは真剣な表情をしながら、アインスへと声をかける。




(あぁ…パテルが殴り返してくることはないだろうけど、それでも、もし殴られたら、それはそれでしょうがないな!うん!!)




先ほどから、パテルはアインスにお礼や謝罪をしているのに、少しばかり頭が混乱している為全く見当違いな事を考えてしまうライア。




「…俺を、どうか…あの子達を一目見るだけでいい!!…あの子達にバレないようにするので、あの二人の元気な姿を見せて欲しい…!!!」






(あ!普通に考えれば、そうじゃん…殴られるとか以前に子供達と会いたいよね、普通…)




ライアはクスト達の元気な姿を一目見たいというパテルの言葉で、正気に戻ることが出来たようだった。









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