改革、火竜討伐 後日談











――――領主邸 分身体side






「―――と、怪我人は多数出てしまいましたが、今の所、問題はありません」




「うむ…火竜を討伐出来ただけではなく、それだけ被害が少ないのであれば、奇跡と言っても構わない結果であるな」




領主邸では、騎士団や冒険者達の被害状態や火竜との戦闘状況を随時伝えており、たった今、火竜討伐を領主に伝える。




「今回の火竜討伐が成功してよかったよ…ライア君も助かった。これでこの街も安全になった」





火竜討伐は本来、かなり厳しいものらしく、一応リールトンの街に火竜が向かってくることも考えて、王都に情報を伝える為に、小隊を向かわせる用意はしていたらしく、火竜討伐が失敗した場合などに出す予定だった指示が、無駄になってほっとしたようであった。




「今回の討伐戦に参加してくれた者達には褒美を渡さなくてはな!…その際はライア君に一番の褒賞を約束しよう」



「いやいや!私は別に、命の危険をおかしたわけでもないですし、別に大丈夫ですよ!」



「謙遜は美徳だが、今回の火竜討伐作戦において、君が尽力した功績は多大だ…素直に受け取り給え」




領主にはアインス達の事をエルフ達の連絡網構築の際に話しており、火竜を倒した状況も話している為、火竜討伐の功績がライアの物だと領主は断言する。




「はぁ…」



「ははは!まぁその件は後日だ。

今は怪我人の処置などが終えたら、保護したエルフ達の件も話さなければなるまい」



火竜の戦闘が開始する前に保護したエルフ達は、まだリールトンの街に到着していないが、時間的にはもう半日以内には到着するであろう。



その際に、保護したエルフ達に情報を伝え、神樹の森に引き返すのか、安全の確認が取れるまで、こちらで保護を続行するのかの話し合いもしなければならない。



「現地には分身体達は12人いますし、すぐにエルフ達の所に話を伺いに向かいますか?」



「向かっては欲しいのだが、エルフ達も魔力を使って疲弊しているだろう…話し合いをいつにするかをひとまず決定し、後日、改めて話し合いの場を設けてくれるか?」



「あ、はい!」




領主の指示通り、アインスをエルフ達の所に向かわせ、状況を確認すると、まだ半数以上のエルフ達は倒れており、とても話し合いが出来る状態ではなかった。



なので、気を失ったアルボラについていた護衛のエルフに「保護したエルフの返還の話などを話し合いたい、会談の日時を決めてくれ」とアルボラに伝言を頼み、後方陣地に戻ることにする。




後方陣地では、怪我人の治療が始まっており、アインスはその治療や雑事の手伝いをさせておく。






―――――一旦ライアside





「はぁ…しばらくは、このままアルボラが起きるまでは放置かな…?」




ライアは実家の自分の部屋にて、そう独り言を漏らし、一息入れる。




「…しかし、パテルの件はどうしよう…。

ぶっちゃけ、その場の怒りに任せてぶん殴ったし、プエリちゃん達の事も生きてるって伝えちゃったしなぁ…」




パテルを殴り飛ばして、少し時間が経ち、若干の気まずさもあって、どうしようか迷うライア。



それに元々エルフ達に会っても、プエリ達を捨てた人達なので、生きているという事も伝える気はなかった。





(親がいないから、追放されたんだと思ってたしな…カッとなったのはしょうがない!

パテルとは話さないといけないだろうけど……パテルも気を失ってるしな…どちらにしろ今すぐに話をするのは無理だしな)





ライアは自分の怒りを正当化しつつ、パテルの件も今すぐどうこう出来ないので、アルボラが起き、伝言の返事が来てからにしようと、後回しにする事にした。






「…今回の事で、傷薬が一気に消費されたし…もしかしたら、また注文が来るかもな…はぁ…」




ライアはそんな未来を憂鬱に思いながら、ため息を漏らしてしまう。













―――――――――――

―――――――――

―――――――










火竜を討伐した日から一日が経ち、傷薬を使用した者達は、森の中の魔物を掃討しに向かい、数名は怪我人の護衛で残っていた。



アインス達はエルフ達と交流があると言われ、エルフ達が連絡しに来ても対応出来るように、陣地内にて、待機中だ。




「…なぁアインスさんよ…一つ聞いていいか?」



「ん?どうしたんです?」



アインスは陣地内に残っていた、護衛役の冒険者が神妙な顔をしながら、話しかけて来る。




「お前、ツェーンちゃんにご褒美で、手をギュっとしてもらったんだろ??」



「…え?…ご褒美??」



どうにも冒険者の言っていることが理解できず、首をかしげてしまうアインス。



「とぼけんなよ!!火竜と戦っている途中で、お前たちのパーティが後方陣地に来た時に見たって噂だぜ??」



「……あぁー!あの時ですか!」



アインスはやっと理解が及び、勘違いが生まれているのだと瞬時に理解する。



(あれは、魔力の譲渡をしていただけなんだけど…。

いや、それを言ったところで、なぜそれをツェーンと?って話になったら、色々と面倒だな…)



一応冒険者達は受付3人をライアの分身体だと、知っているはずなのだが、それを無かった事にしている者達が結構な数がいる。



そんな思い込みが激しい人たちに説明をするのも面倒に思え、ライアはどう返すのが正解か悩んでしまう。




「いや!別に隠したい気持ちもわからんでもない!…だがだ!!そんなお前を羨ましく思ってしまう俺達の気持ちもわかるだろぉぉ!?」




「は、はぁ…」



冒険者の異様に圧を感じる言葉に、NOと返せず苦笑いをする。




「だからよ…俺達冒険者達の中で、俺達みたいに、火竜討伐を頑張った俺達にもご褒美をもらえるように取り計らってくれよぉぉ!!!頼むよぉぉぉ!!!」




(えぇぇぇ…めんどい……それに、この人火竜討伐頑張ってたのかもわからんのだけど…)




この冒険者が活躍したのかはわからないが、ともかくツェーンとの両手を合わせている所をご褒美中と勘違いされており、そのご褒美を受けたいというのが、その冒険者の意見のようだ。




「えぇぇ…そんなこと言われても……そうですよ!あんまり大勢で彼女に詰め寄ったらかわいそうじゃないですか??」



「…それは…確かに…」




ライアはツェーンも己なのを隠しながら、いわゆる“あの子の迷惑を考えよう”の作戦を思いつき、冒険者を諭す。




(よし、これならアインスを通したとしても迷惑になると思いなおし、考えを変えてくれるかもしれない…変えて欲しいなぁ…)




ライアは何とも確実性の無い考えを思考するが、その冒険者は何か考えを変えたのか、一つ首をうなづきながら、話し始める。





「…そうだよな…俺達がご褒美をもらいに行ったら、ツェーンちゃんが困っちまうな…」




「そうですよ!彼女も大変そうですし!!」




「あぁ!そうだな!…なら、この作戦に参加した冒険者達でどのパーティが活躍したか、民意で話し合って決めるべきだな!!!それがツェーンちゃんを思った行動だろう!!」




「ええ!!……ん?」




その冒険者はアインスに「代表者のパーティを決めて来るから、お前たちはツェーンちゃんにご褒美の件をよろしく頼むな!!」と言い放ち、他の冒険者達の所に走り去ってゆく。




「………」




アインスは冒険者の発言の意味を理解する。





「えぇぇぇ……」




理解した所で、どうにもできないのがわかっただけであった。












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