改革、火竜討伐作戦6
――――アインスside
アインスは準備の為、少し離れている間に全滅の危機が起こっており、パテルが一人で火竜の足止めをしてくれていた事に感謝をしていたが…
先ほどの戦場に響き渡る叫びを聞いて、そんなものはすぐに消し飛んだ。
「…はぁ…あとで、絶対二人の事、聞き出さなくちゃな…」
ライアはパテルに尋問をかけると力強く誓いながら、火竜に向かって近づいて行く。
「グガァァァァ…」
火竜はアインスの放った魔法により、起き上がるのに手間取っていたが、それでも長時間倒れさせるのは不可能で、火竜は立ち上がって来る。
「…よし…準備はOKだ…。後は“俺ら”次第だな…」
アインスは深呼吸しながら、火竜を倒すための作戦を実行しようとする。
―――――エルフ達と最初の会談をした日…
「……なるほどね…それが魔物の“逃げてきた”原因か…」
アインスを通じ、今現在起こっている異常事態の原因は火竜の接近であり、もう少ししたら、その火竜も神樹の森に来てしまうと理解したライア。
「…それなら、一応分身体を送った方が良いよな…
…でも、魔物たちはこちらに逃げて来るなら、村の防衛で、少しは残さないとラスリに怖い思いをさせちゃうかもだしな…」
ライアはラスリの事は、俺が守る!と、おにぃちゃん意識を高めている為、どれくらいの戦力が必要か悩んでしまう。
「火竜の強さもわかんないし…もしかしたら、アインス達だけで倒せるかも?…それは楽観視し過ぎかな?」
結局色々考えた結果、安全も考慮し、村にはゼクス達3人と分身体4人を残し、残りの分身体6人を火竜討伐に向かわせることにした。
「でも、ここから神樹の森まで走らせるしか行く方法ないよな…?」
ヤヤ村には馬の貸し出しなどの施設は無いし、ラルフの馬車以外では、歩き以外に移動方法はなかった。
「…間に合わなくね?」
6人を村から歩かせ、予想で6日くらいかかりそうだと考えながらも、火竜の到着が遅れることを祈って、神樹の森に分身体達を向かわせた。
―――――――今、現在…
「さすがに、昨日の時点で、これは間に合わないなと確信して、夜通し全力疾走させて何とか今着いたんだ…普通の人間なら体力切れで下手したら死ぬな!ははは」
「グゥゥゥゥゥ…」
アインスは火竜を前にそう陽気に答える。
火竜は意味は分かっていないだろうが、先ほどまで、幻で翻弄され、魔法で地面に倒された相手だ。
注意深くこちらを警戒している。
「…だが、分身体を急がせて、配置につかせた…準備はもう出来てる!!!」
アインスは魔法を発動させようと、己の魔力を練り上げる。
「グガァァァァ!!!」
それを一早く察知した火竜はアインスに向け突進してくる。
「“マッドプール”!!」
―――スボッ!
「グガァァ!?」
少し遠くにいた、分身体の一人が、火竜の進行上の地面を泥に変え、火竜の足を止めさせる。
「グガァァ!!グガアアア!!」
火竜はもがきながら、沼を抜け出そうと躍起になっている。
「…俺達は今、10人で沼にハマったお前に一斉攻撃を仕掛けられる。
…だが、それだけじゃお前を倒しきれるか、わからなかった。
そこで、エルフ達の詠唱を聞いて、ちょっと思いついた魔法があってね。それをお前に見せてやるよ!!!」
アインスと火竜の距離はまだ十分離れている。
その火竜を中心に、ある程度離れた位置に分身体達が円状に展開しながら、全員が膨大な魔力を練り上げていく。
《我は力を繋ぎ、乞い求める者なり》
火竜を囲み、10人が詠唱を唱え始める。
《数多の流れを創り、導き、合わせる者》
魔力を可視化したのなら、その魔力の動きに異常を見て取れた事だろう。
《我が知、我が力、繋ぎ繋がせ顕現させよ》
「グガアアア!!」
―――ヒュゥゥゥゥゥ…
火竜は分身体10人の詠唱を聞き、異様な空気感を感じたのか、焦るようにブレスを放とうとする。
《大地と海の神の御業を此処に!“ポ・セイドン”ッッッ!!》
「グアァァァァァァァァ!!!!!」
―――――ジィユゥゥゥゥ……
分身体10人の魔力がすべて連結し、お互いの魔力を支え、引き立てながら魔法へと昇華されると、それは周りの大地すべてが沼と化し、その沼からは大きな竜を形どり、火竜のブレスをいとも簡単に飲み込んでしまう。
「…こいつは体全部が、水分多めの泥だよ!ブレスは効かない!!」
――――シュゥゥゥゥ…
泥で出来た竜は、火竜と同じくブレスの予備動作を真似をし、火竜を見下ろす。
「竜には竜を…って事かな?」
――――シィィィ!!!
泥の竜から放たれたのは、ウォーターブレイザーの強化版で、混合属性の泥で放たれた音速を超える泥の刃だ。
普通の水でウォーターカッターであの威力、なら研磨剤として、土を練りこみ、魔法で泥を無理矢理ウォーターカッターの様に使えば、火竜の体もいとも簡単に切断される。
しかし、これは前世でも知らない現象で、魔法の便利さと、イメージのごり押しで何とか形になった魔法だ。
「…この魔法は一人じゃ不可能なイメージ構成だから、他の分身体同士とのイメージの補完で作り上げた魔法だ。
…俺がした詠唱は、魔法のイメージを構築したんじゃない…これは、他の分身体同士の魔力を繋ぐための詠唱だ!」
ライアが詠唱で繋げたのは、魔法のイメージ…つまり、泥を生み出すイメージと泥を圧縮するイメージ、それを動かし、解き放つ操作を分割思考を駆使し、10人の思考で、一つの大きな魔法を作り出したのだ。
――――ズ、ズズズズ…ドン…
火竜の体は、ブレスの当たった個所から裂けていき、大きな音を立てながら火竜は倒れる。
「こんな本気初めてだよ…不謹慎かもだけど、楽しかったよ」
アインスは倒れた火竜に向け、満足げな表情を向けながら、そう声に出す。
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」
「うおぉ!?」
アインスは後ろから上がる大歓声に驚き、すぐさま後ろを振り返ると、怪我をした騎士団や冒険者達、それに森の入り口付近で倒れていたエルフ達も起き上がり、火竜の倒されるところを見ていたらしく、皆がこちらを見ていた。
「なんだあの竜!!めっちゃすげぇな!」
「よく、あの火竜を一撃で…これはたまげたね…」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
皆が大興奮冷めやらぬ形で各々が声をあげているが、まずしなければならないことがあるだろうと、すぐさま皆の元へ向かう。
「いや、あなた達すごい怪我してるでしょ!!早く後方に行ってくださいよ!!!」
「「「そりゃそうか!はははははは」」」
アインス達は、大怪我している者達を急いで、後方陣地に連れていく事にした。
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