改革、火竜討伐作戦5
―――火竜のブレスは騎士団と冒険者達のいる場所に向けて放たれ、大きな音を立てながら辺りを吹き飛ばす。
「…く…」
ある者は防御ごと吹き飛ばされ、ある者は衝撃で気を失い、まともに立っている者はいない程の威力。
「…くそ!大丈夫か!!大丈夫な者はすぐに起き上がれ!!起き上がれない者達に手を貸してやれ!!」
騎士団の隊長は運が良かったのか、特に大きな怪我はしなかったようで、すぐに怪我人の心配と指示を飛ばす。
しかし、被害は甚大であり、すぐに立ち上がって来れる者は少なく、討伐隊は壊滅状態であった。
「グガァァァァァァ!!」
「火竜め…これだけ傷を負ってもまだ倒れるそぶりも見せないか…」
皆が倒れ伏している所を、ブレスによる自傷から血を流している火竜が、こちらの止めを刺そうと近づいてくる。
「……“ウィンド・エッジ”!!」
―――パスン!
「グアァァ?」
火竜が討伐隊の止めを刺そうと近づいて行くのを、後ろから魔法を放ち、注意を引く者がそこにいた。
「…はぁ…はぁ……このまま…やらせておけるか…!」
人間を嫌い、人間を信用していないエルフが人間達の危機に助太刀に来ている。
それは本来、ありえない光景であり、異様な状況であった。
「グガァァァァァァ!!」
「…人間が…ここまでしたんだ…俺達で神樹様を守らねば…“あの子達”に申し訳が立たないんだよ!!!」
そんな異様な光景を生み出しているのは、ここ数日、アインスとともに過ごし、神樹の森にいるエルフの中で、人間に一番近かった“パテル”が一人で、火竜に挑んでいた。
「グアァァ!!」
――――ブゥゥン!!
「……くっ!!」
―――ザザァァ…
パテルは他のエルフと一緒で、弓矢か魔法での遠距離攻撃主体だ。
その為、火竜の尻尾の攻撃にも、大回りで避けつつ、コケてしまう。
「……はぁ…俺は…神樹様を守る為だと…掟だと決意をして…非道を行った…うっ!」
―――ズガン!!
パテルの話には火竜には通じない、だから、話の途中でも攻撃は来るし、それを避けるしかない。
パテルはそんな事は理解はしている。
だが、それでもパテルは話続ける。
「……あの子たちに恨まれても…しょうがない…それでも…神樹様を守る為と、自分を言い聞かせたんだ…」
パテルは火竜の攻撃を避けるたびに怪我は増し、ボロボロになって行く。
「…火竜…お前が来た時に、我々エルフは決断したんだ……」
パテルの目には微かに涙が浮かぶが、その涙はどう見ても、傷の痛みから出たものではない。
「…“神樹様は守れない…非戦闘員を逃がし、種として残そう”と……」
「グアァァァァァァァァ!!!」
パテルの思いを感じる訳もない火竜は、目の前の小さい命を押しつぶそうと攻撃を止めようとはしない。
「…はぁ…はぁ……なぜだ…。
…今になって神樹様を見捨てるのなら!!!…なぜ俺は!あの子たちを捨てなければいけなかった!!!」
「グガァァァァァァ!!」
――――ズガァン!!!!
「ぐあぁぁ!!」
パテルは火竜の攻撃をかわしきれず、地面を2,3度ぶつかりながら転がる。
「…はぁはぁ……俺は…神樹様を守る為に、あの子たちを見捨てたんだ…なのに、神樹様を捨てるなど…“プエリとクスト”の為にも、俺は諦められないんだよ!!!」
そのパテルの決意が篭った叫びは、戦場に響き渡るほどの力強さであり、パテルは力を振り絞るように、その場に立ち上がる。
「ガァァァァァ!!」
「……俺の命など…要らん!…あの子達の犠牲まで払って守った神樹様なのだ…俺の命くらい、いくらでもくれてやる!!」
パテルの目は死を恐れてはおらず、かと言って生きる意志も感じられない目をしていた。
(俺は…少しでも時間を稼ぐ…その代わりに…頼む…人間達が再起できるほど、時間を稼いで見せる!…だから!!!)
―――あの子達の死を無駄にさせないでくれ!!
「グガァァァァァァァ!!!」
火竜はそんなパテルをしぶとい羽虫を殺すように、尻尾を振りかざしてくる。
「…く!聖なる風の…精霊…よ!!」
パテルにその攻撃を回避する力は残っておらず、自身もそれはわかっているのか、精一杯両手を突き出し、魔法を緩衝材にすべく、残り少ない魔力をひねり出そうとする。
仮に緩衝材として、うまく衝撃を殺せたとしても、恐らく魔力が尽きて、そのまま気を失ってしまい、殺されてしまう。
(…それでも!1分1秒を!!)
「“アース…クエイク”ッッッ!!」
――――ガラララッ!!
「グギャァァァ!?」
「…な!!」
魔法が発動される前に、火竜の下の地面が裂け、火竜はバランスを崩しながら、裂けめに倒れる。
「パテル…お前、クスト達の父親なんだな…?」
「……アインス…?あ、あぁ…そうだが…」
パテルの近くにアインスが姿を現すと、パテルに先ほどの発言の確認を取る。
「なるほどね…てっきり、親がいないから追い出されたのかと、勝手に思ってたけど…」
「……一体、どうしたん「ぜりゃぁぁぁぁ!」ぶへほぉっっ!!!」
―――ダァァァン!!!
アインスはパテルがよくわかっていない顔をしているタイミングで≪格闘技≫を使った、腰の入ったパンチをパテルの顔にお見舞いする。
「…いきなり…何を…する!!…何か…俺が」
「プエリちゃんとクストは生きてる…俺達の村まで、魔物から襲われながらも、逃げて来たんだ…
だから、お前たちが、プエリちゃんの事を忌み子として、村を追い出したのは知ってる」
「…!!!」
パテルはアインスの言葉に驚愕し、呆然とする。
「お前がどんな気持ちであの子達を捨てたのかは知らん…それでも、お前は捨てた事実は変わらない。あの子達を引き合いに出して戦うのはやめろ!あの子たちが可哀想だ」
「………」
パテルはアインスが怒っている事も理解しているし、今言った子供たちを引き合いに出して、火竜の足止めをしていた事をあの子たちに失礼なのも理解させられる。
それを理解させられて、ようやく自分のしていた事を恥じながら、心の隅に湧き上がる、子供たちの無事に、喜びを感じてしまう。
「……アインス達があの子達を保護してくれたんだな…」
「あぁ…」
パテルは申し訳ないと感じつつも、2人の事が気になり、質問してしまう。
「…そうか…すまない…確かに、あの子達を捨てたのは俺だ…それなのに、その子達をだしにして、戦うのは違ったな…」
「……」
パテルは謝罪の言葉を出しているが、その言葉の節々からは、喜びがあふれ、アインスは少しイラっとしてしまう。
「はぁ…まぁその話はあとだ…今は、あの火竜の討伐をする為に俺は戻って来たんだ」
「…そうだったな…“ありがとうな”…」
パテルは人間を信用してなかった数日間の顔ではなく、まるで命の恩人に向けるような、優しい顔で、お礼を伝えて来て、アインスはどうにも、むかっ腹が立ち、何とも言えないもやもやを抱えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます