改革、討伐作戦前夜







――――ツェーンside




「それでは、皆さんをお願いしますねー」



「任せてくれよツェーンちゃん!エルフ達を安全にリールトンの街まで連れて行くから、そっちも怪我をしないようにな!」



アインス達からエルフ達を預かり、馬車に全員を乗せ、御者にエルフ達を頼み、保護隊の出発を見送る。



ツェーンは本当であれば居なくても構わない、形だけの随行員なので、保護隊について戻っても良かったが、火竜の襲撃がどの程度の脅威かライアはまだ分かっていない為、少しでも戦力をあげる為に森にツェーンを残していた。



(火竜が予想より全然強かったら、犠牲者を減らす為にも頑張らなきゃね)



ライアの分身体は1人1人ライアと同じ戦闘力を発揮でき、≪分体≫以外のスキルに関しては使うことが出来るので、多ければ多いほど戦力は倍増していく形になる。








「では、これより!火竜討伐作戦の準備の為、陣地の作成に入る!…冒険者達は近くの魔物たちがいれば、危険が無いように魔物たちを排除してくれ!我々騎士団が作戦本部とテントの設営を担当する!」



保護隊を見送り、討伐隊の騎士団と冒険者達だけになると、森の入り口付近に作戦本部を作るらしく、騎士の人が大きな声をあげながら、そう指示を飛ばしていく。




「よっしゃぁー!ツェーンちゃんが安心して眠れるように森の魔物どもを皆殺しにすっぞてめぇらぁ!!!」



「「「しゃぁぁぁぁぁ!!」」」





「………」



冒険者達は騎士の指示を聞いた後、ツェーンの方をちらりと確認するように目を向けられると、そのうちの一人がそう雄たけびを上げて、森の魔物をすべて狩りきるのではないかと感じるほどの勢いで、冒険者達が走りだす。




「……なんだ?冒険者達の士気が異様に高いな…」



「…まぁ悲嘆に暮れているようであれば困るが、士気が高いのは良い事だろう」




事情を知らない騎士の人たちは冒険者達の事を不思議に思うが、やる気がある分には問題ないだろうと放置される。



(なにか、考えるのがバカらしく思えてきたな…)



ライアは冒険者達の命だとか責任だとかを考えるのをやめ、もっと気楽に考えようと決めたようであった。








―――――アインスside




「ここが火竜を迎え撃つ場所か?」



「…あぁ…迎え撃つと言っても、火竜の動向を監視するための見張り台と、小さい倉庫があるだけの設備だがな…」



アインス達はパテルに連れられ、エルフ達の決戦場に案内してもらうと、そこは大きい木を工夫して、高所からの見張りが出来るようになっており、そこから火竜の動きを見張りつつ、戦いに備えるのだとか。



「……火竜はまだ、こちらに来ないようだが、それも時間の問題だ…」



パテルに言われ、高台の上から、森の外を見ると、遠くの空に、大きく旋回しながら辺りを行ったり来たりしている影が見える。



「あれが…火竜…」



近くではないので、実際の大きさはわからないが、空を旋回するスピードで、小さくないことははっきりとわかる。



(だが、やっぱり旋回しているのはなんでだ?実際に見てみると、何かを探しているような雰囲気も感じられるな…)



火竜はあの調子で当たりを旋回しながら、徐々に神樹の森に近づいてきており、このままのペースで近づいてくれば、あと1日で火竜との接触は確実らしい。



その事実をずっと目の当たりにしてきた監視達は皆、顔を青ざめながらも、火竜の動きに変化はないかと、熱心に火竜を見つめている。




「猶予はあと1日か…急がないとな…」



「……お前は諦めている訳ではないんだな…その部分だけは尊敬するよ…」



アインスの独り言にパテルは反応し、人間を一切信用していないはずのパテルから尊敬という言葉が出て驚いてしまう。




「君らエルフの口から人間を“尊敬”だなんて…もしかしたら、火竜はこのまま引き返してくれるのではないか?」



「…それで、神樹の森が救われるなら、俺はお前に奴隷として扱われようと構わんが?」




「………」



場の雰囲気を少しでも軽くしようと冗談を言うと、冗談に聞こえづらい、重い発言を返され、口を紡いでしまう。




「……冗談だ…」




「…仮に冗談なのだとしたら、言葉が重すぎるよ…」




「……今度からは気を付けるとしよう…それより、明日の準備だ…」




「行くぞ」とパテルに言われ、アルボラ達がある待っているであろう場所に向かい足を進めるアインス達。



(……今度からは…ね。はは!)



パテルの言葉の裏を感じながら、ライアはパテルと少しだけ仲良くなれた気がしていた。









――――――――――

――――――――

――――――







―――翌日




夜は交代で監視をしながら、朝を迎えたアインス達エルフ組。



火竜はもう、森のすぐ近くまで来ており、何時戦闘になってもおかしくない位置まで来ていた。




『こちらでも火竜を視認してます。騎士団はいつでも動けます』



『では、エルフ達の準備が出来次第、全戦力を持って火竜討伐戦を開始するぞ』




今はエルフ達と騎士団、領主邸にいる分身体達を通して、開戦の合図を計ろうとしていた。



「…我々エルフも覚悟はできておる…いつでも良いぞ」



領主の言った事をアルボラに伝えると、こちらも準備は出来ていると領主たちに返し、火竜を見つめる。




『よし、では皆の者!この街とエルフ達…守る者たちの為に必ず勝利をもたらすのだ!!火竜討伐作戦!始め!!』








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