改革、人気者?









――――冒険者ギルド アハトside





「アハトちゃん!俺らはポルコ村の防衛に向かうぜ!」



「俺達は南にある、俺達の故郷の村の防衛に行かせてもらうよ!」




「かしこまりました!魔物の数は不明ですが、かなりの数の魔物が出現する見込みですので、お気を付けて行ってらっしゃいませ!」




冒険者ギルドでは、逃げていた魔物の襲撃から、村々を守るための依頼を発行し、受けてくれるよう呼びかけをして、大体の村の護衛は大丈夫だと言えるだけ冒険者は依頼を受けてくれていた。



しかし…



「集まりませんね…」



「えぇ、さすがに火竜の討伐作戦にはさすがに挑めないと思ったのでしょう…私でもそう思います」




火竜の討伐依頼の募集も一緒に呼びかけているのだが、余りの危険に皆尻込みをしているようで、いまだに、ほとんど志願者は現れておらず、討伐隊に組み込めるだけの人数がいなかった。



その事実に、アハトとセルスが受付で悲嘆しており、どうしようかと考えを巡らせる。




「火竜の方は下りても、村の防衛には参加してくれているので、大変助かるのですが…」



「そうですね…」




ちなみにゼル達は神樹の森に一番近いとされる故郷のラーム村の防衛に出ている。




(あそこは対魔物用の防衛が無かったからゼルさん達には頼めなかったし…)




ゼル達は最初こそ火竜討伐に参加しようか悩んでいたらしいのだが

「…すまない、ラーム村には魔物から守るすべはないし、アインス達が火竜の討伐に動いてくれるなら、俺達は故郷を守らせてくれ」

と言って、ラーム村の防衛依頼に行ってしまった。




「どうしましょうか…」



「今の所、案は無いですね…いっその事。私達3人とギルドマスタ―についてる分身体も討伐に向かいましょうか?」



現状リールトンの街で、すぐに動かせる分身体は工房の3人だけだったが、討伐作戦の人員が集まらなければ元も子もない為、無理をしてギルドの4人を動かそうか?とセルスに聞いてみる。




「……それは、さすがに色々な意味でやめて欲しいですね…。

依頼処理や各部と連絡に、色々とやる事が尽きないですし…アハトさん達の働きが無ければ、恐らくギルドは回らなくなってしまいます」



今の冒険者ギルドは緊急事態なので、休みであった職員もフルで出勤してもらい、大急ぎで仕事を回しているのだが、それでもかなりギリギリであり、仕事の大部分をアハト達3人が捌いている状態だった。




「うぇぇ…う”ぅ”ぅぅぅ」



「書類が1枚、2枚、3枚、5枚、15枚…むむ?書類とは枚で数えるのだったか?重さであったか?あははははは」




受付の奥で、依頼の受理や整理をしているミリーは手を動かしながら大泣きをしているし、カズオは依頼書の数え方がおかしくなり、バグっているようだ。




「…すいません…ここを手伝います」



「…お願いします…」




アハトとセルスはギルドの現状を見て、ここも戦場なのだと再確認をして、重苦しくそう言葉を落とす。



(なら、火竜の件は、これ以上どうしようもないのかな…)



ふと、そんな思いが胸をよぎってしまい、諦めようかと考えてしまう。





「…おい、お前どうする?」



「…そうは言っても、俺達じゃ火竜なんて倒せない…それなら、最後までツェーンちゃんと一緒にこの街に残って、ここで戦って死にてぇよ…」



「馬鹿かてめぇ!それじゃツェーンちゃんも死んじまうだろ!ツェーンちゃんを守るために俺達が逃がしてあげなきゃだろ!」





(ん?)



ふと、1階で冒険者達の話し合っている声が聞こえ、気になってしまう。




「逃がすっても、ここから何処にだよ?王都まででも馬車で1か月もかかるんだぞ?」



「ツェーンちゃんのか弱い足だったら死んでしまうな…くそぉ…俺たちの命だけでツェーンちゃんを守れる未来が見えねぇ!」




どうやら、たまにツェーンの歌を歌わせているうちに出来たファンの冒険者たちが集まり、どうしたらツェーンを守れるかと話しているようだった。



(ツェーンが分身体なのは隠していないはずなんだけど…この人らは何に命を賭けてるんだ?アホか?)



意味の分からない所に一生懸命になっている冒険者達の会話に呆れてしまうが、これが俗にいうファン魂みたいなものか?と考えてしまう。



(ツェーンを守ろうとして、命を賭けるなら火竜討伐に参加してくれた方が助かるんだけどねぇ…ん?)



「……セルスさん…私達全員ではなく、1人だけ抜けるのは大丈夫ですか?」




「はい?1人抜けてもかなり厳しいですが…。

…その分私とアハトさん達が頑張ってくれるのならいけると思いますが…何か思いつきましたか?」




セルスは、アハトの顔を見て、何か思いついたのかと察し、1人が抜けた時の事を考えて教えてくれる。




「ちょっと心苦しいですが…冒険者達に少しだけ無理に動いてもらおうかと」












―――――――――――

―――――――――

―――――――







「みんなぁーがんばろうねぇー!!」



「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」




そこには最近は5日に一度くらいに開催されるとあって用意されたステージに立っているツェーンが、先ほど話し込んでいた冒険者達を鼓舞する光景が出来ていた。




「ツェーンさんの歌で、一部の冒険者たちが熱狂していたのは知っていましたが…これほどすぐ集まるとは…」



ライアがやったことは簡単で、ツェーンが職員代表で、神樹の森までの随行員として付いて行く事を周知させ、ツェーン自身に「…私…頑張るねぇー!」と健気っぽさを演出してみたら、続々と「ツェーンちゃんは俺たちが守ぉぉぉる!!」と冒険者が集まったという訳である。




「冒険者達には騙しているような気するので、あまり良い気はしないですが、緊急事態という事で」



火竜討伐は命を賭けるほど危険な物で、このような集め方をした後に冒険者達が多く死んでしまえば、ライアのせいであろう。



それでも、火竜の動きを放っておけば、リールトンの街の壊滅があり得る為、強引にでもするべきだと考え、実行した。




(…これは、ちゃんと責任持って、火竜を倒さないとね…)



ライアは心に冒険者達の命を背負い、心を奮い立たせる。





「ツェーンちゃぁぁぁぁん」



「任せてね!!!俺たちが火竜の1匹や2匹すぐさま片付けて来るからぁぁ!!」



「うぅおおおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」







「……ワァーイ…ミンナ、タノモシィー…」




ライアは奮い立った心が少しだけ萎えた気がした。








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