改革、領主 アイゼル・ロー・リールトン










「ハァーハッハッハッハ!すまぬな笑ってしまって…。

…私から見ても君は女性にしか見えなかったので勘違いしてしまったよ」



「いえいえ、服装も女性用ですし…勘違いされるような恰好をしている私が悪いですし…」



応接室にて、ギルドマスターとライアが目線で会話していると、領主に「どうかしたのか?」と聞かれ、ライアは思わず自分の正体を勢いのまま喋ってしまい、笑われてしまった。



「しかし、それだけ似合っているのであれば、見事な物だと感心したぞ?…貴族達の中には、似合わなくても、そういった装いをしている貴族が結構おるしな」



「…ありがとうございます」



領主はライアに、その話が本当かどうかはわからないが、気を使ってくれ、笑顔を向けてくれる。



「…と、今は火竜の件があったのだったな…今わかっている情報を聞かせてくれるかな?」



「はい」



領主は本題を思い出したようで、ギルドマスターに情報の報告を頼む。



「今現在わかっているのは、ここから東にある、神樹の森に向かって、火竜の進行が進んでいる事。

その火竜から逃げてきた魔物たちが神樹の森やリールトンの街周辺の街道などで多数発見されている事。

エルフ達からは火竜と戦闘する前に、非戦闘員の保護を要請されている事が、今わかっている情報です。」



ギルドマスターは火竜の動きで起きている異常をすべて話していく。



「…ふむ…何か動いておるか?」



「逃げてきた魔物たちから、近くの村を守るために冒険者達に依頼を発注しました。

…後は、エルフの保護の為、馬車などの用意をさせています」



「よし、ならば火竜の件は我々が動くとしよう…冒険者達の中に、腕の立つものが居れば、火竜討伐に参加してくれても構わないと伝えてくれ」



ギルドマスターがすらすらと、すでに決まっている事を報告すると、領主は火竜の討伐をすると、すぐさま決定する。



「…火竜を討伐するつもりですか…?」



「過ぎ去るのを待っても、こちらまで来るのであれば、どちらにしろ待っているのは死だけだ。

それであるならば、火竜たちと戦闘するエルフ達と合同で、火竜討伐に赴いた方が、勝率も上がるだろうて」




領主は、エルフ達をやられるのを見守った後に街で防衛に徹し、嵐が過ぎ去るのを願うのではなく、エルフ達と合流し、戦力の一極化する方が良いと、すぐさま判断したようだ。




「それに、エルフ達を見殺しにしては、人として終わるだろうしな!」




「…はは!…ご領主様は変わりませんね」




ギルドマスターはおどけたように言う領主の一言に、懐かしさを言葉に込めながらそう返す。




(やっぱり、この2人ってよく知っている仲っぽいよね?…リネットのお父さんってだけでは無さそうかも?)



ライアは、そんな二人を眺めながら、そんな印象を抱いていた。






「…では、冒険者にはすぐに依頼を作成して、志願者を募ります…ライア!頼む」




「…あ、はい!わかりました!」




ギルドマスターにいきなり話しかけられ、少し慌てるが、すぐに指示通りにアハト達を動かしていく。




「…ほぉ、リネットには聞いていたが、ホントに≪分体≫を使いこなしているのだね?」



ライアが分身体を使い、ギルドで動き出したのを話の流れで分かったのか、領主は興味深そうに聞いてくる。



「我々としては、迅速に連絡が出来るように、火竜討伐隊に何人か分身体を連れて行かせて欲しいのだが、それは可能かい?

この戦いに関しては強制するものではないから、断ってくれても、もちろん構わない」




どうやら領主は、ライアが戦うと思っていないらしく、命の危険がない分身体の連絡要員として、神樹の森まで同行してほしいらしい。




「すいません…自分も火竜の討伐に参加するつもりでしたが…」



「…なに?君がかい?」



どうにもライアの姿は戦えるような容姿ではない為、疑問が出たようだ。





「ご領主様、ライアは受付と冒険者を分身体でこなしており、今回の神樹の森で情報を得てきたのもライアですよ」



ギルドマスターは、領主にそのことを伝えていなかったらしく、領主は驚愕の顔でこちらを見る。



「そうなのか!?…私はてっきり受付業とリネットの工房だけだと思っていたが…」



「工房と受付、ここにいる私も分身体で、神樹の森に調査しに行っているのもそうですね?

私本人は母が出産された為、現在は故郷の村に戻って来ておりますね」



今やライアの出せる分身体は24人だ。リールトンの街では、やらせることがあまり無かった為、必要以上に出していなかったが、今はヤヤ村にいるのでフル稼働中である。



「なるほど…リネットに聞いたのは、ホントに一部だけだったのだね…」



リネットにどんな話を聞いたのかはわからないが、領主は呆れたような顔をしつつ、そう言いくくり、顔を引き締める。



「…君の凄さはわかった。しかし戦闘能力に関しては、どこまでできるのかはわからない為、君を戦力としては考えないが、それで大丈夫かね?」



「はい、私は邪魔をしないように個人で火竜に挑みますので」



ライアは元から単騎でも火竜の討伐に動くつもりであったので、迷いなくそう発言する。




「…そう言えるのが強者の証なのかもしれないね…。

わかった!ライア君の動きに関しては自由にしてくれていい。だが、先ほども言ったように連絡用に分身体は借りてもいいかね?」




「えぇ、では、リネットさんの所にいる分身体3人で、ひとまずは足りますか?」




「ここに1人、冒険者達の連絡用に1人、騎士達に1人…これだけカバーできれば、こちらは助かるよ」



工房には3人しかおらず、しばらくはリネットの手伝いや部屋の掃除が出来なくなってしまうが、今は緊急事態なので、しょうがないと割り切る。



「それでは、すぐさま工房に迎えの馬車を送る。

…他の者たちも、騎士たちに伝達!すぐに出発でいるように準備をさせよ!!」



「「ハッ!!」」



周りで警護していた護衛にそう命令を下すと、すぐさま2人が部屋を出ていく。



「それでは、私らも準備がありますので、これにて下がらせてもらいます」



「アンデルセン嬢…いや、ギルドマスタ―殿、そちらは頼んだ」



ライアはギルドマスターの退室に付いて行き、「失礼します」と部屋を出る。




「…ライア、ギルドの方は順調か?」



「はい、すでに依頼の発行は終わりましたので、これから冒険者達に募集をかける所です」



冒険者ギルドではセルスがこの緊急事態にすごく急いでくれて、すでにほとんど用意は出来ていた。



「よし、ならオレ達は保護したエルフ達の食料や必要品の手配しに行くぞ」



「わかりました」



ギルドは職員達に任せ、ギルドマスターはそれ以外でやらなければいけない事をする為に、馬車を急がせる。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る