改革、領主邸






会談場を後にしたアインス達は、案内をしてくれたエルフ、パテルを引き連れ、先ほど見つけた廃村まで戻って来ていた。



「よし、それじゃぁ出来るだけ被害の少ない建物を探して、そこで野営しようかな?」



村のほとんどが壊されてはいるのだが、それでも家としての機能が残っている建物があるかもしれないと考え、パテルに聞こえるようにこれからの動きを言葉に出す。



(いきなり、家に入った瞬間に何してるんだ!的にキレられるかもしれないしね)



一応配慮しているのも、先ほどパテルは連絡用と“監視”と言っていたので、何か問題のある行動をさせない為なのかもと考えた為であった。




「……すまない…少し、待ってもらってもいいか?」



「ん?あぁ」



パテルは家を物色することに特に何も感じていないのか、特に反応しなかったのだが、いきなり「ここで待て」といった感じに、村の外に向かって走って行ってしまう。



それからすぐにパテルは引き返してきて、アインス達の所まで戻って来る。



「…待たせたな…あっちに、俺の家が壊されずに残っていた…そこを使ってくれ」



「…え?…ここはパテルの住んでいた所だったのか??」



なんと、パテルは戻ってくるなり、衝撃的な事実を伝えて来る。




(監視や連絡用で選ばれたのかと思ったけど、ここの出身だから選ばれたのか)



「…いいのか?パテルの家を俺達人間が使っても?」




パテルもイライラエルフよりは理性があるみたいだが、基本的に人間は好かないはずなので、いい気がしないと思いそう聞いてみる。



「…あそこはもう…使う事が無い家だ…だから構わない…」



「そうなのか?…なら助かるよ」



パテルは何か、とても悲し気な顔をしている気がして、深くは聞かず、ありがたく家を使わせてもらう事にした。








―――――――――

――――――――

―――――――









「…ここか」



パテルの案内で家まで付いて行くと、村の外に出て、すぐにある小さい家が見えて来て、そこが目的地だと悟る。




「お邪魔します」



パテルの家の中は、家具があまりなく、リビングにはイスとテーブルしかなく、殺風景な部屋だった。



「…ここなら、自由に使ってくれて構わない…寝室も好きに使ってくれ」



パテルはそう伝えると「少し出て来る…」と言って、家を出て行ってしまう。



(なんだろ?監視という割にはよく俺達からよく離れるな…もしかして、監視うんぬんは口実で、ここに来たかっただけとか?…何か用事なのかな?)



ライアはパテルの行動に疑問を覚えながら、しばらく過ごす場所の確認を行い、待機することにする。









―――――ギルドマスター用ライアside





ただいま、ギルドマスターに付いて行っている分身体ライアは、馬車の手配や、冒険者達に依頼を作成をすませると、冒険者ギルドを離れ、馬車で領主邸に向かっている。




「…あのぉ…俺って、領主の館に入ったら怒られません?ただの平民ですよ?」



「リールトン家の当主はそんなことで腹を立てるほど小さい奴じゃない。

リネットとずっと一緒にいるんだろ?あれの親だぞ?」



リネットの親と言われて思うのは、実の娘を自由にさせている良い親だとは思うし、基本は優しい人なのかもしれないとは思う。



「…リネットさんは俺にも優しいですけど、領主様もあんな感じなのですか?」



「あの一家はみんな平民を蔑ろにはしねぇよ」



ギルドマスターの話を聞くと、どうやら、ライアは前世での知識で、貴族に対しての偏見を持ち過ぎているのかもしれない。



前世でのラノベ知識では、貴族や王族は平民を食い物にし、悪逆非道を繰り返す存在と心の隅で考えていたのかもしれない。



(…でもあれって、よくよく考えたらフィクションだしな…そうそうあるもんでもないか…)



疑問が解消され、少しだけライアの緊張がほぐれたあたりで、領主邸に到着したらしい。





――ガチャ


「いくぞ」



馬車の扉が開けられると同時にギルドマスターと外に出ると、恐らく街の中心であろう場所にそびえ立つ、白亜の城が目に入る。



「……えぇぇ…すごすぎません?」



この世界の建築技術は前世程ではないが、レンガやコンクリのような物を使った建物が多い中、これだけ大きな城を作るとなると、どれだけの費用と時間が掛かるのかと、呆然と立ち尽くしてしまうほど立派な領主邸があった。



(これで、伯爵邸?…王城とかどうなるんだろう…)




「おい、ライア?さっさと行くぞ!」



「あ、はーい!」









――――――――

――――――

――――






領主邸にお邪魔すると、メイドと執事が出迎えてくれ、すぐに待合室に通される。




「当主様はただいまご準備されておりますので、しばしこちらでお待ちください」



「あぁ」



案内をしてくれたメイドにギルドマスターが返事を返すと、メイドたちは部屋を退出していき、部屋にはギルドマスターとライアのみになる。





「…この後は、火竜の事を領主に伝えて、指示を仰ぐんですよね?俺って何をすればいいんです?」



この訪問もぶっちゃけ、ギルドマスターに「ついてこい」と言われてついて来ただけだったので、何をすればいいかとかは全く知らされていない。




「ん?あぁ…今回の火竜事件に関してはお前が発見者だからな。発見した者の意見も必要になるだろう。

…それに今回は少し急ぎだからな、ライアに冒険者ギルドに決まった事の伝達を頼みたいんだよ」




確かに、今の所、火竜の情報を人間側に持ってきたのはライアであるし、エルフの件もあるので、証言の為というのであれば、それもそうかと納得する。



伝達の件も、ステータスカード経由の連絡より、こっちの方がすぐに伝わるというおまけ程度なのだろう。



「なるほど…わかりました」




―――コンコンコン…



ギルドマスターと少し話が終わり、ライアの役目がわかった所で、部屋の扉がノックされる。





「どうぞ」





―――ガチャ


「失礼いたします。領主様の準備が出来ましたので、応接室までご案内いたします。」




ギルドマスターが入室の許可を出すと、領主の準備が出来た事を知らせる為に来たメイドが、領主の所に案内をしてくれるらしい。






そのメイドについて、領主邸の中を進んでいくと、立派な扉の部屋の前まで到着し、メイドは止まる。



「旦那様、冒険者ギルドギルドマスター、シュリア・アンデルセン様とライア様をお招きいたしました。」



『入れ』



メイドは領主の居るであろう部屋の扉に声をかけると、中から低い声で入室許可が出る。




―――ガチャ


「失礼します」




「…失礼します…」



ギルドマスターが部屋に入るのに続いて≪礼儀作法≫をフルに使いながら後ろを付いて行く。



(基本貴族と対面する時は≪礼儀作法≫を使っておけばいいって言ってたけど…大丈夫かな?)



スキルを覚える際に、必要な知識などは学んでいるが、実践は今回が初めてなので、どうしても不安になってしまう。




部屋の中には、椅子に座っている先ほどの声の主であろう人が、椅子に座っており、周りには3人ほどの護衛騎士が立っていた。



「やぁアンデルセン嬢…この間のリネットに会いに来た時以来だね…その子が噂の女の子だね?まずは挨拶をしようか。


私はこのリールトンの街の領主を任されている、リールトン伯爵家が当主、アイゼル・ロー・リールトンである。…よろしく頼むよ」



領主はギルドマスターと結構あっているのか、かなりフレンドリーな様子がうかがえて、どうやらライアの事もリネットとギルドマスターから少しだけ話がされていたらしい。



「…私は冒険者ギルド所属の受付兼…ギルド長のお手伝いなどをしているライアと申します。この度はどうぞよろしくお願いします」



ライアは緊張する心をなんとか制御し、自分の自己紹介をして見せると、一つ理解したことがある。




―――バッ!!!!


「………」



―――サッ!!!


「………」





(領主様にも俺が女って勘違いされてるじゃないですか!!どうして言っておいてくれなかったのですか?!ギルド長!!)





(……すまん)



さすがのライアも領主に自分は男だと打ち明ける勇気はすぐに出なかった。











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