改革、作戦会議









――――アインスside




「…なので、こちらとしては保護を求められるなら、準備は出来ているようだ」



「…そんな決まりが出来ていたと?…人間側では我々の事を100年前から人種として扱っていたというのか?」



アルボラに人間側で決まっている事を伝えると、案の定知らなかったようで、訝しむような表情でこちらを見て来る。



「ありえない!!人間がエルフを手厚く保護!?奴隷にはしない!?そんなわけありえない!」



「…そういわれても、100年前には法律で決まっているらしく、今でもそれは同じで、違反すれば処されるという話だ」



イライラエルフは、アインスの話した内容を嘘と決めつけるように、怒鳴り散らかしてくる。



(そんなこと言っても、そっちは100年引きこもってたんだし、事情を知らないのもわかるけど、それを俺に怒鳴ってもなぁ…

…どちらにしろ、信用しようが信用しまいが、保護を頼まれている以上、保護には動くしね)



ライアは交流する気になれなかったエルフの気持ちはわかるが、交流しなかったからこそ、わからなかった情報があるし、それを嘘だと言われても、ライアには真実だと証明するすべがないし、する意味もあまりないと思っていた。



「よさないか…仮にその奴隷制度などが残っていたのだとしても、我々にはどうする事も出来ん…アインス殿…事実はどうあれ、同胞の事を頼みます」



「………えぇ」



(う~ん…なんかずっと話してて思うけど、このエルフ達、基本失礼だよな…同胞を頼むって言うけどプエリ達は見殺してるわけだよね?…なんかなぁ…)




ライアはどうにも釈然としない気持ちを抱えたまま、族長に返事を返すが、心の中で色々と考えてしまっていた。








それからは、ギルドマスターに保護のための馬車の手配と保護するエルフ達の合流場所などを聞いた後、火竜に関してや、逃げてきている魔物たちの情報を共有することになった。






「―――火竜は、山の麓に降りてから、しばらくそこに居たのだが、つい先日、こちらに向かってゆっくりと進行してきている」



「魔物たちも、その火竜から逃げるようにこちらの神樹の森方面へ大量に逃げて来ており、村の中心部では何とか、防衛できておりますがジリ貧です」




護衛で付いてきていたエルフ達の教えてくれた情報、エルフ達の作戦と魔物たち、火竜の動きをまとめるとこんな感じである。



火竜が山を下りたのは一月前で、その時に逃げ出した魔物などが、森やリールトンの街方面まで来ており、今回の魔物の異常発生が起きた原因である。



火竜は、山の麓で一月ほど留まり、約5日前に神樹の森方面に向かって、空を旋回しながらゆっくりとこちらに向かってきている。



その火竜の移動に合わせて、さらに大量の魔物たちが、神樹の森に押し押せてきて、エルフ達は神樹の木の周りの村で防壁を築き、何とか魔物たちの撃退は出来たのだが…



「…今の防壁じゃ火竜の進行は食い止めれないって事だね」



(しかし、なんか火竜の動きが変に感じるね…山の麓で1月も留まっておいて、今頃動き出した。

それに、旋回しながらこちらに向かってくるのはなんでだ?なんか目的があるのなら、神樹の森とかリールトンの街じゃない気がするけど…)



どうにも火竜の動きが変に思ってしまうが、何を考えても進行してくるのは変わらないので、やる事は変わらないし、もしかしたら異世界の竜の常識ではこうゆうものなのかもしれない。



「…エルフの戦える人たちは、神樹の森の端で、火竜を待ち伏せして、そこで何とか食い止める…であってるかな?」



「えぇ…我々がどうにか、火竜の進行方向だけでも変えて見せる…だから、同胞の安全を…」




「わぁかったって!俺は別にそんなことしないし、させないから!」






エルフ達の作戦は基本的に、火竜の進行を変えることが出来れば大勝利と言った具合のカミカゼ戦法であるのだが、作戦が万が一成功し、火竜の進行方向が変わり、リールトンの街方面では無くなったら、同胞に非道な真似をしないで欲しいと、事あるごとに族長以外のエルフ達に言われるので、さすがに気が滅入る。




「…しかし、本当にアインス殿も火竜と戦われるので…?」



「ん?もちろんだよ。さっきも言ったけど、ここにいる4人はみんな、スキルという力で生み出された分身体…命の危機はないから、こっちの心配はしなくていいよ」



作戦を聞いた時に、アインス達も火竜討伐に参加すると言ったのだが、人間が神樹の森を守る戦いに命を賭けて参加するのが、よくわからないと、疑問を呈された。



しかし、ライアは命の危険は冒さないで戦えると≪分体≫の事は説明したのだが、スキル文化が無いからなのか、いつまでも本気かを聞いてくる。



「それに、少し試したいこともあるし、ホントに気にしないでくれ」



エルフ達にとっては、この戦いは遊びではないので、アインスの言葉は少し不謹慎かもしれないが、気持ちは偽れないと、開き直りながら話を進めていく。




「…では、3日後に避難を開始し、火竜の到着を待つという形でよろしいですかな?」




「えぇ、こちらは構いません…俺は神樹の木の傍には入れないのでしょう?近くにあった半壊した村で野営させてもらおうと思いますが、よろしいですか?」




「こちらに配慮していただき申し訳ない…村は放棄されているので、ご自由にお使いくだされ」




ギルドマスターは馬車の準備に1日ほど猶予が欲しいという事だったので、保護隊の到着予想日の3日後に再びここに来ると伝え、会談は解散された。




「…さて、野営の準備をして、少し危ないかもだけど、今日は寝とこうかな…?」



神樹の森に馬を走らせ、野営してる間も2日間寝ていなかった為、これから3日間をずっと起きて周囲の警戒をするわけにもいかず、今日は分身体全員で寝ておこうかな?と考えつつ、廃村に足を向けるアインス達。




「……ん?」



会談を行ったところにいた一人がこちらに向かってくるのがわかり、そちらを警戒すると、そこに現れたのは案内エルフであった。



「どうしたんだ?」



「…急遽、もしもの為の連絡用と監視役であんたらに付いて行く事になった」



「あぁ…そういえば、用事がある時の事を忘れていたな…」



もし仮に、何かあった際には、会談場に行けば誰かに会えるわけでもないのだし、連絡手段はあった方が良いだろう。とその考えに理解を示す。



「なら、しばらく一緒という事だろう?先に名前を聞いていいかな?」



今まで、案内エルフとかイライラエルフと個別認識していたが、しばらく一緒にいるのであれば、名前は知っておいた方が楽だ。



「…………パテルだ…」



案内エルフ改め、パテルは難しそうに顔をしかめながら、自分の名前を教えてくれる。



(教えたくなかったのね…それでも教えてくれるのは、同胞たちの為…って事かな?)



「んまぁ短い付き合いかも知れないが、少しの間よろしく頼むよ、パテル」



「…あぁ」



パテルは短くそう返事をし、アインス達の後ろに付いて、廃村があった所まで向かって行く。








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