改革、神樹の歴史








「おっと、すいません、少しだけ興奮してしまって」



「はぁ…」



ライアは火竜狩りに心を踊らせて、少しふざけた発言をしてしまったが、不謹慎だと改めて、気持ちを切り替える。



「火竜の討伐をお願いするわけでは無ければ、何を頼もうとしていたので?

小さい…までは言っていたが…」



「…そうじゃな、頼みたい事というのは、小さい子供らや非戦闘民の保護を申し出たいのだ」



「族長!?相手は人間ですよ!正気ですか!?」



アルボラの提案を聞いた瞬間に、監視をしていたイライラエルフさんがすぐさま木から降りて来て、族長に詰め寄る。



案内をしたエルフも知らなかったのか、声は出さないが驚愕の顔で族長を見ていた。



それ以外の護衛をしているエルフ5人は、その考えを知っていたのか、苦しそうに顔を歪ませるだけで、特に反対意見は出してこない。



「人間など、俺達を奴隷か魔石の入った動物としか見ていない!仲間の保護なんて、ただの奴隷としてこき使われるだけじゃないか!!」



どうやら、エルフの認識としては100年前からほとんど人間の印象は変わっておらず、自分たちを捕まえようとする敵として見られているらしい。



「…だが、ここに残っても種族としては絶滅してしまう…神樹様を守れるのならば、そのような提案はせぬ…

…ワシは、種族を残す選択を選ぶしかないのじゃ」



「…?神樹の木が守れるのならエルフが全滅してもいいという事ですか?」



つい、話の流れで、気になってしまったことをすぐに聞いてしまう。



「人間には関係…!」



「よい…どうせ、もうどうにもできぬ…我々エルフの存亡は、手厚く保護をしてもらえるかだけなのだ…

アインス殿…我々エルフの事を話しましょう」



アルボラはそこから、神樹の木をなぜ、エルフ達が守っているのかを語り始めた。





その昔、歴史で語られることが無いほど昔に、1つの苗木が芽吹いた。



その苗木は、魔物と同じで魔石を内に持ち、軽くだが思考も出来たという。



その苗木は他の木々よりも頑丈で、ほかの魔物が傷つけようとしても何ら問題はないほど、丈夫に、そして長きにわたり成長していった。



5000年も経てば、よほどの魔物に攻撃されなければ、倒れる事などないと言えるほどに成長したその木は、ある思いが生まれていた。



【寂しい】……その樹は魔石を持ち、なまじ思考が出来る故に、5000年もの間、ただただ成長する事しかできず、普通の樹は持ち合わせないはずの“心”が限界を迎えていた。



【動けない】

【何もできない】

【ただ、他の生き物が他の仲間と生活しているのをたまに見るだけ】




そんな【寂しい】という思いが溢れたその樹は、仲間を欲した。



そんな思いを受けてなのか、その樹に1つの実がみのる。



今まで5000年もの間、実をつける事の無かった己の初めての実を見て、その樹はその実に自身の持てるだけの魔力を注ぎに注いだ。



やがて、その実は知性を持った木々の化身“ハイ・エルフ”となって、生まれたのだと…




「…それが、我々エルフの祖先様で、エルフの誕生の秘密じゃ…」



「そうだったんですか…」



なるほど、それが本当なのであればエルフが仮に全滅したとしても、神樹が無事なら、またハイエルフが誕生する可能性があるから、先ほどの発言だったのかと、納得するライア。



(神樹を大事にするエルフもわかった…だとしてもプエリを排除したのは許さんけど)



プエリの件も神樹が万が一燃えてしまったら、種族の滅亡の可能性が上がってしまうから、追放したのだとわかったが、やり方は気に入らないし、仮に全滅してもエルフという種族は終わらない、といった精神はわかりたくもない。



「まぁ、話は分かった…神樹の木を守れないと確信したから、どんな扱いをされるかわからないが、せめて非戦闘員を人間達に保護してもらうって事ね?…エルフという種を残すために」



「えぇ…」



族長や他のエルフ達も苦悶の表情をしているが、人間に頼らなければいけない状況を嘆いているのか、神樹の木を守れない事を嘆いているのか、どっちかはわからない。



(どっちが理由でも、あまりわかり合いたくはない文化だね…)



すでにライアはエルフという種族にはあまり憧れなどは抱いておらず、むしろプエリを追放した件で、若干嫌悪しているまであるので、エルフ達の考えには全く共感は出来ないでいた。



「まぁ保護に関しては、今ギルドマスターに、火竜の件と一緒に聞いてみますので、時間を貰ってもよろしいか?」



「…今?…よくわかりませんが、かまいませんぞ?」



恐らくアルボラは人間には特殊な連絡手段があるのだろうと思い、特に聞き出そうともせず、許可が出る。



(普通の冒険者だったら、ステータスカードで連絡を取るんだろうけどねぇ)










――――――ギルドマスター監視用ライアside






「…と、いう訳です。やりましたね!火竜退治ですよ!」



「…あっっっっっほかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



事情を話し終えると、ギルドマスターの顔が青くなっていき、景気付けをしてあげないとと、少しおちゃらけると、ギルドマスターは顔を真っ赤にして、怒鳴って来る。



「なぁぁにが“やりましたね”だ!火竜なんぞにこの街を襲われたら、壊滅は不可避だ!」



「…そんなに強いんですか?」



「当り前だぼげぇぇ!!」



ギルドマスター曰く、鱗は固く矢が通らず、相手は空からブレスを吐いてくる20メートルほどの巨大な化け物で、基本竜種には手を出さないのが常識らしい。



「竜種は基本、自分のテリトリーから出る事は無いはずだが…どちらにしても、神樹の森を通過したら、確実にリールトンの街までは向かってくる方向だ……神樹の森で、進路を変えるか、山に戻るかしてくれるのを祈るしかないのか?」



「俺は神樹の森で戦う予定ですけど…どうします?」



「……お前…ありえないこと言っている自覚あるか…?」



ギルドマスターは、分身体がやられても命の危険はないライアだから言えるセリフだなと、ある意味関心しながら、今後の動きを指示する。




「ふぅ…ひとまず、領主の所に話を持って行き、街としての動きは領主に任せるしかない…冒険者達にはリールトンの街周辺の村々に、火竜から逃げてきた魔物たちが来ても大丈夫なように特殊依頼の発注だ!…もちろん報酬もたんまり出してな!!」



「了解です」



ライアはすぐさま、アハト達3人を使い、依頼の発注と領主への謁見願いを送る。



「そして、エルフ達の保護の件だが、これは領主の問題ではあるが、了承しても大丈夫だろう。

エルフ達にはそう伝えてくれ」



「…いいんですか?領主様の指示を待たなくて?」



「エルフに限らず、亜人種たちはこの国で100年前から保護の対象になっているんだよ

だから、貴族は全員そうすることを学院で学ぶし、護らなかったら法的に処罰される可能性が高いんだよ」



100年前に亜人たちを開放し、その後の法律などが変わって、助けを求める亜人はきちんと保護をするように法律が定められているのだとか。



(それでも、この100年間、一切関係が変わらなかったのは、それだけ100年前以前の亜人狩りなどが原因なのかな?)




ライアは種族間に出来た溝は深いなぁ…と感じつつ、アルボラ達にその情報を伝えることにした。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る