改革、調査開始と
――――アインスside
ギルドマスターに調査の件を話し合ったその翌日、アインス達は神樹の森に向かうべく、街で馬を2頭借りて街を出発していた。
(そういえば、分身体だけで街を離れるなんて、今回が初めてか…)
今回の調査は、ライアの懸念から発生した正規の依頼ではない為、アインス達4人だけで神樹の森に向かっている。
(ダンジョンに篭る時は、常にだれかとパーティを組んでいたし、そもそも依頼をあまりやってなかったしな)
アインス組の主な目的は、お金稼ぎではなく、魔物の討伐で稼げる経験値とスキルの経験値が主である為、ダンジョンばかりに篭っていた。
未だに、野営は分身体だけで、何日もこなせないので他の冒険者に手伝ってもらっているわけだ。
「まぁ、主にゼルさん達だけど…」
ゼル達は、アインス達のダンジョン攻略を好き好んで手伝ってくれて、かなり助かっているし、ゼル達も4層の魔物に安全に挑戦できると、お互いに利がある良い関係を築けていると思う。
……まぁゼル達が手伝ってくれる理由にタリスの思いがあるのは、触れないでおく。
「……こんな近くで、もう魔物か?」
そんな事を考えながら、アインス達は馬を走らせていると、前方の茂みに魔物が隠れているのを≪索敵≫で察知する。
「あれは…オークか?…こんな何もない所にオークが現れる物なのか?……“アースボール”」
――――ドゴッ!
「ぐぎゃっ……」
茂みにはオークが1匹だけいたのを確認すると、アインスは馬上から魔法を飛ばし、オークを始末する。
(…普通の魔物は自分の住んでいる場所からはまず出たりはしない…それでもたまに、自分の縄張りに近い街道なんかに現れたりはするけど…ここの周りに森なんてないぞ?)
これは魔物の習性なのかはわからないが、基本魔物は己の生まれた森やダンジョン、ほか色々な場所からは離れたがらない。
前世でも野生の動物に持ち合わせている、縄張り意識というものがあるみたいなのだ。
なので、周りに縄張りが無さそうなこの平原でオークが居るという事に違和感しかない訳だ。
「ここから一番近いのが…やっぱり、神樹の森…か?」
直線距離で言えばここから近いのは神樹の森だろうが、馬で飛ばしても2日はかかる距離だ。仮に神樹の森が住処だったとしても離れ過ぎである。
「エルフに襲われて逃げてきた?…いや、魔物がそんなので逃げるなら、当の昔に逃げてきているだろうし…他の脅威か?」
ライアはどちらにしても、神樹の森で何か起こっているのなら、行くしかないかと、馬を再び走らせる。
――――――ライアside
「ん~…どのみち2日は掛かるんだし、今考えても多分わからないしね…神樹の森に着いたら考えよう」
「…?どうしたのライアねぇちゃん?」
「あぁごめんねプエリちゃん…どこまで教えたっけ?」
アインス達の知り得た情報を考え込んでいたライアはプエリの一言で我に返る。
「えっと…いまはまほうのところ!」
「あぁ、ここだったね…ならこれが、水で、こっちが土って読むんだよ?」
今現在、ライア本人はプエリに字の勉強を教えていた。
考えればわかる事なのだが、プエリは神樹の森の村で、3歳ほどで村を出されている為、喋りは良いが、読み書きを勉強できていなかった。
クストは辛うじて読みは出来るらしく、問題はなかったのだが、来年のプエリの誕生日に読みが出来なかったら、ステータスカードを使った際に、読めないでステータスが分からないといった事態になると、急遽勉強をしているというわけだ。
「みず…つち…みず…つち…」
「ふふふ…そろそろ、クストととぉさんが帰って来るし、リビングに行ってお昼にしようか」
「おひる?わかった!」
畑仕事を終わらせた2人がこちらに向かってくるのがわかり、プエリとかぁさんに伝え、家族5人で昼食を取る。
「かぁさん、お腹の調子はどうだ?」
「とぉさんってば、それ毎日聞いてるわよ?ふふふ…」
実はまだお腹の子は生まれてはいないのだが、出産予定日がもう2週間を切っていて、とぉさんは毎日かぁさんの体調を心配している。
ちなみに、この世界の医療はほとんど進んではおらず、骨折したら、傷薬で直すか、布で巻いて、気合で直すのが主流なほどなので、出産予定日とは妊娠がわかり、大体これくらいに生まれるだろうと産婆の今までの経験からの予想で出されている物だ。
それでも、妊娠したのが10か月ほど前位だと思うので、かなり正確に予想はされているとは思うが。
「あたらしいあかちゃん…こんなふうにうまれるんだね…!」
「そうよ~?この中から、プエリの妹か弟が出てくるのよ?」
「おぉぉぉ!」
プエリは、自分にも姉妹が出来るのという事に興奮しているのか、目をキラキラと輝かせながら、大きなおなかを優しく触れる。
「…げんきにでてきてねぇ」
プエリは優しい顔でそういうと、その場にいる全員も優しい顔でほほ笑んだ。
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――――――――――
―――――――――
昼を過ぎてからは、プエリの勉強も再開しつつ、分身体を森に向かわせ、ここ最近ずっとやっている幻魔法の練習を開始する。
「……“ファントム”!」
――――ほぁん…
幻魔法“ファントム”は自分の≪分体≫を魔法でも再現しようと、自分自身の幻を生み出す魔法として考えたのだが…
「…やっぱり、物がつかめないよなぁ…どうしよ?」
ファントムで生み出した幻影は、物を持ち上げたりすることが出来ず、ただ動いて喋る事しかできないのだ。
「…それに、魔法を発動させた個体から、離れすぎると、魔力のパスが切れるのか分からないが消えてしまうし…」
今の所、幻魔法で≪分体≫のような使い方をしようとすれば、物は持てないが、お店の呼び込みをしたり、人と話して情報集め?みたいな事ぐらいしかできる事は思いつかない。
「まぁ、これでもだいぶ形にはなったと思うけど…せめて、物が持てれば、色々とやれることが増えそうなんだけど…」
ライアは、ファントムの物が持てない問題がどうにか出来ないかを考えるが、すぐには答えが出ない。
「…ん~?…持てないのをどうにか…いや、ん?……別に幻魔法だけでやろうとしなければいいのでは??」
今まではずっと幻魔法だけで、どこまでやれるかの練習をしていたせいで、少し頭が固くなり、この考えに至ることが出来なかった。
「そうじゃん…幻だけじゃ動かせないなら、土で人形を作って、幻で姿を変えればいいだけじゃん…」
ライアはこんな簡単な事をなんですぐに思いつかなかった!…とがっくりと、うなだれてしまう。
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